クールジャパンと言うならば(2) 映画づくりは韓国に学ぶべき件

▼ゴンクール著『北斎』の紹介メモを書いていて、「クールジャパン」関連で下記の記事を思い出した。

ポン・ジュノ氏が監督した「パラサイト」がアカデミー作品賞を獲ったニュースには心底驚いたが、その背景についての記事。毎日新聞2020年5月17日付の経済記事から。ソウル堀山明子記者。適宜改行と太字。

〈縦割り打破 韓流快挙/韓国 米アカデミー作品賞〉

〈今年2月9日、米アカデミー賞授賞式でポン・ジュノ監督の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が最高峰の作品賞に選ばれた。米作品の賞レースという性格が強かったアカデミー賞で、非英語作品として初の快挙だ。

 その約4カ月前の昨年10月末、米ハリウッドで映画製作者や評論家約600人を集めたパーティーが開かれた。主催したのは「韓国コンテンツ振興院」。映画やゲーム産業などの人材育成や海外進出を一手に担う政府機関で、「韓流ブーム」の旗振り役だ。会場ではポン監督の作品を次々と紹介し、同院関係者は「影響力のあるハリウッドの核心メンバー約100人には別途説明をした」と明かす。アカデミー賞受賞は、国を挙げた文化振興策が結実した瞬間でもあった。

▼以下、具体的な韓国の取り組みが書いてある。6つに分かれてバラバラだった政府系機関を統合して「コンテンツ振興院」をつくったこと。2020年度の予算は440億円もかけていること、などなど。

▼たとえば日本政府がーー現在は、実質的には経済産業省が、ということになるがーーハリウッドの関係者600人を集めたパーティーを開いて、最も重要な100人には、そのパーティーとは別にプレゼンをする、などという作戦を実行する光景は、経済産業省が主導しているかぎり、想像できない。

日本の場合、具体的には、東宝が何を考えているのか(考えていないのか)が大きい要素だと思うが、それはそれとして、向こうの政府とこちらの政府とで、なんと大きな差がついてしまったことか。

▼日本は、2010年に経済産業省に「クールジャパン海外戦略室」という組織をつくり、2013年には「クールジャパン機構」という名前の官民ファンドをつくったが、大失敗したニュースが記憶に新しい。

▼専修大学教授の福冨忠和氏いわく「日本のアニメが世界で人気を集めたのは、どの国でも普遍的な『無国籍さ』が受けたからだ。政府は日本の伝統文化を絡めて海外に売り出そうとしているが、それが失敗の原因だ」「文化芸術の振興と産業政策を分けて考えるべきだ」

▼まったく同感。文化の話、芸術の話であるにもかかわらず、経済産業省が主導している時点で、よほどの転換がないかぎり、クールジャパン政策の成功はないだろう。だからといって、彼らは韓国の成功に学ぶ気もないだろう。

それが、わが国のお国柄なのかもしれない。

「パラサイト」の快挙から真剣に学ぶ努力は、ひとり日本映画のためのみならず、「アジア」という日本語に生気を吹き込む、いいチャンスになると思う。

(2020年7月9日)

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