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ちおこ(地域おこし協力隊)メンバーの仕事や生活などを知り、ちおこ募集事業者を巡る旅「岩手県・大槌町 ちおこ旅」。
盛りだくさんな2日目。お昼を食べて迎えた後半戦は、先輩ちおこ数人が暮らすシェアハウスから始まりました。

ちおこ旅 2日目(1月28日)後半


■14:30 先輩ちおこたちが暮らすシェアハウスを見学

ここで暮らす先輩ちおこ・俵さんにちなみ、通称「俵ハウス」。
俵さん自ら、家の中を案内してくれました。

俵さん「実はヴァイオリンが趣味。広い玄関は音がよく響き、お気に入りの空間です」

茶の間で大きな炬燵を囲むと、まるで親戚同士が久々に会ったような雰囲気が流れ、参加者の皆さんもほっこりした空気に。
「…じゃあ、僕からですかね!」
先輩ちおこ・松橋さんが、ハキハキ話し始めます。

■ 狩猟、大槌ジビエ…「MOMIJI株式会社」で出会った3人

先輩ちおこの松橋さん

松橋さんは、地元・秋田県で学校の先生として勤務した後、一度東京へ。
デリバリーの配達員など、都会ならではの経験を積みましたが「自分にはやはり田舎の暮らしがあっている」と、地元への思いを再確認したそうです。
一方で課題となったのは、雇用の少なさ。
「マタギである祖父と父の跡を継ぎたい」という思いはあったものの、自分は何を仕事にするべきか悩んでいた時に知ったのが、狩猟を通して害獣を町の財産にしていく「MOMIJI」の活動でした。
「大槌は、東北のジビエ先進地。この町で修行して、いつかノウハウを秋田に持ち帰り、大槌町とMOMIJIのことを広めていくことが僕の目標です」と、未来を真っ直ぐ見つめます。

仕事の都合で、松橋さんはここで退席。
同じく「MOMIJI」で働く、工藤さんと俵さんにバトンタッチです。

先輩ちおこの工藤さん(写真左)と、俵さん(写真右)

工藤さんは、地元・北海道の大学で畜産を学びました。
一度は住宅リフォームを手掛けるメーカーに就職しましたが、まだ使える物も破棄しなければならない実状から「このまま働き続けていいのか…」と疑問が募っていったそうです。
畜産の知識を活かせることはもちろん、鳥獣害対策で奪った命を“価値のあるもの”として活用していく仕組みを作って、モデルとして全国に広めていこう…という「MOMIJI」の考えに惹かれ、大槌町のちおこになりました。
狩猟の免許も取得し、経験を積みながら、現在3シーズン目。
グループ猟のチームに所属し、自らも鉄砲を握っています。
一方で、工藤さんが普段メインとしているのは“罠猟”。
「1日1回は必ず仕掛けた罠を見に行く必要があります。幸い、自宅として借りている古民家が猟場の真ん中にある感じなので、散歩コースぐらい。近所の農家さんの畑に出てくる鹿をピンポイントで狙えるし、スマホの電波が入るエリアでできる猟なので、安全面的にも自分には合っていると思います」と、女性ハンターならではの視点も交えて語ってくれました。

俵さんは、長崎県・津島の出身。
福岡で働いていましたが、趣味の渓流釣りをきっかけに、狩猟に興味を持ったと言います。
大槌町に来てから罠や鉄砲の免許を取得し、「MOMIJI」では鹿の解体にも携わります。
松茸採りのシーズンには、“お客さんに鹿肉と松茸を一緒に楽しんでもらおう”という企画のため、深夜3時から山に入った時期もあったそうです。
「正直、しんどいことも多いです」と笑う俵さん。
「こっちでは仕事も趣味も溶け合っているので、切り替えが難しい。それで悩むこともありました。特に解体は、食肉処理業ですから、生々しい現場です。辛いと思うことがあっても、お客さんが美味しいと喜んでくれたとか…その先にある幸せを見つけられる人には向いている仕事だと思います

先輩ちおこ3人が、それぞれの理由や思いを語る中、参加者の皆さんは、時に頷いたり、メモを取ったりしながら、真摯に耳を傾けていました。

古民家での暮らしについて教えてください。
工藤さん)仕事や趣味の道具でアパート暮らしが手狭になったので、一軒家を探し始めました。罠猟でお世話になっていた農家さんから紹介されたのが、今住んでいる古民家です。裏山の草刈り、生垣の手入れ、落ち葉の掃除など、暮らす上ではやはり手間がかかります。田舎ならではですが、大家さんが「やっといたから~」っていうこともあって助かっています。あとは“寒さ”ですかね。囲炉裏も試してみましたが、今は薪ストーブに落ち着きました。「吉里吉里国」さんが薪の端材を分けてくれたり、地元の方に色々助けてもらっています。大家さんが田んぼを1枚「使っていいよ」と言ってくれて…まさか田んぼまでやれるとは思ってもみませんでした。都会より、はるかに忙しい日々です。今日は苗を植えなきゃ、明日は梅の実を採らなきゃ…って、“人が自然に合わせる”感じ。こちらの都合でスケジュール調整ができないけれど、これが本来のあるべき姿なんだろうなと思います。

ちおこの男性陣は「消防団」に入っている方が多いと聞きましたが…
俵さん)「MOMIJI」の男性メンバーは既に入っていたので、自分もその流れで自然と入りました。活動自体は“町民の命と財産を守る”ことですが、火事での出動以外だと、2年に1回ある、技術を競う大会がメインです。あとは日々のパトロール。所属する隊にもよりますが、節目の飲み会があったり、地域の先輩方は皆あたたかいです。このシェアハウスも、そこで出会った方からの紹介です。何より、若者の加入を歓迎してくれますし、地域の人が喜んでくれるんですよね。人と人との繋がりが、職場を越えて広がる場でもあります。
工藤さん)そういう点では、女性メインのコミュニティは少ないですね。私は郷土芸能団体の中で、踊り手が女性メインの「金澤神楽」を紹介してもらいました。神楽の話をきっかけに、地元の人と打ち解け合えたような場面もありました。

郷土芸能と言えば「大槌まつり」。熱気を体感してみて、どうだった?
俵さん)自分は“神輿”を担ぎました。体はとても辛かったですが、町の人から「担いでたな!」と声をかけてもらったりして、嬉しかったです。白い装束を着て、烏帽子を被って…自分自身も神聖なものの一部になったような気がするんですよね。神輿の担ぎ手として、町民の方からおもてなしを受けて、時には拝まれることもあって。神輿を担ぐ魅力について聞くと、みんな口をそろえて「やってみたら分かる」って言うんです。まさにその通りでした。今では自分も、同じ言葉で伝えています。
工藤さん)「大槌まつり」の盛り上がりは、本当にすごいし、不思議。地域の神様への信仰心の厚さもあるのかな。それに、神輿が飛んでいるみたいに走ったり、回ったり…他の地域では見たことが無い感じ。年に一度、一番人口が多い日ですよね。お盆やお正月よりも、祭りに合わせて帰省するって話もあります。その日だけは、町民一人一人がパブリックな存在…「大槌まつり」っていう大きな盛り上がりを構成する一部として動いている感じというか。ぜひ皆さんにも一度、現地で体感してもらいたいです。

狩猟の“センス”…やはり動体視力などの特性が物を言う世界?
俵さん)まさにそう。それに加えて“運”が重要かもしれません。今の自分にはうまく言語化できないのですが…“持っている人”と“持っていない人”で明暗が分かれるというか。「MOMIJI」の社長はまさに“持っている人”。一緒に猟に出ると、普段居ないような場所に、ポツンと獲物が佇んでいたりする。悔しいけど、あるんですよね、そういうのが。
工藤さん)罠猟は、鉄砲よりもそういうのが言語化できるかな。「畑に鹿が出て困っている」などの連絡をうけて、現地で聞いたり調べたりして「ここなら掛かるだろう」ってところに罠を仕掛けるので。

「MOMIJI株式会社」と、工藤さんの詳しい記事はこちら

■ 「NPO法人おおつちのあそび」を設立した移住者・大場さん

モニターで写真を映しながら、丁寧に解説する大場さん(写真右)

最後に登場したのは、移住者の大場さん。
仲間たちと立ち上げた「おおつちのあそび」は、町内の事業者・生産者と連携したエコツーリズムのほか、地元の子どもたちへの体験教育、次世代へ豊かな自然とその恵みを残し続けるための調査・保全活動に取り組む団体です。

代表を務める大場さんは、北海道の大学を卒業後、東京大学大学院へと進み「東京大学大気海洋研究所・大槌沿岸センター」にやってきました。
現在も博士課程で“サケの産卵生態”についての研究を続けています。
趣味の狩猟を通して知り合った「MOMIJI」の社長から「大槌ジビエのツアーを一緒にやらないか」と持ち掛けられたことが、全ての始まりでした。
ジビエツアーのガイドの一人として、参加者と一緒に野山を歩いたり、狩猟に同行したりするうちに、かつて思い描いた“自然のことを人に伝える仕事がしたい”という夢について、再び考えるようになったそうです。

一方で、自身の生活費を稼げる程、ジビエツアー単体でのマーケットは大きくない…。
それならばと大場さんが考えたのが、大槌の山・川・海と、そこに住む人や生き物…それらを通した独自の体験と発見から、各々がストーリーを見出せるようなプログラムでした。

「まずは地盤固めから始めました。消防団や郷土芸能団体への加入はもちろん、事業者さんや学校と繋がりを築いたり、藻場再生の活動に取り組んだり…。続けていくうちに、色々なプログラムができて、ツアーを何本も打てるようになりました。そうして、仲間4人で立ち上げたのが”のあそび”です」

”本気の虫とり&標本作成体験”、”マタギ直伝 山菜ツアー”など、大槌の魅力と「おおつちのあそび」メンバーの個性が溢れるプログラムたち。
大場さんは人懐こい笑顔を浮かべながら、続けます。
「更に新しい仲間ができて、今はダイビングのツアーも計画しています。観光をし尽くした人たちにこそ提供できる体験が、大槌町にはある。僕はそう考えています」

大槌での暮らしで、心がけていることはありますか?
大場さん)どの出会いが、どう繋がるかわかりません。「おおつちのあそび」も、そうして得た手ごたえを更に繋げていったら、法人化することができました。なので自分は、誘われたら断らない、をモットーにしています。あとは、注がれたら飲む、そして最後まで付いていく…!

「おおつちのあそび」のツアーの客層は?
大場さん)やはりもともとそういった分野に興味・関心がある人が中心ですが、更に裾野を広げていきたいと思っています。学校教育に関わらせて頂いているので、まずはそこからかな。狩猟同行のツアーは、幼稚園の年長さんぐらいの子から参加していました。子どもって不思議で、鹿が撃たれたり、大人が目を背けるような瞬間を見ても、素直な感想が飛んできます。驚きはしても、泣かないんですよ。分かっているというか、やはり本能的に感じる何かがあるのかもしれませんね。

大場さんの詳しい記事はこちら

■18:00 「おしゃっち」にて先輩ちおこと懇親会

さっきお話を聞いた移住者の大場さん、先輩ちおこの工藤さん。
手前には、お顔は見えませんがデザインの喜嶋さんがいます。

「なぜ大槌に決めたんですか?」
「実際のところ、仕事はどうですか」
…などと質問する、ちおこ旅参加者の皆さん。

先輩ちおこたちも、なんとか自分なりの言葉で伝えようと真剣です。
「大槌に来てみて、どうですか?」
「今居るところではどうなの?」
…と、逆と質問をする場面も。

こちらのテーブルには、先輩ちおこの大邉さんご夫婦と、サーモンコロッケの山﨑さん。
そして、古民家で暮らす橋本さんの姿が。

お互いの存在や経験を通して、自分自身の当時・現在・これからのビジョンを見つめながら、人生のアイデアやヒントを見つけ合うような時間が流れます。

「地元の人や先輩ちおこと、こういう機会を持てるなんて驚きました。本当に貴重ですよ」…と噛み締める、参加者のノブショウさん。

同年代の先輩ちおこたちとテーブルを囲んでいたウメちゃんも、実りある時間を過ごせたようです。
「色々相談に乗ってもらいました。皆さん気さくに、たくさんお話してくださって…ありがたかったです」と感想を聞かせてくれました。

さて、長いようで短かった今回のちおこ旅。
いよいよ明日は最終日です。
自身の日常へと帰る時間が迫る中、
参加者の皆さんは大槌で、どう感じ、どう過ごすのか…。
お楽しみに。

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