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「わがままな人のほうが、神様は助けやすいんだ」の話

「なんでもいいっていうヤツ、まじ嫌いだわ」

 出雲大社の近くで、おそばを食べていたら、そんな言葉が耳に入って来た。顔を軽く上げて声の届いた方向を見ると、男性三人がそばを食べながら楽しげに話していた。パーカーにジーンズというラフな格好を見ると、大学生くらいのような気がする。
「うわあ、俺の元カノまじそれ。超分かる」
「そういう奴ってさ、なんでもいいって言っておきながら、なんでもよくないんだよな」
「そうそう。どこでもいいって言うから、ファミレス行ったら、もっといいところがよかったとか食べ始めてから言い出したりさ。そう思ってんなら、もっと早く言えって思うし」
「分かる~」
「あー、ごめん。オレ、さっきここ入る前に昼飯なんでもいいって言ったわ」
「ユウタは別に文句言ってないからいいんだよ」
「そうだよ。今は、なんでもいいって言ってるのになんでもよくないやつの話してんだから」

 ユウタと呼ばれた黒髪の少年が二人に一生懸命謝っている。真面目な性格なのだろう。両サイドから友人たちに肩パンチされて、ユウタは笑いながらさらに謝る。
「なんでなんでも良くないのに、なんでもいいって言うんだろうね?」
「さぁ、考えてないんじゃね?」
「でもさー、なんでも良くない場合は、自分の希望を言ったほうがその通りになる可能性が高いと思わない?」
「えっ? どゆこと?」
「肉食いたいって言ってくれたら、こっちだって肉食える場所探すし」
「無理無理、肉は予算オーバーでーす」
「いや、予算とかさ」
「予算あるだろ」
「あるけど。てか何、俺がおごる前提? その前提から覆してこーか」
「あはははは、まぁそんなしょっちゅう奢れないよね」
「肉は奢れないわぁ」
 少年たちの会話がおもしろくなって、私はそばをすする音を最小限にしながら耳をそばだてる。
「食いもんだけじゃなくてもさ、言ってくれたらもっと助けられるってことたくさんあるよなー」
「分かる! 高校の時さ、文化祭の準備がめちゃくちゃ遅れてたのに、舞台つくってるやつが全然言わなくて、結局ギリでみんなで手伝って超たいへんだったことあったわ」
「そういうのあるよなー。まぁでも言えなかったこともあるから、オレはなんとも言えないかなー」
「ユウタ、言えないタイプだよな」
「うん、オレ、なんでもいいって言っちゃうし、なんかあんま頼れない」
「よーし、ユウタ、今日から頼ってこ」
 男子の一人がユウタの肩に腕をまわす。
「そうだよ。言えた方がいいよ。だってさ、そばと肉だったらやっぱ肉食いたいだろ?」
「それ蕎麦屋で言っていいやつ?」
「だいじょうぶ。これ肉蕎麦だから」
「だいじょうぶの意味がわからんけど」
「くはは、ユウタが肉食いたいって言ってくれたら、肉分けてやれるかもしれないし」
「えっ。くれるの? ください! 肉ください!」
「いや、やらんけど」
「くれないのかよ~」
「やるやる、ほら」
 もう一人の男子が、肩をまわしている男子の肉蕎麦から肉を奪ってユウタの蕎麦の上に乗せる。
「ああー」
「やったー、サンキュ」
 男子はユウタの肩から腕をほどき、頭を抱えるが返せとは言わない。

「まぁわがままになったほうがいいよな。なんか言ってくれたらいいようにしてやれるし。神様もさ、願いがあるやつの願いは叶えてやれるけど、願いがないやつの願いは叶えようがないからなー」

 私は器を持ち上げて、つゆを飲みながら、彼の言うことは真理かもしれないと考えていた。

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