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「彼女が変わったのは夢を叶えるために必要な目標を立てたからだと思うよ」の話

 友達の手作りだと言って老人が持ってきてくれたクッキーは、王冠の形が華やかにアイシングされていた。
「すごいなぁ。きれいですね」
「私もそう思う。だけど彼女は、本当に叶えたい夢を叶えるために、ずいぶん時間をかけてしまったかもしれない」
「どういうことですか?」
「彼女はね、自分のお店を持ちたかったんだ、ずっとね」
「ああ、いいですね。こんなにきれいに作れたら、買う人も多い気がします」
「だけど、長い間、その夢は叶わなかった。十年、もっとかな。小さくても自分のお店だと言えるものができるまで、だいぶ時間がかかってしまったって言ってたよ」
「へえ、そうなんですね」
 趣味でお菓子をつくるのと、お店をもつのでは全然意味が違う。簡単にはいかないだろう。
「考え方を変えてからは、夢までの道筋がよく見えるようになったって彼女は言ってたよ」
「考え方? もともとはどんな感じだったんですか?」
「ずっとおいしいお菓子を作りつづけて暮らしたい、だ」
「なるほど、いいですね。私もずっと創作をつづけていきたいので分かります」
「それが本当の願いだったらそれでもよかったのかも。作り続けるだけならそれほど難しくない。年に数回お菓子を作るだけだって、十分『作り続けている』ことになるだろう?」
「確かに」
「でも彼女は、自分の本当の夢が『自分のお店をもつこと』だと気づいた。彼女が変わったのはそこからかもしれない」
 老人はキッチンに行き、二つ分の炭酸水を持って戻ってきた。一本のボトルを私に手渡しながら話をつづける。

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