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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第11話

第11話 太陽のコウモリたち-1-

ーー前回ーー

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”じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・”

”つんつん”
「おおう!?なんやこいつ!何しても無表情や!!ほれ!ほれ!」
「何してるんだよ。洋一よういち。馬鹿がもっと馬鹿にみえるぞ。・・・そもそも、誰ですか?坂上さん。」
「あら~、すごい鮮やかなオレンジ色の髪ねぇ。太陽の申し子みたい。」
「へへっ!俺はいち早くさっちゃんに会ってたからね!!」
「ーはぁぁぁぁぁああ・・・」

ここは雲の宮殿。別名、コウモリの洞窟。そのとある一室。
坂上と幸十が雲の宮殿に到着した瞬間、バンに見つかりそのまま引きずり込まれた。

バンに引きずられていく坂上の後をたどり、中に入る幸十。
宮殿の中は空の宮殿に比べると小ぶりで、どこか質素に見えるが、所々太陽の装飾が壁に施されていた。

”ギシ・・・ギシ・・・”
枯れた木の板でできた今にも壊れそうな階段を登ると、開けた大きな部屋に着いた。
すこし丸みかかった高い天井に、壁は一面黄色・水色・オレンジのタイルで敷き詰められている。
ある程度の大きさがあり、数十人は入るのではないかという部屋だが、資料や武器のようなものや、本で散らかっており、広い床に足の踏み場があまりなかった。

ところどころ机も複数あるが、本や資料がわんさか積み上げられている。
よく見ると、何やらよくわからない機械の様なものも色々と転がっていた。

そんな足の踏み場のない場所で埋もれていた固いソファーを、発掘するかのようにバンが積みあがっていた資料をどけると、幸十に座るように言った。
座るや否や、どこから現れたのか、幸十の前にぞろぞろと人が集まってきた。

囲まれた幸十はどう反応していいのか分からずじっとしていると、坂上がいつものようににこやかな表情で幸十に聞いた。

「幸十くん。喉乾いてませんか?何か飲みますか?」
「・・・うん。ここには井戸はあるの?」
その問いに、坂上はぽかんとしていると、坂上と幸十の間に誰かが入ってきた。

「なんや、あんさん。井戸水でも飲みたいんか?あはは!そんなん、いつの時代や!」
そう話したのは、先ほど雲の宮殿の屋上から話しかけた声と一緒の人物だった。
黒髪に、肩まであるツンツン髪のその容姿。
少し釣り目な瞳は、どこか悪戯好きな雰囲気を感じさせる。幸十より少し年上の青年のようだ。
耳に十字型の銀のイヤリングをしているのが特徴だ。

「分からない。けど、井戸水しか飲んだことない。」
幸十の回答に、その場にいた全員がぽかーんとした表情になった。

”ドス!”
「・・・っう」
「なにーー?!この子!ちょっと私と一緒の匂いがする!私も幼い頃は、井戸水ばかり飲んでいたものーー!!」
すると、その青年を肘でどけ、とある女性が幸十の前に出てきた。
ベージュ色のくせっけのある髪を肩よりもう少し伸ばし、緑色の瞳が特徴的な女性だった。瞳の色と同様、前髪は緑色だ。

「今では金の亡者・・・・やけどな。」
”ドス”
「う・・・」
一言付け加えた青年の懐に、もう一度肘を入れる女性。

”スっ・・・”
「とりあえず、水。」
いつの間にか、幸十の目の前にコップが持ってこられた。
持ってきたのは、グレー色の髪と瞳をした青年だった。
黒髪の青年と同じくらいの年齢に見える。
幸十は差し出されたコップを受け取った。

バンは、疲れた様子で机の上に腰を下ろすと口を開いた。
「ー坂上、どういうことだ。説明してくれ。この子は誰なんだ?」
バンの問いに、坂上は少し考えると、笑顔で言った。

「ーさぁ?」
すかさずバンは坂上の襟元を掴んだ。
「あはは、バンくん、落ち着いて。イライラし過ぎますと、疲れちゃいますよ。」
「あんたが疲れさせてるんだろうが!!!」
バンが坂上を叱っていると、水を持ってきてくれた青年が幸十の着ている薄青のペラペラな服を見た。

「・・・というか、坂上さん、もしかして医療室から連れて来たんですか?患者服・・・のままじゃないですか。メリー班長に話しは通してあるんですよね?」
「はい。ナバディ部長にお会いしましたから、大丈夫でしょう。」
坂上は、バンに首元を締め上げられながら笑顔で言った。

「さっちゃん、生きてて良かったよ・・・。あのタマゴたちに、変な薬とか飲まされなかった?大丈夫だった?」
琥樹こたつが涙を浮かべ、幸十の両手をぎゅっと握る。
「うん。大丈夫。琥樹こたつだけだったみたい。」
その言葉に、琥樹こたつが苦い顔をする。

「なんや。琥樹こたつ。あんさん知り合いか?」
琥樹こたつに絡む黒髪の青年。
「知り合い・・・というか。丁度俺が任務から返ってきた時に、一緒の医療室にいたんだ。本当に・・・あの医療室・・・任務の時より死を感じる場所なんだけど・・・本当っ・・・!」
琥樹こたつはタマゴたちにされてきた仕打ちを思い出し、遠い目をした。

「あ、そうそう。坂上さんが拾ってきたって、メリーさんから聞いたんだけど。」
メリーに言われたことを思い出す琥樹こたつ
依然バンに締め上げられる坂上に言うと、坂上は頷いた。

「はい。皆さんに、快く見送られて東の街に言った時に・・・」
「あれのどこが快く見送ってんだよ!!」
咄嗟に叫ぶバン。

「あはは!ほんま!バンはん、あのまま湖に飛び込もうとしてたんやで?仕事への執着心やばいやろ。しかも1週間も風呂入ってない体で。」
「世界一綺麗と言われる湖に・・・。うわ、汚い。」
「そこ、うるさい。」
「通報があった女の子に事情を聞くと、裏山に大きな音がしたというので行ってみれば・・・あら不思議。幸十くんがボロボロの身体で倒れていたのです。」
「だから拾ってきたと?」
「はい!バンくん、正解です!」
「正解ですじゃねぇんだよ。」

首を更に絞めるバン。更に嫌な予感がよぎる。
「坂上、まさかとは思うが・・・。には報告しているよな?」

すると坂上は、左手を頭の後ろにあてる。
「あー、どうでしたかねー?」
にこやかに言う坂上に、バンの怒りは頂点に達していた。


――次回――

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