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【短編】旅の言葉の物語

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旅の途中に出会った言葉たちの物語。 ▼有料版のお話のみを20話読めるのがこちらのマガジンです。 https://note.com/ouma/m/m018363313cf4 こ… もっと読む
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#ニューヨーク

ニューヨークで絵を描く老人が言う「自虐的な口癖があったら言葉の意味を変えるといいよ」の話

 ニューヨークのセントラルパークで、絵を描いている老人に出会った。見たままの色ではなくて、その時自分が感じた風景のエネルギーを色にしていると老人は言っていた。 「自分はもともと、すごく嫉妬深い人間なんだ。いろんなことが人より上手にできない。不器用だと言えば聞こえはいいが、単に頭が悪いっていうだけだ。できる人に憧れたし、才能を妬んだよ。才能の裏に努力はあったのかもしれないが、自分が同じだけの努力をしてもうまくいくとは思えなかったからね」 老人はキャンバスに黄色と白のシマシマ模様

ニューヨークで絵を描いていた老人が言う「誰かを批判したい時に思い出したいこと」の話

「私は、とても素晴らしい絵だなって思いますよ。色合いも独特だし」 「ありがとう」  ニューヨークのセントラルパークに絵を描いている老人がいて、見た目の色とは違う色合いを使った作品に興味を持ち、私は声をかけたのだった。 「誰かを批判する気持ちが生まれた時にね、気づいたほうがいいのは、その批判の裏にある自分の気持ちだね」  ニューヨークのチェルシーにあるレンタルギャラリーで、数年前に仲間と一緒にグループ展をしたと彼は言っていた。その時に一緒に参加した若者の作品に、すごく嫉妬した

絵描きの老人が話す「若さに嫉妬した時に若者に教えられたこと」の話

「若いっていうだけで、応援してもらえてることに嫉妬してね。その時はずいぶん苛立ってしまったよ」  ニューヨークのセントラルパークで絵を描いていた老人は、数年前に初めてギャラリーでのグループ展に参加したのだと言った。友人たちに誘われてレンタルギャラリーを借り、みんなで交代しながらギャラリーで店番したんだと楽しそうに笑う。 「私が絵を描き始めたのは、六十歳を過ぎてからだよ。時間はいっぱいあったから、とにかく描いた。描きまくった。レッスンにも通って、どんどん上達したんだ。だから

ニューヨークのダンサーに聞いた「やりたいことを後回しにしてしまうのはいい兆候」の話

 ニューヨークにあるメキシコ料理のレストランで、私は友達とランチをしていた。友達が連れてきたのはニューヨークでダンサーをしている女性で、彼女は食後にコーヒーを頼み、ブラックのまま味わっていた。 「自分の声を聞いて、実現に向かって行動されたのは素晴らしいですよね。私はやりたいと思うことを後回しにしがちかもしれない」 「あら、それはいい兆候だと思うけど」 「えっ、なぜ? 後回しにしてても何もならないじゃないですか。少しでも進むように頑張るべきなのに」  私はそう言いながら、頑張

ニューヨークのダンサーが言う「焦りには良いものと悪いものと二種類ある」の話

 ニューヨークの友達の家に一か月滞在していた時、友達に誘われてメキシコ料理のレストランに行ったことがある。ニューヨークで外食は高そうだと思ったのでためらっていたが、ランチはそれほど高くないと言われたので一緒に行くことにした。  レストランには友達の友人でダンサーをやっている女性も来ていた。編みこまれた黒髪に褐色の肌の彼女は、右耳に大きな金色のリングピアスをしていた。メニューを見るとランチはそれほど高くない。節約しながら旅をしていたので、安く食べられるのは大歓迎だった。 「ダ

ニューヨークのライターに聞いた「伝えたいことを伝えるテクニック」の話

 ピンク色のロングコートを着た女性がニューヨークのマンハッタンを歩いていた。尖った三角のサングラスをしていて、ほとんど白くなっている髪には羽のついたグレーの帽子が乗っていた。すごくおしゃれな人がいるなぁと思っていたら、その彼女に話しかけられたから驚いた。横断歩道の向こうからまっすぐ私のところに歩いてきて「ハイ、あなた、その服どこで手に入れたの」と聞いてきた。  私は足元が膨らんだタイのズボンに花柄の着物を羽織っていたので、ちょっと目立ったのかもしれない。着物は普段着なわけで

ニューヨークのハイラインで会った「何をやっても主役になれない女性」の話

 三回目のニューヨークで初めてハイラインという遊歩道があることを知った。一か月のニューヨーク滞在の間に、なるべく多くのことを吸収したいと思っていたので、アートのレクチャーやアートスポットをとにかく調べまわり、毎日のように出歩いていた。ニューヨーク在住の友人が行ったことがないなら行ってみたらと言うので歩いてみたのがハイラインだった。  ハイラインは三階くらいの高さのところにある広い遊歩道だった。時折、道の途中にアートが設置されてあって楽しめる。ニューヨークはとにかくアートの多

ニューヨーク在住の友達が言った「くそみたいなことに費やしてるほど人生は長くない」の話

 人の悩みのほとんどすべては人間関係にまつわることだと聞いたことがある。家族や仕事、恋人関係。お金のことも人が絡む。人はいつも、人に悩む。物とはケンカにならないのに、人とは容易にケンカしてしまう。  ニューヨークに住む友人とピザを食べに行った後、セントラルパーク周辺を散歩した。リスにナッツをあげるのだと言って、友人はいつもナッツをカバンに忍ばせていた。私は数日前に友人関係のちょっとしたトラブルに巻き込まれ、思い悩んでいた。公園の周りを歩きながら、友人に聞く。 「うまくいか

ニューヨークのメトロで聞いた「スタートするにはゴールを見ないこと」という話

 ニューヨークのメトロは日本よりも少し暗い。最初はどことなく怖くて、周りを警戒しながら歩いていた。二十年くらい前は確かに危なかったようだけど、現在のニューヨークのメトロは、深夜でも安全らしい。とはいえ、日本ではないのだから、警戒しておくに越したことはない。その日は、酔っぱらっているのかドラッグのせいなのか、独り言を言いながらふらついている男性がいた。私以外の乗客も含め、さりげなくみんな男性から離れていく。 毛糸のベレーにグレーの薄手のコートを着た女性と目が合う。 「なんか

リバティ・アイランドで聞いた「チャレンジの敵は安定」という話

 二度目のニューヨークの時には、自由の女神があるリバティ・アイランドまで渡った。ボートが島に近づくと、乗客が一斉にカメラを構える。私も当然その一人。女神を見上げていると、人の作った巨大な像が、どこか心の支えになることが実感として分かるような気がした。  リバティ・アイランドに来ると、ここに来た記念に証明書を発行してもらえる。せっかくなので証明書の手続きをして、それから島の中を歩き回る。予約をしていなかったので、女神の中には入れずに足元をうろつくだけ。予約をしていれば、頭の部分