魔法少女の系譜、その100~『ヤッターマン』と口承文芸~


 『魔法少女の系譜』シリーズが、とうとう、100回目を迎えました。100回書いても、まだ、一九七〇年代の作品の話から、抜けられません(^^;
 ここまで付き合って下さっている方々には、言葉もないほど、感謝しておりますm(--)m

 もし、ここに至って、初めて読むという方がおられましたら、初めまして。
 前回までのシリーズを、すべて読んでから、今回も読んでいただけるのが、望ましいです。とはいえ、100回を越えるものを、すべて読むのは、ハードルが高いですね。好きな作品の話だけ読みたい方も、いらっしゃるでしょう。そういう方も、歓迎します。

 さて、今回は、前回に続き、『ヤッターマン』を取り上げます。『タイムボカンシリーズ』の第二弾ですね。

 『ヤッターマン』は、『タイムボカン』に続き、少年と少女の二人主人公です。事件が起こると、中学生のガンちゃんとアイちゃんが、ヤッターマン1号と2号に変身し、イヌ型ロボットのヤッターワンに乗って、出動します。

 前回に書いたとおり、普通の中学生であるはずのガンちゃんとアイちゃんが、なぜ、ヤッターマンに変身できるのか、理由は、作中でまったく説明されません。
 けれども、二人の変身シーンを見ると、それまでの変身ヒーロー/ヒロインのお約束を踏まえていることが、わかります。
 二人が変身ヒーロー/ヒロインであることは、秘密です。二人とも、物陰に隠れて変身します。変身すると、特定のコスチュームをまとい、武器になる魔法道具を手にします。顔には仮面をかぶって―目もとだけ隠れるドミノマスクです―、一応、正体を隠しています。

 ドミノマスクをかぶったところで、二人の正体は、バレバレだと思うんですけれどね(笑) 冷静に考えれば、二人とも、中学生ですし、幼さは隠しようがないでしょう。
 しかも、ヤッターワンに乗って出動する時、ヤッターワンは、消防車のようにウーウーとサイレンを鳴らし、チンチンと鐘も鳴らし、大騒ぎで出動します。ヤッターワンが出動するのは、「秘密基地」からなんですが、これだけ大騒ぎをしたら、秘密も何もありませんね。近所の人たちには、バレていたと思います(笑)

 でも、そういう細かいところを気にしないのが、『ヤッターマン』です(^^)
 ヒーローやヒロインに変身する理屈がなくても、現に二人は変身しているので、気にすることはありません。二人の正体が秘密と言ったら、秘密なんです。秘密基地と言ったら、秘密基地なんです。

 コメディだから許される、省略ぶりですね。
 この点、『ヤッターマン』は、現代的な創作物語の作法を、わざと破棄しています。理屈がなくても許される、口承文芸の作法に、逆戻りしています。

 例えば、民話の『桃太郎』は、鬼と戦うヒーローですが、なぜ、桃太郎が、突然桃から生まれて、鬼を倒すヒーローになるのか、理屈は、まったく説明されませんよね。「そういうもの」ということで、話が進行します。
 『ヤッターマン』は、これと同じですよね。

 『ヤッターマン』の放映が開始された昭和五十二年(一九七七年)には、すでに、日本のテレビアニメの歴史は、十年を越えていました。その間に、アニメの物語は進化して、口承文芸からは、ずっと離れた所にまで到達していました。
 そういう時期になって、口承文芸に「退化」したように見える作品が現われて、大ヒット作品になるのが、面白いです(^^)

 『魔法少女の系譜』シリーズを、ずっと読んできて下さった方なら、おわかりでしょう。物語の進化は、一方方向に進むばかりではありません。必ず、途中に、「先祖返り」したように見える作品が現われます。それが、ヒット作になったりするのです。
 『ヤッターマン』が、まさに、そういう作品でした。

 「退化」したように見えても、『ヤッターマン』は、やはり、現代的な作品です。口承文芸には登場しなかった要素が、いくつも登場しています。
 一つめは、血のつながりのない少年少女、二人主人公という点です。親子でもきょうだいでも夫婦でもない少年少女が主人公なのは、口承文芸には、ほとんど例がありません。

 二つめは、主人公の二人が、変身ヒーロー/ヒロインである点です。普通の人間として生まれ育った人が、突然ヒーローやヒロインになる例は、やはり、口承文芸には、ほとんどありません。口承文芸のヒーローやヒロイン(英雄や女傑)は、生まれた時から、普通の人とは違うしるしが現われています。

 変身ヒーロー/ヒロインは、口承文芸の系図を引きつつも、現代の創作物語の中で生まれた存在です。「普通の人が、ある日突然、変身して、超人的なヒーロー/ヒロインになる」点が、人気を呼んでいます。
 現代的な物語なので、「普通の人がヒーロー/ヒロインになる」に当たっては、現代人が納得する理由が付けられます。例えば、初代の『仮面ライダー』ならば、「悪の組織に改造されて、超人的な力を備えた改造人間にされてしまう」といった具合ですね。

 『ヤッターマン』は、現代的な変身ヒーロー/ヒロインでありながら、その理由づけを放棄したところが、一周回って、新しいです。ここをすっぱり切り捨てようと決断した製作者は、すごいと思います(*o*)

 二〇一九年現在に見れば、『ヤッターマン』のアイちゃんは、魔法少女以外の何ものでもありません。変身して、超常的な力を発揮して、敵と戦うのですからね。
 ところが、放映当時には、アイちゃんを「魔法少女」だと認識していた人は、皆無に近かったでしょう。そもそも、当時は、まだ、「魔法少女」という言葉すら、ありません。『魔女っ子メグちゃん』の放映後だったので、「魔女っ子」という言葉は、ありましたが。

 当時の「魔女っ子」には、「戦闘」の要素がないのが、普通でした。『魔女っ子メグちゃん』、『魔法使いチャッピー』、『ミラクル少女リミットちゃん』など、みな、戦っていませんよね。
 『キューティーハニー』や『好き!すき!!魔女先生』が、当時では珍しい、戦う魔法少女でした。この二つは、突然変異のように現われた、革新的な作品です。

 戦う魔法少女が普通になった、二〇一九年現在に見るからこそ、『ヤッターマン』のアイちゃんが、魔法少女だと気づけます。先駆的な、戦う魔法少女だったのですね、アイちゃんは。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ヤッターマン』を取り上げます。



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