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移住して泣いてしまった話

中富良野町にある北星山をご存知だろうか。
町の人に愛されている場所であり、わたしも好きな場所だ。
ラベンダーや季節の花が咲きほこる斜面は、リフトで頂上まで昇れる。
まさに今、最高潮のラベンダー園である。

山のふもとには、売店とテントがある。
知人がリフトに乗るのを見送りながら、ソフトクリームを食べ終えた。

観光客が行きかうなか、小さい子を抱っこしている女性と、夫とおぼしき男性が近づいてきた。
30代かな?
子どもはこちらに微笑んでいた。

男性が女性に言った。

せっかく来たんだから登ろうよ
なんのためにここまで来たんだよ

強い口調ではなかったが、ドキッとした。
この二人、けんかしているのだろうか。
小さい山とはいえ、子どもをしょって登るなんて。
今日はこの夏の最高気温34度をマークしているよ。
この先、険悪なムードがこの素敵な北星山の思い出となるのだろうか。

・・・これはいかん なんとかしなくちゃ・・・

男性は頑丈そうなベビーキャリアを背中に担いでいた。
女性はベンチに腰掛けて額の汗をタオルで拭っていた。

男性は忘れ物を取りに車に向かい、女性と子どもがわたしの近くに座った。

おせっかいモードにスイッチが入ったわたしは、女性に声をかけてみた。

お子さん、何カ月?
どちらからいらしたの?
今日暑いから山を登るのしんどいですよ?

本当におせっかい極まりない。
しかし、女性は嫌な顔ひとつせず、むしろ愛くるしい笑顔で答えてくれた。

子どもさんはもうすぐ1歳。
京都からの旅行。
子どもをおんぶした状態ではリフトに乗れないと言われたため、頂上まで歩くしかない。

え?わたしは京都出身でここに移住したの
中富良野町はいいところですよ
でも歩いて登るなら無理しないでね


そんなわたしのおせっかいに、女性は愛らしい笑顔で返してくれた。
北星山に以前来たことがあると言って、スマホの画像も見せてくれた。
そこには、古い写真が入っていた。ラベンダーいっぱいを背景に、家族がほほ笑む写真だった。間違いなく北星山だった。

これは、両親とわたしと妹です
30年前にここに来たんです
この時と同じ写真を撮りたくて
今回やってきました。

まぁ、なんて素敵なおはなしなんでしょう

女性が拡大してくれた写真を見ながら談笑していたところに、ちょうど男性が戻ってきた。

あれ?
あれあれ?
なんか見覚えがある・・・。

もう一度写真を見ると、その男性の服が、写真の中の父親とそっくりなのだ。女性に確認したところ、当時父親が着ていた服と同じ色の服を選んだそうな。加えて、女性が着ている服も、写真の母親が着ていた服と酷似している。さらにさらに、子どもが着ている服は、女性が当時着ていた服を仕立て直したという。

涙が出てきた。なんて幸せなお話なんだろう。
思い出も、そして思い出を繰り返す行動も。
移住して初めて泣いた。

涙の理由は感動だけではなかった。
男性の言葉の意味がわかって恥ずかしくなったのもあった。

せっかく来たんだから登ろうよ
なんのためにここまで来たんだよ


せっかく買ったベビーキャリアを、使わずに帰るなんてどういうことだ!と怒っているところを妄想してしまったことを、わたしは心の中で詫びた。

その男性は、妻が撮りたいと言った写真を実現するために、北星山を登るために、ベビーキャリアをわざわざ用意して、この炎天下にもかかわらずおんぶして登ろうとしていたのだ。

冒頭のセリフは、素敵な目的があるからこそだった。


涙を流しているわたしは、さぞ不気味だったろうが、2人は最後まで笑顔でお付き合いしてくれた。子どもは泣き叫ぶこともなく、終始ニコニコしていた。

お願いしてこの素敵なご夫婦を撮影させてもらった。
ブログで公開したいことも伝え、快諾いただいた。
なんともおおらかな2人だった。

2人が中富良野町に移住してくれたらいいのにな。

そう思っていたら、なんと、二人はすでに検討しているという。
よほど良い記憶が中富良野にあるんだろうな。嬉しい。

子育てに優しい中富良野町。小学生までは医療費補助があったり、無償保育があったり。


お恥ずかしい失敗で毎日が過ぎるが、驚きの展開になることも多い。
だからこれからも恐れずに失敗しようと思う。
おせっかいに失敗はない。

しらんけど


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