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魔法少女の系譜、その181~『花の子ルンルン』の魔法道具と、相手役男性~


 今回も、前回に続き、『花の子ルンルン』を取り上げます。ルンルンの魔法道具である「花の鍵」と、ユニークなキャラクターであるセルジュとに、焦点を当ててみましょう。

 「花の鍵」は、第一話で、キャトーとヌーボが、ルンルンに渡します。花の精たちが住むフラワーヌ星から、持ってこられた魔法道具です。普段は、花の形をしたブローチとして、ルンルンが身に着けます。
 「花の鍵」は、コンパクトのように、ぱかっと開く構造です。中には鏡があり、まさにミニ・コンパクトです。魔法を使う時には、どんな花でもよいので、この鏡に、花の姿を写します。すると、ルンルンは、「変装」することができます。「花の精」らしさが表われた方法ですね。
 第一話では、消防服を着て、消防士に変装します。第二話では、大道芸人の変装をします。その他にも、スチュワーデス(現在の客室乗務員)に変装したり、闘牛士に変装したり、男の子に変装したりします。

 最初の頃の「花の鍵」の魔法には、そんなに力がありません。ルンルンは、あくまで、「変装」するだけです。はっきり言って、これ、魔法を使わなくても、できますよね? お金はかかるでしょうが。
 正直なところ、最初の「花の鍵」の能力は、魔法道具としては、しょぼいです(^^; 『花の子ルンルン』は、もともとは、魔女っ子ものというよりは、ロードアニメの面を、強く打ち出されていました。「花の鍵」の魔法は、付け足しのような扱いでした。

 しかし、途中で、玩具の売り上げの点から、このままではまずいと、てこ入れがありました。具体的には、第二十四話からです。
 第二十四話で、初代の「花の鍵」が壊れてしまいます。フラワーヌ星から、新しい「花の鍵」が届きます。二代目の「花の鍵」は、初代のものより、強力でした。外見も、花の形なのは同じですが、より豪華になります。
 新しい「花の鍵」の魔法では、ルンルンは、単に「変装」するだけでなく、その服装にふさわしい能力が発揮できるようになります。例えば、騎手に変装すれば、馬を操る騎手の能力が使えます。パイロットの服装をすれば、飛行機を操縦できます。ダイバーの服装をすれば、ダイビングできます。ここまで来れば、変装ではなくて、「変身」と言えるでしょう。

 「途中で魔法道具がバージョンアップする」のは、二〇二二年現在の魔法少女ものなら、珍しくない展開ですね。けれども、『花の子ルンルン』の放映が始まったのは、昭和五十四年(一九七九年)です。こんな展開の魔法少女ものは、『ルンルン』以前には、ほとんどありませんでした。わずかに、『好き!すき!!魔女先生』があるくらいでした。
 『好き!すき!!魔女先生』については、過去に、『魔法少女の系譜』シリーズで、取り上げていますね。

魔法少女の系譜、その15~『さるとびエッちゃん』と『好き!すき!!魔女先生』~(2022年6月4日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/na95684672140

 「魔法道具のバージョンアップ―それに伴う魔法のバージョンアップ―」という展開の初期の例として、『花の子ルンルン』は、特筆されるべきですね。

 二代目の「花の鍵」は、使い方も変わります。初代では、黙って「花の鍵」に花を写すだけでしたが、二代目では、呪文を唱えます。「フレール、フレール、フレール」という呪文です。
 おそらく、より「魔法を使っている感」を出すために、魔女っ子ものによく登場する呪文を持ち出したのでしょう。
 『花の子ルンルン』が放映された時代には、すでに、いくつもの魔女っ子ものアニメが放映されていて、一つの「型」ができていました。『ひみつのアッコちゃん』に代表される、「呪文を唱えて、魔法道具で、魔法を使う」型です。
 『ひみつのアッコちゃん』は、爆発的にヒットしました。玩具の「アッコちゃんのコンパクト」も、爆売れしたそうです。同じ魔女っ子ものをやるのでしたら、あやかりたくなりますよね。『ルンルン』の魔法道具がコンパクトに似ているのも、『アッコちゃん』へのオマージュだと思います。
 『ひみつのアッコちゃん』は、もちろん、過去の『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げています。

魔法少女の系譜、その6~『ひみつのアッコちゃん』~(2022年5月31日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/n8b4911c1488f

 二代目「花の鍵」は、強力になりましたが、良いことばかりではありませんでした。「時間制限がある」という欠点もできました。「変身」していられる時間には、限度があるのです。これのために、ルンルンは、何度もピンチになります。
 でも、物語の展開上は、これは、都合がいいですね(笑) ヒロインの危機を、簡単に作れます。やはり、そうでないと、物語に張りが出ません。

 二代目「花の鍵」のてこ入れは、成功したようです。『花の子ルンルン』は、第五十話まで、無事に放映されました。最終回の第五十話で、きっちり、大団円です。

 最終回で、それまで謎の人だった、セルジュの正体が明らかになります。セルジュは、フラワーヌ星の王子でした。つまり、現・王から王座を譲られて、次代の王になる人です。ルンルンが探していた「七色の花」は、まさに、彼の戴冠式に使うものでした。

 セルジュは、自分の正体を明かすと同時に、ルンルンに求婚します。彼は、ルンルンに惚れていたのですね。ルンルンのほうも、セルジュが好きだったので、喜びます。
 ところが、ルンルンは、喜びながらも、求婚を断ります。地球に、老いた祖父母だけを残せないというのです。セルジュは悩みます。フラワーヌ星の王と王妃が、母星をさしおいて、地球に住むことはできません。
 悩んだ末に、セルジュは、王位を弟に譲ることを決心します。王座よりも、好きな人と一緒に暮らすことを選びました。セルジュとルンルンは、連れ立って、地球へ帰ってゆきます。

 えー、冷静に考えると、十二歳の女の子に求婚する十七歳の男って、ヤバいですね(^^; 『花の子ルンルン』は、昭和の女の子の夢を詰め込んだ魔女っ子ものですから、そこは、突っ込んじゃいけません(笑) 最後に「王子さま」と結婚して―ルンルンは若すぎるので、婚約ですが―終わるなんて、ロマンス小説的、あるいは、少女漫画的大団円ですね。

 今でこそ、このように、魔女っ子ヒロインに相手役の男性キャラクターが登場するのは、普通です。最後に二人が結ばれて終わるのも、よくありますね。
 けれども、昭和五十年代―一九七〇年代後半―には、極めて珍しいことでした。テレビアニメの魔女っ子もので、これをやったのは、『花の子ルンルン』が初めてではないかと思います。
 だから、私は、セルジュのことを、「ユニークなキャラクター」と書きました。『ルンルン』以前の魔女っ子ものには、ほとんど登場しない役回りだったからです。
 現在の若い世代の方には、考えられないかも知れませんが、この時代は、まだ、こうだったのですよ。

 むろん、例外はあります。
 例えば、昭和五十年(一九七五年)連載開始の『超少女明日香』には、ヒロイン明日香の相手役として、田添一也【たぞえ かずや】という少年が、最初期から登場します。二人は、最初の頃から惹かれ合っていて、連載が進むにつれ、仲が深まります。最終盤には、婚約状態になります。
 作者の和田慎二さんの死により、『超少女明日香』が完結していないのが、残念ですね。完結していたら、最終回では、明日香と一也の結婚式が描かれたのでしょうか。
 『超少女明日香』は、過去の『魔法少女の系譜』シリーズで、取り上げています。

魔法少女の系譜、その45~『超少女明日香』~(2022年6月19日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nc6a94137d51a

 同じ昭和五十年(一九七五年)に連載が開始された『紅い牙』でも、ヒロインのランには、バードという恋人がいます。バードは、自分の意に反してサイボーグにされてしまったため、結婚するなどの普通の人生は考えていませんでした。相思相愛でありながら、最期まで、ランと結婚はしませんでした。
 『紅い牙』も、過去の『魔法少女の系譜』シリーズで取り上げています。

魔法少女の系譜、その49~『紅い牙』~(2022年6月21日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/n1de53d1a8a31

 そして、またまた昭和五十年(一九七五年)に短期集中連載された『はるかなるレムリアより』にも、ヒロイン涙【るい】に対する、相手役の男性が登場します。ナーガラージャという、超常的な存在です。
 ナーガラージャは、何十回も転生を繰り返してきています。現代日本には、紀彦【のりひこ】という、普通の少年として生まれました。涙【るい】と、幼馴染として育ちます。お互い、初恋の相手といえる関係でした。
 ところが、紀彦は、幼いうちにナーガラージャの前世に目覚め、涙の前から、姿を消してしまいます。涙は、まだ幼かったにもかかわらず、紀彦の失踪の責任を負わされて、陰気な少女に育ってしまいます。
 最後には、涙も、「人類の女王」アムリタデヴィの前世に目覚めて、紀彦であるナーガラージャと結ばれます。
 過去に、『はるかなるレムリアより』も取り上げています。

魔法少女の系譜、その62~『はるかなるレムリアより』~(2022年6月27日)
https://note.com/otogiri_chihaya/n/nca98a2c32014

 『超少女明日香』と、『紅い牙』と、『はるかなるレムリアより』とに共通するのは、少女漫画誌に連載された少女漫画作品であることですね。
 一九七〇年代の少女漫画と言えば、恋愛要素があることが、お約束でした。少女漫画であることを思えば、これら三作に、ヒロインの相手役の男性が登場するのは、むしろ当然です。
 ただ、魔女っ子作品であると考えれば、魔女っ子ヒロインに相手役男性がいるのは、新しい形でした。『花の子ルンルン』は、この少女漫画のお約束を、テレビアニメ作品に持ち込んだといえるでしょう。

 さて、ここまで『花の子ルンルン』を見てきて、気づきませんでしたか?

●普通の女の子だと思っていたら、超常的な存在と関係のある、特別な子だった。
●ある日突然、異世界からマスコットがやってきて、魔法少女に任命された。
●ヒロインは、マスコットから、ある超常的なアイテムを探すように頼まれた。
●ヒロインに付きまとう謎の男性がいて、ヒロインは、彼のことを憎からず思っていた。
●ヒロインに付きまとう謎の男性は、ヒロインの運命の恋人だった。

 これ、『セーラームーン』ですよね?
 「花の精の血を引く女の子」を、「前世が月の女王だった女の子」に、
 「七色の花」を「幻の銀水晶」に、
 「セルジュ・フローラ」を「地場守【ちば まもる】」に
代えれば、『花の子ルンルン』から『美少女戦士セーラームーン』になります。
 途中で、新しい魔法道具が現われて、ヒロインがパワーアップする点も、同じですね。セーラームーンは、第三期で、「伝説の聖杯」の力により、スーパーセーラー戦士になります。

 もっとも、『セーラームーン』は、『ルンルン』と違って、ロードアニメの要素はありません。その他、戦闘要素があるなど、違う部分も多いです。
 『セーラームーン』は、平成四年(一九九二年)に、漫画連載とテレビアニメ放映とが、メディアミックスで始まりました。その基本的な形が、昭和五十四年(一九七九年)の『花の子ルンルン』の段階でできていたことは、注目すべきでしょう。『セーラームーン』の十三年も前に、この基本形が生まれていました。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『花の子ルンルン』を取り上げます。



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