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あの、夏の日6

私は、古橋さんのお見舞いに出かけました。
私が、アトリエを本画制作で休んでいる間に、怪我をしたと言うのです。
住所を聞いて、電車に乗って出かけました。
古橋さんは、アパートで、彼女と暮らしていました。

「こんにちは」

「あ、あーちゃん。来てくれたの?」

「どうしたの?怪我したって?彼女さんは?」

私は、手を包帯でぐるぐる巻きにしていた、古橋さんと話しました。

「今、姪と買い物に行ってる。上がれよ。」

「うん。」

「機械で、手の指切っちゃってさ。無くなった。」
彼は、明るく軽く言うのでした。

「機械で、荒削りするんだけど、
その時に機械で自分の手の指も、落としちゃってさ。
病院に運ばれた時に、先生が指付けるのに、

一千万かかるけど、どうします?

なんて言うのさ。
こっちは、痛くてウンウン行ってるのにさ。
一千万か”、と考えて、ないなと思っていいです。って行っちゃったよ。
だから、指無くなった。」

「そ、そんな、直ぐに言わなくても。」

「でも、払えないよ。仕事は、大丈夫、俺、早いからね。」

明るく振る舞う古橋さんに、かける言葉はありませんでした。


「彼女の親と会うとか言ってたけど、どうなった?」

「ああ、それは大丈夫。
少し、落ち着いたら、会いに行く事になってる。」

「そう、それなら良かった。」

「彼女が、いて助けてくれて良かったよ。
いろいろ挨拶とかあって大変。こっちの親は、別にいいけどね。」

私は、古橋さんが、明るくて、気丈な分
”辛かったのを、忘れようと思ってるなぁ”と、
別のことを話し始めました。

「圭子さん、元気かな?
この頃、岡さんところの、デッサン会が休みで合わないけど。
会が、休みなの?」

「ああ、圭子ちゃんに子供ができたからね。」
「え!。」

「圭子ちゃんに、岡さんとの子供ができたからね。」

「いつの間に、、。じぁ、モデルも出来ないね。」

私は、岡さんの普段無口で、
真面目くさった顔を思い浮かべて、
笑ってしまいました。

古橋さんも、笑いながら言いました。

「いや、してると思うよ。
あそこは、親が年寄りでね。
養ってるから、妊婦モデルでしばらくするらしいよ。
でも、つわりが、ヒドイらしい。
見舞いに行ってやってよ。
俺は、男だから、行ってやるのも変だしね。」

「うん、いいけど。何で、会は休みなのさ。」

「岡さんの、親の反対で、揉めてるから、。
高校の美術の講師なんて、収入が少ないから生活ができないだろう。
親の家の庭にアトリエ建ててもらって、会を運営してたから、
親と揉めてるから、できないのさ。
岡さんの親は、国籍が違うから、大反対さ。」

「講師って、いくらぐらいくれるの?」

「さあ、はっきりは知らないけど、十何万ぐらいって言ってた。
保険も付いてるんだか、知らない。
美術なんて時間が、バラバラだから、もう一つ掛け持ちできないし、
親に依存しないと生活はできないからね。
なんか、京都の方の扇子の仕事をもう一つするとかは、言ってたけどね。」

「美術の講師なんて、役に立たないと進学校は思っているからね。
そういう予算は減らすんだよね。
他の人も講師で勤めてる人知ってるけど、
何年も収入は上がらないって、グチってたよ。
家、出るのかな?」

「多分ね。そうだろうね。」

ガラガラがら

玄関の戸が開いて、彼女が帰ってきました。

「こんにちは〜、お邪魔してます。」

「こんにちは」
彼女とは、あの披露宴の夜以来でした。
古橋さんは、
しっかりしているし、
優しい、いい彼女を捕まえたなぁと思いました。

「あーちゃんね。お見舞いくれたからね。」

「ありがとね。ゆっくりしていきなよ。お茶出すからね。」

「うん、有難う。」

私たちは、お茶を飲みながら、ひとしきり喋りました。

第6わおわり
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最後まで、読んで下さってありがとうございます! 心の琴線に触れるような歌詞が描けたらなぁと考える日々。 あなたの心に届いたのなら、本当に嬉しい。 なんの束縛もないので、自由に書いています。 サポートは友達の健康回復の為に使わせていただいてます(お茶会など)