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誰も雇われない時代

デジハリのライブ授業のために、リモートワークに関する最近の動向を調べてみたのですが、いろいろ考えさせられました。

出社という形態をとらず、遠隔で仕事をすることを指して、リモートワークテレワークと呼ばれることが多いです。ノマドワークなんて言葉も一時期流行りましたが、今はあまり使われなくなった気がします。

テレワークという言葉の出自は意外と古く、南カルフォニア大学のIT研究者であるジャック・ニールズが1973年に作った造語だそうです。

リモートワークとテレワークはほぼ同義語と捉えて差し支えないと思いますが、日本ではテレワークのほうに「ICTを利用して出社せずに仕事をする」というニュアンスが含まれているようです。

テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方です。

テレワークの意義・効果(総務省)

この投稿ではふたつの呼称が混在しますが、出典元に合わせて表記します。

2023年現在のテレワーク事情

株式会社パーソル総合研究所が8月15日に発表した「第8回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」によると、2023年7月のテレワーク実施率は22.2%で、2020年4月以降で最も低くなったそうです。

【全国】従業員のテレワーク実施率 推移(正社員ベース)

コロナ禍の影響で2020年から増加傾向にあったテレワーク利用率が、コロナ前の日常風景に戻っていくにつれ、みるみる減少しているのが分かります。

私たちのようなWebクリエイティブ職は、あらゆる職種のなかで最もテレワーク実施率が高いようですが、それでも1年前と比べて減少しています。

コロナ禍以前からテレワークを継続している弊社からすると、なぜ減少するのか理解ができないのですが、原則出社にこだわる企業も根強く存在するようです。

職種別テレワーク実施率 ベスト10

雇用される側は、一貫してテレワークの継続を望んでいます。81.9%もの正社員がテレワーク継続を希望しているそうです。

テレワーク実施者のテレワーク継続希望以降 推移

そりゃそうでしょう。出社しなくても仕事ができるのであれば、誰が好き好んで居心地の悪いオフィスで働きたいと思うでしょうか。

企業は従業員定着のために、費用をかけて快適なオフィスづくりに励んできたわけですが、テレワークのメリットを知った従業員が、快適なオフィスよりも好きな場所で働きたいと思うのは当然のことでしょう。

ところが、従業員の意に反して、テレワーク実施率は減少傾向にあります。経営者サイドはテレワークを排除し、出勤を増加させたい意向を示しているのです。

テレワークへの反応の違いに見る労使間の溝

CNBCの報道によると、Googleは6月にハイブリッド・ワーク・ポリシーを更新し、従業員の身分証明証のデータでオフィスへの出欠を追跡すること、出勤状況を業績評価に含めることなどを盛り込みました。

FacebookやInstagramなどのSNSを提供するMetaも、9月から週3の出勤を全従業員に促す発表をしました。CEOのマーク・ザッカーバーグは「オフィスに出勤したエンジニアの方が、リモートで参加したエンジニアよりも平均してパフォーマンスが優れていた。」と自身のブログで発信しました。

テスラのCEOイーロン・マスクに至っては「在宅勤務は道徳的に問題がある」と批判しているとか。自宅からノートパソコンを立ち上げることは生産性を低下させるばかりでなく、職場に出勤しなければならない従業員に対する冒涜である、と言っているようです。

テレワークによって生産性が下がったという主張については、逆に生産性が上がった企業もあるので眉唾です。どちらかというと、管理コストの削減だったり、帰属意識の向上だったり、そういった別の狙いがあるのではないかと感じます。

世界に広がる「静かな退職」

海外の企業では、経営者からの出社要請に対して社員が抵抗しているというケースも見受けられます。

米保険大手ファーマーズ・グループは2022年、約2万人の従業員の大部分に在宅勤務を認めた。そのため、勤務地の近くを離れ、他州に引っ越す人までいたが、ラウル・バルガスCEOは2023年5月、週3日の出社を要求。従業員から強い反対の声が上がっていると、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が伝えている。

雇用主が出社を要求し、従業員が抵抗するという構図は、テスラやウォルト・ディズニー、アマゾン・ドット・コム、ニューヨーク市役所など全米各地で広がっている。

出社要請に抵抗する社員たち 売り手市場で続く働く側の主導権(リクルートワークス研究所)

週5日出社に最も抵抗しているのは、年収2000万円超の上層部だそうです。経営者に近い側の社員すらリモート勤務を支持しているとは、経営者と従業員との間には断絶とも言えるぐらい深い溝が出来ているようです。

コロナ禍を経て、ワーク・ライフ・バランスやメンタルヘルスに気を遣いながら、無理なく適度に仕事をするという習慣が定着したのでしょう。

近年、仕事を中心としない働き方を指す「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が注目を集めているそうです。

「静かな退職」とは、組織に在籍しながらも契約通りの仕事だけを淡々と行い、退職したかのように精神的な余裕を持って働くこと。米国を中心にトレンドになっているキーワードで、仕事とプライベートの境界線を明確に引き、「仕事は仕事」と割り切ってやりがいや自己実現を求めない働き方のことを指します。米国では「Quiet Quitting」という言い回しで広まりましたが、日本語に訳すと「静かな退職」「がんばりすぎない働き方」などと表現されます。

もしかしてあなたの職場にも?静かな退職(Quiet Quitting)とは(Yahoo! Japan ニュース)

アメリカのマーケティング会社であるギャラップ社によると、アメリカの労働人口の50%以上が「静かな退職」を選択しているとのこと。

日本でも、ハイブリッドワークや雇用形態によらない働き方の推進などに後押しされて、静かな退職を選択する人が増えていく傾向にあるようです。

経営者にとっては非常に悩ましい状況です。労働条件上は雇用されていながらも、精神的には雇われていると思っていないのですから。

会社も一緒に変わっていくしかない

経営者とて人間です。無理なく適度に仕事をして会社が存続できるんだったら、そちらを選びたいという人も少なくはないでしょう。

しかし、福沢諭吉の言葉にもあるように、現状維持を望むことは衰退することに他なりません。同じことをのらりくらりと続けていては、現状維持すらままならない。経営者はそのことを経験則で知っています。

おおよそ世間の事物、進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。
進まず退かずして潴滞する者はあるべからざるの理なり。

学問のすすめ(福沢諭吉)

とはいえ、長時間労働や休日出勤などを美徳とするハッスルカルチャーが、現代の働き手にマッチしていないのは明らかです。企業は誰もが働きやすい職場環境を提供しつつ、確実な利益を追求していかなけばなりません。

あるいは、経営者自身が生成AIを使いこなせるようになって、誰も雇わない企業を目指すしかないですね。いずれにせよ、進まざる者は退くのみです。

時代が大きく動いているのを感じるこの頃です。

では。


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