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【大月書店通信】第165号(2022/10/28)

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安倍元首相は、旧統一教会系団体の集会に寄せたビデオメッセージの中で、その団体が「家族の価値を強調している」点を称賛していました。

右派の団体や政治家が理想とする「家族」とは、天皇制国家のミニチュアみたいなものでしょう。そこでは個人の権利よりも共同体の維持・繁栄が優先され、ジェンダー役割などの権力構造が、道徳的な装いをもって押しつけられます。そうした家族のフラクタルのような国家をつくる動きが、政治的に推し進められてきました。

人が生まれ育ち、人生をまっとうしていくために必要な、互いのケアがおこなわれる場としての「家族」。血縁や制度によって縛られ、弱い者が生殺与奪権を握られ、搾取される場としての「家族」。良くも悪くも思い出にあふれ、アンビヴァレントな愛着を覚えずにいられない「家族」。新旧世代の価値観が激しくぶつかり合う「家族」……。家族というものの複雑さを認め、社会の中でのそのあり方を問い直していくことが、いま求められているのだと思います。

家族をテーマにした映画といえば、山田洋次の名前が頭に浮かぶ方は多いでしょう。10月新刊『『男はつらいよ』、もう一つのルーツ』(吉村英夫 著)は、「男はつらいよ」の原型がフランスのポピュリスム文学・映画にあったことを論じています。そして今、「男はつらいよ」全50作がパリで順次上映され、たいへんな評判を博しているそうです。

下町の家族を描き、日本の一つの象徴となった「男はつらいよ」が、フランスの芸術に学んだ作品であること。そして21世紀の今、寅さんがフランスへ渡り、言語も人種・民族も越えて多くの人々の心を揺さぶっていること――。こうした現実にふれることも、家族や国家に対する狭いイメージから私たちを解き放ってくれます。

【新刊案内】

10月の新刊です。お近くの書店にてお求めください。

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●マルセイユから葛飾柴又へ。知られざる影響
『男はつらいよ』、もう一つのルーツ――ポピュリズム映画考
吉村英夫[著] 2,600円(税込)

『男はつらいよ』の原型が、フランスのマルセル・パニョル作品にあったことは、山田監督自身が語っているが、あまり知られていない。「ポピュリスム」と呼ばれるその系譜に山田を位置づけつつ、日本映画史をたどりなおす。

「吉村さんの著作を通して僕は、自分と自分の作品を客観的に見ることを学んだ。このような優れた映画学者(あえてそう呼ばせていただく)に温かく見守られたことの幸福を、この本を読みながらしみじみ思う。」
――山田洋次(映画監督)

試し読みできます

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●デジタル化で変容する人間関係の影そして光
唯物論研究年誌第27号 「つながる」力の現在地――変容するコミュニケーションのゆくえ
唯物論研究協会[編] 3,500円(税込)

コロナ禍で加速するオンライン化・デジタル化がもたらすコミュニケーションの変容。他方での、リアルな「ケア的な関わり」の再発見。新自由主義的な統治が強まるなかにあって、それに抗する人間関係再編の可能性を探る。

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●特集=コロナ危機における自治体職員の労働実態と課題
季刊 自治と分権秋号 no. 89 1,100円(税込)

●首長インタビュー 石井登志郎・兵庫県西宮市長 ●座談会 過労死ラインを超える自治体職員の労働実態と労働組合の役割(寺西笑子・山口真美・山本民子・小山国治) ●コロナ禍の自治体職員の「働き方」(黒田兼一) ほか

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●特集=「国葬」とテレビ
放送レポート11月号 no. 299 550円(税込)

●「空白の三〇年」を問う~有田芳生さんに聞く統一教会とメディア~ ●座談会 連帯でつかんだ勝利~長崎性暴力裁判が示したものは~(松元ちえ・明珍美紀・吉永磨美) ●新連載 メディア批評(金平茂紀) ほか

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●特集=高校の学びはどこに向かうのか
月刊 クレスコ11月号 no.260 550円(税込)

2020年に文科省が打ち出した普通科再編。高校の7割以上を占める普通科の解体は、教育全体に大きな影響をもたらすと思われる。再編と多様化の進む高校の現状を共有し、高校教育の意義をあらためて考え合う特集。

【イベント】

★太田啓子+鎌田華乃子トークイベント「モヤモヤから始まる社会運動」

9月新刊『ヨノナカを変える5つのステップ――マンガでわかるコミュニ
ティ・オーガナイジング
』(鎌田華乃子 著、沢音千尋 漫画)の刊行記念イベントです!

ジェンダーのこと、働き方のこと、政治のこと――。やっぱり「社会運動」しないとヨノナカは変わらない……でも、どうしたら?

太田啓子さん(弁護士)、鎌田華乃子さん(特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン理事)と一緒に考えます。

社会運動のお悩みにも応えます!

★モヤモヤ本のその先へ~みんなで話し合う「日韓」のモヤモヤ~

ベストセラー『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(加藤圭木 監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール 編)刊行後初の対面イベント。一橋大学の学園祭の一企画です。

【話題の本】

★有田芳生『改訂新版 統一教会とは何か』重版出来

時の人となっている有田芳生さんの著書『改訂新版 統一教会とは何か』。書評・紹介記事も続々と出ており、ひきつづき好評です。

  • 『日刊ゲンダイ』9/24

  • 『中日新聞』10/3夕刊

  • 『世界』11月号

  • 『ちくま』11月号 などなど。

有田さんの講演会も多数おこなわれていますので、ぜひ本書を読んでご参加ください!

※講演会を主催される方は、本書の販売やチラシ配布をご検討いただけますと幸いです。大月書店までご連絡ください。

★小池晃さんが『これからの男の子たちへ』を激賞!

11月23日に大阪のロフトプラスワンWestで、映画『百年と希望』公開記念として作家のアルテイシアさん、参議院議員の小池晃さんをゲストに迎えたトークイベントが開催されました。

共産党とジェンダー問題が話題になる中で、たまたま会場に来ていた太田啓子さんも会場から発言! 小池晃さんが『これからの男の子たちへ』を「名著ですね」と激賞くださる場面も。(32分ごろから)

笑いの絶えない楽しいイベントでしたので、ぜひご覧ください。

【お知らせ】

教科書採用をご検討の先生方のために、「教科書・参考書目録(2023年度版)」(PDFファイル)をご用意いたしました。

【編集後記】

『クレスコ』11月号で鈴木大裕さんが、「先生は私の知らない私を教えてくれた」という高校卒業生の言葉を引用していて、私は中島みゆきの「瞬きもせず」という歌を思い出しました。「僕は誉める 君の知らぬ君についていくつでも」。山田洋次『学校III』の主題歌ですね。(Q)

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