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舞台感想 宝塚歌劇花組公演 二人だけの戦場

梅田芸術劇場メインホールで行われた、花組公演二人だけの戦場を観てまいりました。
「二人だけの戦場」の初演を知らないくせに、
「再演かあ~ 正塚先生か~ まあ、どっちでもいいかな~」
なんて、低めのテンションで、チケットを申し込んでいました。
そしたら、なんと! 
日頃、全然当たらない梅芸が当たり、
日頃、お世話になっているイープラスも当たり、
マチソワで観ることになってしまいました。

こういう時に限って当たるのよねえ~ 一回で良かったのにな~
なんて、ずうずうしいことを思っていましたが……

感動……

もう、本当に、正塚先生、ごめんなさい。
久しぶりにちゃんとしたラブストーリーを見せて頂けて感動です。
それに、先生のご指導が良いのか、すごく芝居が良い!

この作品、かなり好きです。

注! ネタバレ、あらすじありの舞台感想です。

物語の設定はわかりやすい戦争ものです。
他民族国家である架空の連邦国家で独立を目論む民族があり、連邦国家としてはそれを阻止したい。
独立したいと考える民族は、人として見下され厳しい税をかけられているから独立をめざしているわけで、その目的の為にテロを起こしている。
連邦国はそんなテロ行為を見過ごすわけにはいかない。

だがそもそも、連邦国がその民族を尊重し搾取しなければ、民族は連邦国に協力し、争いのない平和な国ができるはずなのだ。

主人公シンクレアはそんな理想を信じるエリート士官で、自ら志願して辺境の地ルコスタの基地に赴任する。
当初、基地の司令官ハウザー大佐とルコスタの議長シュトロゼックは共存の道を模索していた。
ハウザー大佐はシンクレアにとって理想の上司。テロに対して過剰な反応を見せずに火種を大きくしないように対処していた。
そして、シュトロゼックもテロをやめさせようとしていた。
だが、それぞれの側にハウザー大佐やシュトロゼック議長とは反対の考えを持つ者がおり、独立はさけられない流れとなる。
とうとうルコスタは独立宣言をし、連邦国は手を出せなくなってしまった。ハウザー大佐は、連邦国が攻撃の大義名分を作るために自国の兵士を犠牲にしようとしていることを知り、兵士を守るために英断しようとする。
が、それは国家に対する裏切りだと部下のクェイド少佐はハウザー大佐を殺そうとし、シンクレアはハウザー大佐を守るためにクェイド少佐を撃ち殺してしまった。

物語は、シンクレアが上官であるクェイド少佐を撃ち殺した罪に対する裁判のシーンを挟みながら進みます。

これがなかなか良くできた構成で、物語の流れがよくわかる上に、裁判シーンがアクセントになっていて物語がだらけません。

そして、謝先生の振付のおかげか、兵士の行進や匍匐前進までダンス的。
群舞や組んでのダンスも魅力的で、ミュージカルとしても本当に楽しめる作品です。

ところどころ、笑いのネタが入るのですが、これも悪くない。
私は笑いのネタがいつも失笑で終わってしまうことが多いのですが(カジノロワイヤルなんて全部苦笑)、今回はせっせとひとこちゃんの足を踏みに行くれいちゃんがかわいかったり、ダジャレのくだらなさが一周回って面白かったり、お盆で殴られるひとこちゃんに爆笑したり、それなりに楽しめました。

ラブストーリーとしても、丁寧に描かれていて、久しぶりにちゃんとしたラブストーリーを見た気がしました。
連邦国側の士官シンクレアと、独立国側の娘ライラ。
綺麗な踊り子だと印象に残る冒頭から、偶然に出会って助け、シュトロゼックの娘であることを知って距離が近くなり、祭りで気持ちが高ぶり惹かれあう。でも、テロの疑いを兄にかけることで対立する。
人と人が惹かれあうのって、惹かれる一辺倒ではなくて誤解や不安で対立しながらもやはり好きだって感情が波のように揺れ動いている方が観ていて納得できますよね。そして、独立宣言後は、シンクレアとライラの関係は敵になってしまう。そうなると一層相手を想い、心配する気持ちがあらわになってくる。ライラがシンクレアの名前ティエリーを口にする時には、もう、どうしようもなく愛し合っているけれど、別れなくてはならない。
めちゃくちゃクラシックなラブストーリーなのだけど、思わず涙ぐんでしまったし、周りからもすすり泣く声が聞こえていました。
久々の王道ラブストーリーに、満足、満足。

それに男の友情物語としても、よくできています。
シンクレアとクリフォード。
ハウザー大佐とシュトロゼック議長。
そして、シンクレアと同じく他民族の女性を愛したラシュモア軍曹もシンクレアに友情めいた尊敬を持っていましたしね。
ライラの兄アルヴァだって、シンクレアにシンパシーを感じているところがありましたから、立場が違えば親友になっていたかもしれない。
シンクレアを恨む兵士ノヴァロだって、ダントンやザッカという仲間に抱く感情は男の友情でしょう。敵役といえど、単なるごろつきではないのですよ。
裁判シーンを挟むことによって、シンクレア側と反シンクレア側というように対比させるので、ついシンクレア側に感情移入しがちです。
でも、登場人物の男たちは、皆戦いに命を投げ出すような骨太な男たちばかりで、本当のクズ男はこの物語にはいない感じです。

だから、男役が皆かっこいい!!

冒頭、地をはうように訓練する兵士たちがでてきます。ノヴァロのようなたたき上げの兵士たちの姿です。そして、そのあと白軍服の集団が出てくる。
軍隊の中にもあるたたきあげの兵士とシンクレアのようなエリートとの身分差がさりげない伏線に思えます。
そして、その白軍服の集団は、眼福! よだれもの!
そして、楽し気な酒場のシーンとなり、ライラとアルヴァの踊りと、
スピーディーに場面が進むので、観ていて飽きません。

そして、ライラとの出会いのきっかけとなるノヴァロたちとアルヴァのトラブル。
花組に帰ってきた綺城ひか理さん演じるノヴァロの憎々しさが良かったですね。同じ連邦軍といえど身分差はあり、なりたての士官に従わなければならないたたきあげの兵士であるノヴァロ。そんな悔しさがにじみ出ていました。無邪気なほど清々しく正論を言うシンクレアとの対比が感じられて、後にシンクレアを苦境に陥れる伏線になっていたと思います。

そして永遠輝せあさん演じるクリフォード。こちらは、心底友達思いの好青年。現実的でシンクレアよりも世慣れている感じだけれど、シンクレアに対しては純粋な友情を感じている存在で、裁判の弁護にもシンクレアを案じる本気さが感じられてよかったですね。
一層、お芝居が上手くなっておられるように思いました。

そして、アルヴァを演じる希波らいとさん。
めちゃめちゃ良い! 
スタイル抜群でビジュアルも美しい方だけれど、今までは線が細くて弟キャラな感じがしていたんですね。
でも、今回のアルヴァ役は骨太な印象。貫禄すら感じました。
それに歌が素晴らしくて。すごく伸びやかで、これからが楽しみです。
真ん中の似合う男役さんに成長なさりそうですね。

そして私が好きな娘役さん愛蘭みこちゃん。DreamOnの時にダンスの上手なかわいい子だなあって目を奪われてから(もう、4年前ですか!)
ずっと注目しています。彼女の持つ空気感が好きですねえ。

そして、柚香光さんと星風まどかさん。
どちらかというと色気のある大人の男という印象の柚香さんですが、今回の役は初々しさにあふれています。理想や正論を恥ずかしげもなく口にしてしまうシンクレアの姿には幼さすら感じるけれど、だからこそいつまでも変わらないでいると断言できる純粋さがあるのだなあって感じます。
でも、別れを経験し、戦いを重ねるうちに気づけば憂いを秘めた大人の男に変貌しています。いやあ、どこをとっても美しい。
そして、まどかちゃんのライラ。踊り子として登場するライラの色っぽさは、シンクレアの目を奪ってしまう魅力がありましたね。でも、素のライラは野生の猫のような自由人。用心深くて気まぐれでしなやか。シンクレアを翻弄しながら、気づけばシンクレアを一途に愛している。近づけば逃げてしまい、離れれば追ってきそうな野性味のある魅力的な女性がぴったりで、ティエリーの名前を呼ぶシーンは涙なしには見られません。
本当に、ぴったりのトップコンビになられたなあって思います。

戦争が人の幸せを壊すものだと人類は知っているのにやめられない。
それは現実で、今のウクライナやスーダンの情勢でも同じ。
武力による制圧を狙う人間の行為に対して、平和を願う人間の行為が虚しく、徒労に終わってしまう理不尽さは嘆くしかないのか。
だが、それは徒労ではなく救いであったと考える人間もいて、ちゃんとしたラブストーリーありながら、それだけで終わらない上質の人間物語だったと思います。

今も世界のどこかで戦争によって人の命が奪われている現実の中で、こうして上質の芝居で涙することのできる日本に生きている幸運をしみじみと感じてしまいます。
世界が平和になることを祈らずにはいられませんね。


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