怪奇エアコン人間/綾瀬川乱歩(抜粋)

「ば、ば、化けものだ。エアコンの化けものが、とびかかってきたんだ。」
中年たちは、お化けなんか信じないはずだったではありませんか。

 そいつは胴体がうすきみわるく光り、首から上がエアコンのような、おそろしい化けものだということでした。「エアコン人間」のうわさは、もう、埼玉中にひろがっていましたけれど、ふしぎにも、はっきり、そいつの正体を見きわめた人は、だれもありませんでした。
https://x.com/oukirealty/status/1678600246304161798?s=20

(中略)

 エアコン人間はつめたい息をはきながら
 「うるる…さらら」
 と、わけのわからないことを、言いました。すると中年探偵団の川田君は、ああ、どうしたというのでしょう。逃げだしたくてたまらないのですが、足が動かなくなってしまって、どうすることもできないのです。

 「アハハハハ……川田君、これがおれの復讐だよ。だが、きみたちは、まだかえさない。きみたちを、ここにとらえておけば、いまにASANO探偵がやってくる。それを待っているのだ。うらみかさなるASANOのやつを、うんと、こらしめてやらなければ、気がすまないのだ。」

 そのとき、どこからか、まったくちがった、みょうな声が聞こえてきたではありませんか。
 「そのASANO探偵は、もう、ここへきているかもしれないぜ。」
 「なんだって?もういちど言ってみろ。」おとなしそうな外山助手が、打って変わって、ものすごい顔をしています。

 「エアコン人間とは、きばつなものを考えだしたね。え、窓際君。」
 ああ、窓際三等兵!外山助手の正体は、あのおそろしい窓際三等兵だったのです。なにせ息がつまるような変装の名人ですから、頭がエアコンの化けものに、早変わりするのは、なんでもないことでした。

 「ワハハハハ…。ASANO君、きみは相変わらずすごいうでまえだ。だが、おれは、まだ負けたんじゃないぞ。」
 窓際三等兵はとっさに、外に向かって突進しました。ところが、窓際三等兵のおもわくはガラリとはずれて、大勢の中年が、とびかかってきたではありませんか。

 読者諸君は、もうおわかりでしょう。この中年たちは川田君を団長にいただく、あの中年探偵団でありました。中年たちはもう長いあいだ、何かのときの手助けをしようと、手ぐすねひいて外で待ちかまえていたのでした。さすがの窓際三等兵も、いよいよ運のつきでした。

 こうして、長い間エアコン人間に化けていた、窓際三等兵は、とらえられました。中年探偵団が勝ったのです。こんなうれしいことはありません。
 「ASANO先生ばんざーい!川田団長ばんざーい!」いい年のおっさんたちが一同、声をかぎりに、くりかえしくりかえしさけぶのでした。(了)

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