落ち葉を掃いていたら、
最近、忙しくてnoteに投稿する頻度が、めっきり減ってしまった。
引っ越しの作業は一度手をつけてみると、思ったよりもやることが多いことに気づいてしまった。
電力会社を解約したり、粗大ごみを処分したり、PCの周辺機器を整理したり。
中でも大変だったのは、地下室への入り口を塞いだことだった。
僕の家は賃貸なので、勝手に部屋を大改造して秘密の地下室を作っていたことがバレたら、大家さんがご機嫌ななめになってしまうことは充分に想像できた。
苦労して改造した地下室には思い入れもあったので、精神的にも大変だった。
しかし大変なのは、引っ越しのことだけに留まらなかった。
僕がいま働いている書店の近くには、いちょうの木が植えられていた。
その木から、大量の落ち葉が降ってくるのだ。
もう12月も折り返しの時期だというのに、歩道に黄金色のカーペットが敷かれていた。
僕は、毎日それを掃除しなくてはいけなかった。
出勤時に一回、休憩終わりに二回、締め作業後にもう一回。
どれだけ竹箒を振ったところで、僕の時給が上がることはないというのに。
まだ瑞々しさの残る落ち葉たちは、掃いても掃いても風にのって店の中に舞い込んできた。
あくまで業務であって、楽しい作業とは言えないので、その一枚一枚に「いらっしゃいませ~」と声かけをしてみることにした。
相変わらず楽しくなかったが、黙ってやるよりはいくらか気がまぎれた。
そうしていると、落ち葉の方からも声をかけてくるものが現れるようになった。
「ちょっと探してる本があるんだけども」
僕は「伺います」と言った。
「雑誌なんだけどね。『クリスマスプレゼント特集』というのをやってるものがいい」
僕は『失礼ですが、お客様には必要ないものかと思いますけど』などと頭の中で考えた。
「なんだね、その顔は?」
表情に出ていたみたいだった。
「君は私みたいな者が『今からクリスマスまでに恋人ができるわけない』とか思っているのかね? 不愉快だ!」
そういうわけじゃありません、と必死にその落ち葉をなだめた。
「ああそうとも。たしかに私には恋人がいない。今はな。しかし夢をみたっていいはずだ! 駅前での待ち合わせ。柔らかなキャンドルの火。包装紙のつややかな手触りや、甘いホイップクリームの味を。誰にだって、夢をみる権利くらいはある。落ち葉にだって。違うかね?」
「まったくもって、そのとおりです」
僕は非を認めた。
レジにいるもう一人の店員も、なんだか変な人を見るような渋い表情をしていた。
「こんな無礼な店にはもう来ん!」
落ち葉は顔を真っ黄色にして怒っていた。
「ご来店、ありがとうございました」
僕が竹箒で外に出すと、その落ち葉は風に吹かれて、他の落ち葉のもとへ向かった。
その後ろ姿はどこか寂しげだった。
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