【掌説】スマホを置き忘れたら

ひと気のない夕陽のさす教室。
仲村浩次だけが上半身裸のまま自席に着いている。
白い肌には何色ものマジックで落書きがされている。

教室のスピーカーからは蛍の光と下校を促すアナウスが流れる。
廊下に慌しい靴音が響く。教室の扉が意気よいよく開けられて須磨美都が慌ただしく入ってくる。

「ヤバ、スマホ忘れる、えっ……仲村くんどうしたの。あっ、そのスマホわたしのなんだけど、そう、そっちの」

「ああ、そうか、落ちてたよ、須磨さんのだったんだ」「ありがとう。えっ、ちょっ、ちょっと待って」

仲村は須磨のスマホを窓から投げ捨てる。
須磨が窓際に駆け寄るタイミングに合わせて仲村は須磨の足元を掬い上げて窓外に投げ落とす。

残ったスマホを通話にする。
「どう、上手く撮れた?」「バッチリ」
仲村は窓から斜め上にある西棟の屋上をみる。
お互いの健闘を称えるようにサムズアップ。