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永遠と一日

近年最も注力していたメインのソロワークであるwinter light ensembleのCD「永遠と一日」が完成しました。CDのご紹介をしたいのですが、まずは制作のきっかけになった無観客ライブのことを少し書かせてください。

アンサンブルの作曲をはじめたきっかけは2020年の秋、コロナの関係でライブ活動に制約があったので、無観客ライブを配信してみようと思い立ったことでした。秋から冬にかけて一気に7曲書き上げ、12月に収録したのがWinter Light Ensembleと題したライブ動画です。

このときのアンサンブルメンバーは、松岡麻衣子さん(バイオリン)、堀坂有紀さん(セカンド)、チェロしおりさん(チェロ)、ふくいかな子さん(ピアノ)、石川高さん(笙)と私のギターによる6名。それと旧知の間柄でもある映画監督の児玉龍太郎くんがリーダーとなる撮影クルーにご協力いただき、冬の澄んだ空気を表現した映像を撮ることができました。収録日は冬晴れで、録音会場のecho and cloud studioの窓に差し込む光からwinter light ensembleという命名を思いつきました。

ライブを企画しても胸を張って来てねとは言えない、そんなジレンマを抱えた状況下でもネットの動画なら観てねと言える、そんな軽やかさが無観客ライブの収録にはありました。

そして2021年の6月に2度目の無観客ライブ。企画時にはお客さまを入れるか配信にするか迷ったのですが、感染者数が増えたり減ったり先行きが見えず、無観客ライブにすることにしました。このとき録音をご担当いただいたのが、CDでも録音とマスタリングをお願いしたflysoundの福岡功訓さんです。録音会場のスコットホールには梅雨晴れの光が差し込み、外は心地よい初夏の風が吹いていました。

ふたつの無観客ライブはそれぞれすべて新曲を書き下ろして挑みました。このアンサンブルの作曲はとりわけ書いた季節の影響を色濃く受けていて、最初の無観客ライブは冬だったので秋冬がテーマの曲、次の無観客ライブは初夏だったので春夏がテーマの曲、といった具合に(ファッションデザイナーの展示会みたい!)終わってみれば四季を巡る曲が揃っていたのです。

今回のアルバムでは、それらの楽曲をセレクト・改訂して四季の巡りとその彩りを全体のテーマとすることにしました。「永遠と一日」というアルバムタイトルは、四季が循環する永遠性とそれが過ぎゆく刹那性の意味を込めて、アンゲロプロスの映画から拝借しました。

そうして2度の無観客ライブを経て今年の初頭に録音したのが、今回完成したアルバムです。2020年の秋にはじまったチャレンジは足掛け2年、音符のひとつひとつからミキシングのわずかなバランスに至るまで、今までになく丁寧に1枚の音源と向き合えたと思います。

最後に制作にご協力いただいた方のご紹介を。弦トリオは松岡麻衣子さん(バイオリン)、甲斐史子さん(ヴィオラ)、松本卓以さん(チェロ)。録音中もずっと弦の音色に聴き惚れていました。ピアノは満月カルテットでも一緒のふくいかな子さん。かなちゃんと知己を得たのは満月カルテットのセッションなのですが、近年様々な現場で一緒なので1伝えれば10理解してもらえる安心感。笙は石川高さん、弦楽器の響きの残像として笙の音が背景から立ち上がるようなイメージで書いています。そして「萌芽」と「時灯」には岩瀬龍太さんがクラリネットを吹いていただいています。どこまでも遠くまで軽やかに伸びていくようなクラリネットの音色は、アルバムの自慢の一つです。

録音とマスタリングは2度目の無観客ライブでもお世話になったflysoundの福岡功訓さん。アンサンブルの楽曲は生楽器の響きがすべてと意気込んで書きましたが、その瑞々しい響きをまるっとキャプチャーしていただきました。

安養院は境内の木々や咲きはじめたばかりの梅の花が風に揺れる様子が窓から見える、心を落ち着けて録音できる場所でした。会場をご提供いただいた住職さま、ありがとうございました。そしてギターダビングは最初の無観客ライブを行ったecho and cloud studioで。ここも心の澄みゆく場所のひとつです。

ミックスは自分で2ヶ月ほどかけてじっくりと。作曲が音符と向き合う時間なら、こちらは響きと耳で向き合う時間。音を良く聴こえるようにする細工を施していったのですが、最後は録った音が偽りなく聴こえる状態まで戻しました。

ジャケットのデザインは小川哲さん。紙の種類や厚さの選定から打ち合わせを重ねて作りました。外観は冬の光をイメージするような美しいワントーンのデザインですが、中から鮮やかな内ジャケットが出てきます。音楽はサブスクで聴く時代にあえてCDのパッケージにこだわりました。中のジャケットだけ飾っていただくこともできるかも、ぜひ実物を手に取っていただけると嬉しいです。

もうすぐ着想の原点になった、音の澄む季節がやってきます。聴いていただける方の生活に、静かに寄り添うことができれば嬉しいです。

こちらから音源をご視聴いただけます、デジタル版のご購入も可能です。https://shintaro-tanaka.bandcamp.com/album/eternity-and-a-day

CDはこちらからご購入いただけます。


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