見出し画像

"悲劇的な"デザイン

こんにちは。アル株式会社でCCOをやっている@ottieeです。

今日はデザインのネガティブな面について書いてみようと思います。

「デザインがユーザーの感情や行動にネガティブな作用をすることもある」ということは感覚的にも経験的にも、ほとんどの人がわかっていること事だと思います。

たとえば…


  • 商品をカートに入れると標準でメルマガを受け取る設定になっているECサイト

  • ブラウジングをしている時に突然現れ作業を中断させる「✖️」ボタンのやたら小さなダイアログ広告

  • 削ぎ落としたデザインを徹底しすぎて、注意書きのテプラを貼られまくり、目も当てられなくなったコンビニのコーヒーマシン

  • 一つ出口を間違えると延々と遠回りをさせられるターミナル駅の動線設計

  • 抽象的になりすぎ、かつジェンダー表現の難しさに配慮した結果、男女差がわかりづらくなったトイレのマーク


おそらく多くの人が見て、体験したデザインの「悪用」ないしは「失敗」だと思います。

悲劇的なデザイン

「悲劇的なデザイン」という何度も繰り返し読んでいる本があります。

日本版の初版が2017/12/27なので、もう7年前以上前の本ですが、とても含蓄の深い本です。

目次の一部を引用します

第1章 イントロダクション
第2章 デザインは人を殺す
第3章 デザインは怒りを煽る
第4章 デザインは哀しみを呼ぶ
第5章 デザインは疎外感を与える
…以下省略

悲劇的なデザイン ―あなたのデザインが誰かを傷つけたかもしれないと考えたことはありますか?

なかなか刺激的なタイトルですが、例えば第2章「デザインは人を殺す」では、セラック25という放射線治療装置の例が紹介されており、インターフェイスの設計による操作ミスが1つの要因となり、3年間で3人の重症者、3人の死亡者が出た例が紹介されています。

他にも、ニューヨークのフェリー事故、エールアンテール148便航空事故など、インターフェースが原因の1つとなった事例が紹介されています。

第3章「デザインは怒りを煽る」では、「失礼なテクノロジー」「ダークパターン」の紹介がされています。

前者では「失礼なテクノロジー」としてMicrosoft Officeの悪名高い”おせっかいな”アシスタント機能が紹介されていたり、後者「ダークパターン」については、ECサイトのカートでの不要オプションのデフォルトチェック(グロースのための「悪意」のない改善)などが挙げられています。

ダークパターンについてもっと見たい方は以下のリンクからどうぞ。

第4章「デザインは哀しみを呼ぶ」では、Facebookの「今年を振り返る機能」(一年のハイライトを楽しげな画像と写真と共に表示する"親切な"機能だったが、その年子供を亡くした親はFacebookを開くたびに哀しい思いを味わった)が紹介されており、

第5章「デザインは疎外感を与える」では、DE&Iのコンテキストも考慮し、アクセシビリティの大事さ、インクルーシブデザインの考え方(誰もが取り残されないよう、現行のユーザー・潜在的なユーザーを考えてデザインする)が紹介されています。

悲劇的なデザインを少しでも減らすために今日からできる事

この本で紹介されているように、何気ないデザインが人を哀しませたり怒らせたり、疎外感を与えたり、究極人を殺してしまう可能性すらある、ということは、デザイナーに限らず、プロダクト・サービスに関わる人は意識的であるべきであり、"悲劇的な"デザインを少しでも減らしていくのが真摯な態度かと思います。

「スイスチーズモデル」という言葉があり、システムを多層化することで、リスクを分散するシステムの安全性を高める考え方ですが、それでも起こりうるミスは「各層のミスを防ぐための"対策の穴"、そのすべての穴を潜り抜けた先に起きる」というものです。

すべてのミスを完璧に防ぐことは難しいと思います。ですが、仕組みで少なくすることは可能だと思います。

最後に「悲劇的なデザイン」でも紹介されている、ミスを減らすためのチェックに使える2つの考え方を紹介したいと思います。


ニールセン「インターフェイス・デザインのための10のユーザビリティ・ヒューリスティック」

ユーザビリティ研究の第一人者として知られるヤコブ・ニールセンのインタラクションデザインのための一般的な原則です。

これをチェックするだけでも「悲劇的なデザイン」は減少させることができるでしょう。

  1. システムの状態がわかるようにする

    • 適切なフィードバックを用いて、現状をユーザーに知らせる

  2. 現実世界にマッチしたシステムを作る

    • ユーザーにマッチした言語や概念を使用して意思疎通を行う(システム志向の言語を使わない)

    • 自然の理に合わせた順番で情報を提示する

  3. ユーザーに操作の主導権と自由を与える

    • ユーザーが手段を間違えた際に簡単に復帰できる手段を用意する

    • Undo、Redoを用意する

  4. 一貫性を保ち標準に従う

    • OSやプラットフォームのインターフェースの作法に従う

  5. エラーを防止する

    • ミスを引き起こしそうな事象を事前にチェックしおいて、操作の際にはユーザーに確認を取る

    • 優れたエラーメッセージを用意することは良い仕事ではない

  6. 思い出させるのではなく、認識させる

    • 必要なオブジェクト・情報は常に表示させること

    • ユーザーが情報を憶えておかなくてはならないインターフェイスにはしない

  7. 柔軟性と効率性を持たせる

    • ユーザー自身がよく使う機能を使いやすく調節するようにする

    • 熟練したユーザー向けの機能を、初心者ユーザーの見えないところに配置するなど

  8. 最小限の美しいデザインにする

    • システムとユーザーの間に、操作を完了させるために不要な情報を存在させない

  9. ユーザーがエラーを認識し診断し回復できるようにする

  10. ヘルプや説明書を用意する

設計したインターフェースが、これらの原則に沿っているか、確認するだけでもインターフェイスによる"悲劇的な"デザインを減少させることができると思います。


ダークパターンの7つの分類

ダークパターンとは簡単にいうと「ユーザーを欺く行為・デザイン」のことを言います。法的な規制も整備されつつありますが、ここでは、米プリンストン大学が11,000以上のECサイトを分析し、分類した7つのダークパターンを紹介します。

  1. Sneaking(こっそり)

    • ユーザーが意図しないオプションを自動で選択したり、契約条件を意図的に隠して設計する手法。ユーザーに無料の試供品を申し込んだと思わせて、実は定期購入をさせられていた、など日本でもよく見る手法です。

  2. Urgency(緊急)

    • 事実と異なる期間を設定してユーザーに購入の意思決定を焦らせる手法です。「12月24日まで限定!」「好評につき12/31日まで延長」とかも繰り返しやるとNGです。いつも閉店セールをやっているお店とかありますよね。

  3. Misdirection(誘導)

    • 視覚的デザイン、文言、ユーザー感情などを利用して、特定の選択肢に誘導する手法です。

      • 否定語の使用をして惑わす(〇〇しないことを選択しません、など)

      • 選択させたくないボタンに装飾をする(押せるボタンを薄いグレーにする、など)

      • ユーザーの誤認を誘導する(サイトに馴染むように設置されたボタンのようなデザインのバナー、など)

  4. Social proof(社会的証明)

    • 他のユーザーの行動や発言を根拠として、人気を虚飾する手法です。良いレビューを繋ぎ合わせて1つのレビューのように見せかけたり、悪質なものであればレビュー自体が"嘘"のケースも存在します。

  5. Scarcity(希少性)

    • 「残り⚪︎点」など希少性をアピールすることでユーザーの判断を急がせるよう介入する手法です。事実であれば問題ありませんが、例えば「残りわずか」のような曖昧な表現であれば1,000個でも10,000個の在庫でもラベリングできてしまい、この場合はダークパターンに該当します。一部EC構築サービスでは、偽の在庫不足メッセージを表示する機能を備えているものもあります。

  6. Obstruction(障害物)

    • 退会処理やキャンセルなどのユーザーの行動に対して、過度な負荷を負わせる手法です。退会ページやキャンセルの動線がサイト全体の奥深いところに隠されていたり、必須のアンケートが長々と連続していたり、最もひどいケースはウェブ上に動線が設置されていなく、電話や手紙を利用しなくてはならないケースです。

    • 多くのサービスでは改善されてきている分野ですが、少し前にディズニープラスの退会の複雑さが問題になりました。

  7. Forced Action(強制)

    • ユーザーが果たしたい目的のために、関係のない行動を強制させる手法です。サービスの希望プランを閲覧したいだけなのに、先にサインインするための情報を取得したり、メルマガやプロモーションの同意を必須にする、などの例があります。

これらの「ユーザーを欺く」ダークパターンが問題なのは、ユーザーが不利益を被る"悲劇的な"デザインであるだけでなく、サービスをグロースさせるフェーズで、制作者が"意図せず悪意なく"行なってしまいがちな点にも問題があります。客観的な視点でチェックすることが必要だと思います。

おわりに

「デザインがユーザーの感情や行動にネガティブな作用をすることもある」という事例を「悲劇的なデザイン」からいくつか紹介し、それを少しでも防ぐための2つの考え方について紹介しました。

すでにプロダクトやサービスに関わっている人は、自分のプロダクトが"悲劇的な"状況に陥っていないか確認してみるのもいいかもしれませんし、今からプロダクトやサービスに関わる人は、少しでも頭の片隅にこの"悲劇的な"事例を置いておいてもらうと、世の中全体のデザインによる悲劇が減るかもしれないな、と思い、徒然と書きました。

世の中に"善い"デザインが増える世界を願っています。

それではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?