魔法少女の系譜、その12~『魔法のマコちゃん』と『さるとびエッちゃん』~
前回までの数回を、『魔法のマコちゃん』の分析で費やしましたね。この作品については、今回で、終わりにします。
次の作品へ行く前に、少しだけ、落ち穂拾いをしておきましょう。
魔法少女であることと、直接の関係はないのですが。
『魔法のマコちゃん』における人魚の描写について、興味深いことがあります。
二〇一四年現在の私たちが、「人魚」と言えば、「上半身が裸の人間型で、下半身が魚」の女性を思い浮かべるのが、普通でしょう。
ところが、『魔法のマコちゃん』に登場する人魚は、違うんですね。
どう違うかといいますと、人魚は、みんな、足もとまであるロングワンピースを着ています。いや、人魚だから、足ではなくて、尾鰭【おびれ】ですね。
ワンピースの裾から、鰭【ひれ】だけが覗いた状態です。肌が見えているのは、顔と手だけです。人魚たちは、スカートの裾をなびかせて、水中を泳ぎます。
なぜ、人魚を、こういう造形にしたのでしょうか?
以前に書いたとおり、『魔法のマコちゃん』は、日本で初めてアニメに人魚を登場させたといえる作品です。日本に「人魚像」を定着させる上で、先駆的な役割を果たしました。
その作品で、こういう造形にしたことには、必ず、意味があるはずです。
このあたり、当時の製作陣に、お話をうかがいたいですね。
残念ながら、私には、何のコネもありませんので、どなたかが自主的に語って下さるのを、待つしかありません。
私の、働きの悪い脳細胞を使って、推測してみますと。
『魔法のマコちゃん』放映当時の日本では、子供向けの作品で、肌の露出はまずかったのではないでしょうか。
胸の部分を覆った、ビキニスタイルであっても、当時としては、刺激が強すぎると思われたのかも知れません。昭和四〇年代の話ですからね。
この点で、『魔法のマコちゃん』より、ほんの少し遅れて放映が始まった、『海のトリトン』との比較が、面白いです。
『海のトリトン』に登場する人魚ピピは、上半身、裸の女の子なんですね。まさに、私たちが思い浮かべる「人魚」の原型です。
『海のトリトン』のアニメが放映されたのは、一九七二年(昭和四十七年)です。『魔法のマコちゃん』は、一九七〇年(昭和四十五年)から、一九七一年(昭和四十六年)にかけて放映されました。わずか一年しか、差がありません。
この一年の間に、子供向け作品の常識が変わるほどの、価値観の変動があったのでしょうか?
そうではない、と思います。
これは、『海のトリトン』に、手塚治虫先生の原作があったことが、大きいと思います。原作の漫画は、『魔法のマコちゃん』の放映より早く、一九六九年(昭和四十四年)に、連載が始まっています。
原作漫画でも、ピピは、上半身、裸の女性として描かれています。これを忠実に踏襲したのでしょう。
手塚先生の威光があったからこそ、当時としては画期的な「上半身裸の人魚」を登場させることができたのではないでしょうか。
結果的に、『海のトリトン』が、造形的には、日本の人魚像を決定づけました。
『海のトリトン』以降の作品で、「ロングワンピースを着た人魚」なんて、登場しませんものね。
と、落ち穂拾いは、これで終わりです。次の作品へ行きましょう。
次は、『さるとびエッちゃん』です。
『さるとびエッちゃん』は、『魔法のマコちゃん』の後番組です。一九七一年(昭和四十六年)から、一九七二年(昭和四十七年)に放映されました。
この作品は、『魔法のマコちゃん』とは、まったく作風が変わりました。『魔法のマコちゃん』はシリアス路線でしたが、『さるとびエッちゃん』は、完全に、ギャグ路線です。
また、主人公も、中学生から、小学生に若返りました(笑) 『魔法のマコちゃん』で、ティーンの視聴者を意識したのが、再び、完全な子供向けにターゲットを据え直した感じです。
『さるとびエッちゃん』の主人公は、その名も猿飛エツ子です。通称、エッちゃん。
「猿飛」という名字からは、猿飛佐助が思い出されますよね? どうやら、彼女は、猿飛佐助の子孫らしいです。
「らしいです」というのは、そのあたりのことが、作中で、はっきり語られないからです。
この作品は、魔法少女ものの中でも、設定が語られないことでは、ダントツ一位ではないでしょうか。
エッちゃんは、さまざまな「超能力」が使えるのに、なぜそんな能力を持つのかが、ほとんど語られません。
エッちゃんは、ある日、三つ葉小学校という学校に、転入生としてやってきます。そして、「超能力」を披露して、たちまち学校の人気者になります。
この作品には、魔法や魔力といった言葉は、一切、登場しません。
代わりに登場するのは、「忍術」という言葉です。エッちゃんの超能力は、すべて「忍術」だというのですね。
この設定に従うならば、エッちゃんは、魔法少女ではなくて、忍者少女です。ニンジャ? ニンジャナンデ? アイエエエ!(笑)
しかし、その能力たるや、私たちが普通に思う「忍術」とは、かけ離れています。
「猛スピードで走れる」くらいは、まあ、忍術のうちですね。「小柄なのに、怪力」も、忍術と言えないことはなさそうです。
ただし、どちらも、ギャグアニメらしく、誇張された表現で描かれます。
でも、「どんな動物とも、自在に話せる」のは、ファンタスティックな能力ですね。エッちゃんの能力の中で、これが一番、印象が強いです。私が、動物好きなためでしょうか(笑)
エッちゃんが、三つ葉小学校に来る前、どこで何をしていたかは、作中では、描かれません。わずかに、ど田舎の山奥の村にいた、と語られるだけです。
エッちゃんが「忍術」を使えるならば、彼女がいたのは、忍者の里なのかも知れません。そこに住むのは、全員、忍者なのかも知れません。生まれた時から、みんな、忍術の修業をしているのかも知れません。
これらは、最後まで、謎のままです。
けれども、エッちゃんの能力の説明として、「忍術」を持ちだしたのは、画期的です。
「忍術」ならば、「修業で身につけられる」可能性が高いからです。
これまでの魔法少女ものでは、魔法の力を得るには、二つの方法しか、ありませんでしたね。
「生まれつきの魔法少女」か、「魔法道具による魔法少女」か、どちらかです。
エッちゃんは、第三の道を示しました。「修業による魔法少女」です。
それは、非常に幼い時から、厳しい修業を積まなければならないのかも知れません。
とはいえ、「修業を積めば、もとは普通の人間でも、魔法少女になれる」可能性を示します。エッちゃんほどではなくても、「うちのペットの犬と話す」くらいは、できるようになるかも?と、夢が膨らみます。
少なくとも、当時、子供だった視聴者には、そういう、ワクワク感を届けたのではないでしょうか。
今回は、ここまでとします。次回も、『さるとびエッちゃん』が続きます(^^)
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