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あの、夏の日4

私を、デッサン会に誘ってくれ、みんなに紹介してくれた古橋さんは、
夜になると一刀彫りの仕事をしていました。


世話好きなので、頼まれて、私と同い年ぐらいの、男の子を連れてきていました。お父さんから、頼まれたそうです。彼は、声が出ないのか、全く話しませんでした。

「おはようございます。」と言っても、言葉を発するのでなく、目の玉を動かす感じでした。話せないとは、聞いていないので、多分何か事情があるのだなぁと。

何も聞かないし、一緒に過ごしていました。

粘土をする時だけは、目がキラキラとするので、良かったと思っていました。半年ぐらい、過ぎた時には、朝おはようございます。との挨拶の時にも、声には出さないですが、何か表情が明るく変わって来たと思います。

古橋さん以外は、お互いに何を普段しているとかは、知らないので、そんな詳しい事を聞く事もしないし、みんな黙々と、自分の制作を続けるだけでした。

古橋さんは、東北出身で、気さくな人でした。
私に、次々に色々な人を紹介してくれました。
電車代とモデル代がかかるので、たまにしか来れない人もいます。

「あーちゃん、キムさんね。
版画してるんだけど、版画の擦る機械持ってないんだ。
前に、誰かから貰って持っているって行ったよね?
それ、貸してあげてくれないかな?」

「ああ、あの版画擦れるやつ?持ってるけど、重いよ。
持って来れないから、取りに来る?
あれ、買ったら高いみたいだよ。
あたし、使わないから、あげるよ。古橋さん、家まで取りに来てよ。」

「いく、いく。取りに行くわ。」
古橋さんは、とても世話好きでした。

版画をしているキムさんは、少しはにかみ屋の、私と同い年ぐらいの男性でした。時々、アトリエに顔を覗かせていました。

初めて、話した時も、私が名前の発音が難しくて覚えられないので、「少し難しい名前ですね。」と何気なく私は、言ったのですが、彼はちょと困った様な顔をしていた事を覚えています。

私は、「悪い事を言ったのかな、悪気はなかったんだけど。」
弱ったなぁと思っていました。

そういう事が、あったので、私は、先輩から頂いた、プレス機を彼が、制作に使いたいなら、"どうぞ"と思っていた訳です。

古橋さんは、私の家に版画のプレス機を取りに来て、彼に渡してくれた様でした。

その後は、一度だけ顔を合わせました。
彼は、はにかみ屋なので、ありがとうとは言いませんでしたが、
私の方を見て、嬉しそうに、照れた様に笑いました。
そして、恥ずかしそうに、目をそらしました。

私も、役にたてたのかな?良かったと一安心したのです。

彼はそれ以降は、版画制作が、自宅で可能になったので、
見かける事は在りませんでした。


古橋さんは、何かにつけて、私を誘ってくれました。
古橋さんの彼女の友達が、結婚して今度、披露宴があるから、来ないか?
と言ってくれた事もあります。
私は、知らない人とか、あまり沢山の人に会いに行ったりするのは、
少し苦手だったので、どうしようかな?と思っていました。

「行こうよ。行こうよ。」

「あたし、知らない人だよ。行ってもいいのかな?お結い包んでいくの?
どんな、服で行くの?披露宴でしょ。えー、なんで、私も行くのさ。」

「やぁ、気楽な感じさ。行こうよ。」古橋さんは、なおも、誘います。

私は、知らないところに行くのに、少し抵抗がありました。
古橋さんの強引さに負けて、私は披露宴に行くことにしました。
普段着は、白のTシャツに、ジーンズが多かったので、
一体何を着ていったら良いのか、迷いました。

”着ていく服がないよね。”

お結いに、ジーンズでは、どうなのかな?やっぱり、マズよなぁ。
仕方がないので、赤のウールの、着物を着ていく事にしたのです。
履いていたのは、舞妓さんが、履いていたポッコリに憧れていたので、
ポッコリに似た下駄でした。

古橋さんと、古橋さんの彼女と、私とは電車に乗って出かけました。
古橋さんの、彼女とは初対面でした。

「こんにちは。」
「こんにちは。私が来てもいいんんですか?」

「大丈夫。いいよ。大勢の方がいいんだから。
お結いに人が来なくて寂しい方がよく無いから。」

彼女は、少し暗めのクールなスーツを着ていたと思います。
古橋さんは、いつものTシャツとジーンズとは違って、
ボヘミやんな感じの、昔よく流行ったスモッグ風の襟のないシャツと、
少しパンタロンのスラックスで、
その服には長髪だよねと思うんだけど、ちょとなーと思う様な髪型でした。
私は、母に着せてもらったぎこちない着物姿で、
いつも通りのノーメイクのポニーテールでした。お結い

お結いにいくにしては、統一感のまるで無い、三人づれだったと思います。

私は、その当時は、大勢の前で話をするのは、
苦手だったので気が重い気持ちでした。

駅を降り、商店街を歩いて着いたところは、居酒屋でした。
「お結い、渡したらいいの?」
「ああ、適当でいいから。」と古橋さんは、気楽な感じです。

多くの、お結いのお友達が、今、結婚式に参加して来て、その帰りだよ、とか、私たち見たいに、今、来たところだよ。という感じでした。
新郎と、新婦は、結婚式用のかな?
よくわからないけど、チマチョゴリを着てしばらくして現れました。
みんな、口笛を吹いたり、拍手したりして、陽気に迎えました。

そうして、誰かの音頭で、ビールで乾杯が始まりました。
「結婚、おめでとう!!」
「おめでとう御座います。」
私も、なんだか、わからないうちにみんなと乾杯しました。

花嫁は、しばらくして着替えに行きました。
今度は、ドレスに着替えて来ました。
彼女は、あまり見かけたことの無い大変な美人で、
新郎は嬉しそうで、美人の奥さんを迎えたことをみんなに見てもらって、
自慢したいという雰囲気でした。
花嫁の、笑顔は輝いて見えました。

終電の時間まで、乾杯は続いたと思います。
そこの居酒屋は、空の見える席もあったので、
夜空を見上げながら、グラスを空に向け、
わたし達は今日の日を楽しんでいました。


第4わ終わり
最後まで、読んで頂いてありがとうございます。
また、遊びに来てください。














最後まで、読んで下さってありがとうございます! 心の琴線に触れるような歌詞が描けたらなぁと考える日々。 あなたの心に届いたのなら、本当に嬉しい。 なんの束縛もないので、自由に書いています。 サポートは友達の健康回復の為に使わせていただいてます(お茶会など)