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「睡眠」というスーパーパワー

2019.4 マット・ウォーカー

●睡眠と睾丸の関係
5時間睡眠の男性は7時間以上の人に比べて統計的に睾丸が小さい傾向にあります。また、男性ホルモンであるテストステロンのレベルが、10歳年上のレベルと同じと言われています。
つまり、睡眠不足は10年も男性を老化させる。
それは、男性だけでなく女性も同じです。

●脳と睡眠の関係
ここ10年の研究で明らかになったのは、「学習後は睡眠が必要」ということです。それは、「保存」ボタンを押して新しく学習した内容を忘れないようにする為です。
また、最近の研究で分かったことは、「学習前にも睡眠が必要」ということです。なぜなら、脳を学習に備えるためです。乾いたスポンジのように、新しい情報をたくさん吸収する準備をするのです。睡眠不足だと、記憶回路がいわば水浸しの状態になり、新しい記憶を吸収できません。

●「徹夜」には利点があるのか?
さまざまな個人を集め、二つの実験グループに分けました。睡眠グループと睡眠不足グループです。
睡眠グループは、たっぷり8時間の睡眠をとります。
睡眠不足グループは、実験室の監視下に置き、寝ないようにさせます。昼寝もカフェインも禁止なので被験者は辛い状況です。
その翌日に、彼らが新しい情報を頭に入れている時に脳の活動状況をMRIのスキャナーで調べました。その後、テストで学習効果を調べます。

結果は、睡眠不足グループは睡眠グループに比べ、40%も学習効果が下がってしまいました。
学習を受ける年代の睡眠の取り方を考えてみてください。40%もの差があれば、好成績を収めるのと落大してしまうくらい大きな差です。

次に、なぜこのような学習障害が起こるのかを探りました。
脳の中には「海馬」と呼ばれる組織があります。

「海馬」とは、いわば脳内の情報の受信箱です。新しい情報を受け取るのに長けている組織です。
睡眠をたっぷり取ったグループの「海馬」は、学習に関連した健康的な活動が多くみられた一方で、睡眠不足のグループでは、優位な信号が全くみられなかったのです。

睡眠不足によって、記憶の受信箱が閉鎖されてしまい、新しい経験を効果的に記憶することができないのです。

●睡眠を取った場合、どんな生理学的性質によって記憶や学習能力が日々回復し改善されるのか?
睡眠グループの頭部に電極をたくさん付けて見てみると、非常に深い眠りについている状態では、大きく強い脳波が観察されました。この脳波が大きく高まった瞬間に、睡眠紡錘波と言われる突発的な電気活動が見られました。この深い眠りでの脳波の組み合わせこそが、夜間にファイル転送システムのように機能して、記憶を短期記憶から長期記憶へ移動させ、記憶を守り、保護するのです。
このような睡眠中の脳内の記憶の処理のプロセスは医療的、社会的に大きな意味があるため、理解することはとても重要です。

●老化と認知症と睡眠の関係
老化と共に記憶力と学習能力が低下することは誰もが知ってる事実です。しかし、それだけでなく生理学的特徴として睡眠の質も低下することが分かりました。
老化によって記憶力、学習能力の低下を引き起こしていたのではなく、睡眠の質が低下することによって、それらを低下させていたのです。それは、認知症にもアルツハイマー病にも関係しています。
つまり、それらの病気は、睡眠の質を変えたり何か行動することによって予防できるということです。
睡眠導入剤は、自然な睡眠をもらたすことはできません。

●睡眠不足と心臓血管系の関係
春に1時間の睡眠を減らしてしまうと、翌日に心臓発作の件数を24%も増加します。逆に、秋に睡眠時間を1時間伸ばすと心臓発作の件数を21%も減少させます。
これは、最終的には自殺率、自動車の事故率などにも関係してくるくらい大きなことです。

●睡眠と免疫細胞の関係

この青い線のような細胞を「ナチュラルキラー細胞」と呼びます。この画像は、がん腫瘍を破壊しているところです。この細胞は、危険なものを見つけて排除するのに長けています。

一晩だけ4時間の睡眠を減らし、どれだけ免疫細胞に影響があるのかを実験しました。

すると、「ナチュラルキラー細胞」が70%も減少してしまったのです。これは重大な免疫不全状態です。
睡眠不足はガンの発生リスクと大いに関係していることが判明したのです。
睡眠不足とガンの関係性が非常に高い為、世界保健機関(WHO)は、夜間勤務がある仕事全てを発がん性があると分類しています。睡眠リズムを乱すからです。
睡眠時間が短ければ短いほど、寿命がも短くなるのです。睡眠不足は、ガンやアルツハイマー病を発症するリスクだけでなく、生命の構造そのものである遺伝子コードさえも蝕むのです。

健康な成人を集め、1日の睡眠時間を6時間に制限し1週間過ごしてもらい、その後8時間で同じように過ごしてもらいました。
すると、重要なことが2つ分かったのです。

1つ目は睡眠不足により、711個もの遺伝子活動が乱されていました。

2つ目は50%の遺伝子活動が活発になったが、もう半分の50%の遺伝子活動が減少していました。睡眠不足によって活動が減少していた遺伝子は、いずれも免疫機能と関係する遺伝子でした。ここでも免疫不全が起こっているのです。睡眠不足によって、亢進が見られ活動が活発になった遺伝子は、腫瘍発生を促進する遺伝子、慢性的炎症に関する遺伝子、ストレスに関する遺伝子でした。それらは、心臓血管系の病気を引き起こす関係があります。睡眠不足はそれらの病気から逃れられないのです。DNAの核酸でさえも改悪してしまうのです。

●質の良い睡眠を摂るためには
①有害で悪影響をもたらすアルコールやカフェインなどを控える
②昼寝をしない
③同じ時間に起き、寝るという規則正しい生活をする
 ※週末でも平日でも同じ
④身体の摂子温度を1〜1.5度低めにする
 ※暑すぎる部屋より、寒すぎる部屋の方が眠れる
  大体部屋の温度は摂子18度くらいが丁度いい

●眠れない場合
寝室から離れて別のことをする
→寝室は起きている場所と脳が錯覚を起こしてしまうから、眠い時だけに寝室に行くようにする


●まとめ
睡眠は、生物学的に必要なものです。生命の維持装置であり、母なる自然が限りなく不死を目指した結果なのです。今こそたっぷりと睡眠を摂る選択をする時です。そうすれば、生命の最強の万能薬を手に入れることになるのです。

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