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DESIGN:デザインのあるべき姿

【TSURUMIこどもホスピス✖️MIYOSHI KŌ】限定 日本酒をデザインする

このプロジェクトは「深く生きるとは?」ということを考え、デザインのあるべき姿なのかもしれないと感じた貴重な体験だったので、noteに書かせていただきます。

人生の大半を治療に費やしてしまうことって良いの?


表題にもあった、TSURUMIこどもホスピスという施設は、大阪市鶴見緑地公園にあります。

人生の大半を治療に費やしてしまうような重い病を抱えるこども達を支えるTSURUMIこどもホスピス。僕がこのホスピスと関わらせていただいたのは、設立時にロゴをデザインした時からです。

TSURUMI こどもホスピス エントランスのロゴマーク
施設内のサイン

ホスピスという言葉を聞いたことがある人も、重い病と戦うこどもたちがいて、穏やかに痛みを和らげながら最後を迎える場所と思われがちですが、TSURUMIこどもホスピスは抜本的に違います。

人生の大半を治療に費やしてしまうことって良いの?? それってこどもにとって生きるってことなの? と、こどもがこどもらしく生きることを常に考え、常に進化し続けている場所です。「だから、深く生きる。」というキーワードを掲げ、「やりたい!」を「できた!」に変えていこうというWEBのコンテンツも、その意識が踏襲されていると感じます。

だからこそ、重い病を抱えるこども達では難しいお泊まり体験などもできたりと、まだまだ日本では類のない場所がTSURUMIこどもホスピスです。

ワークショップはプロの現場ではない?


前にホスピススタッフの方と雑談中に「第一線のプロの現場をみせることができたら…」という何気ない一言がありました。

僕はその方の力になりたかったし、デザイナーだからこそ何かできることはないか?という気持ちでした。

僕一人だったら、きっとデザインのワークショップを開催して、みんなでデザイン体験・共感ができると思ったのですが、それはプロの現場ではないという違和感がありました。

構想を進める中で、信頼できる仲間との武器を組み合わせれば「できた!」(プロの現場を見せることができる!)になると思いつきました。

その構想に不可欠な存在が、僕が立ち上げからクリエイティブディレクションをさせてもらっている日本酒、山口県の阿武の鶴酒造の杜氏・三好さんと、僕のデザイン案件でいつも映像部門を支えてくれているムービーディレクター・モーションデザイナーの川島さんです。二人に応援を求めました。

後悔はさせない。大事なモノ


「仕事というのは、お金など大事なことはたくさんあると思うけれど、今回はそういった面では申し訳ないけれども、でも絶対に後悔はさせない。何よりもっと大事なものを与えられるはずだから力を貸してほしい」と、ストレートに伝えると、即答で「もちろん、やります!」と、二人とも快く引き受けてくれました。本当にありがたかったです。

二人の参加が決まったことで、当初考えていたデザインワークショプの枠を超えたプロジェクトを始動させる事ができました。

日本酒のラベルを作るというものです。
一般的なワークショップのように、ラベルをデザインしてみようという体験ではなく、実際にそのラベルが製品に貼られ出荷もされるというものです。

ホスピスとお酒は医療現場とも近しい部分もあり、暗黙の了解でお酒はタブーとされがちなのですが、TSURUMIこどもホスピスという柔軟で革新的な場所であるからこそ、お酒という「大人のモノ」のコラボは類のない先進的なものとなり、新しい切り口となるのではないか?と、ホスピス賛同も得て導かれたかのようにスタートを切ることができました。

そして、TSURUMIこどもホスピスに重い病気と戦いながらもデザインを志す子を選定していただき、齊藤 愛里ちゃん、長井 優太くんの、二名がこのプロジェクトに参加してくれることとなりました。

二名と聞くと少なく感じるかもしれませんが、実際に準備、対話、体力面や技術力などなど、様々なことを考えるとデザインに当てられる時間は2〜3時間程度。その時間内でデザインを完成させるとなると、複数人でのワークショップというのは不可能でした。
ですが、僕がしたかったのはワークショップでもなくプロの仕事に触れるコトでもなく、プロのいつもの仕事に最初から最後まで一緒に体感してもらういう全てであって、これはホスピスが掲げるコンセプト「だから、深く生きる。」ということに繋がると思い、どんなに厳しい状況でも製品化させるというのが必要だと感じていました。それが、TSURUMIこどもホスピスと今回集まった仲間だからこそ「できる」。そんな気がしたのです。

いつもの仕事の流れと、あり方を体感すること


映像の川島さんが加わってくれたことで、さらに多面的なアプローチも可能になりました。映像は記録という意味も勿論ありますが、確実に参加できない田植えやお酒造りの工程も二人に視覚的に伝えられます。
当日もデザインしている自分たちを客観的に見ることもできます。
そして、まとめられた映像が製品発売後の宣伝・販促ツールとしても使用されていく。
製品となったお酒は消費者の手に渡り、ホスピスを知らない酒好きによる酒へのコメントもあるだろう。美味しい!ラベルが可愛い!もちろん逆の酷評もあるかもしれませんが、それもまた今回のプロジェクトでは大事な事だと考えていました。

酷評を受けることも生産者やデザイナーが常に付き合っているごく普通のことだからです。そのように、実際デザインに関わるということは、デザインし終わってからも続く見届ける期間もあるのです。

酒造りの工程・生産・製造・デザイン・ディレクション・製品化・販売・宣伝・販促・そして、評価をもらい、自分へと返ってくるまで。

この一連の流れは単なるワークショップではなく、いつもの仕事の流れであり、いつもの仕事のあり方です。

このプロがしている【いつもの仕事】をちゃんと二人が全て体感すること。
思い描いた構想が、みんなの力を借りて、【やりたい!】が、【できた!】に、近づいていく気がしました。

必然の静けさ、自分との対話


デザインの作業中は、まさに時間との勝負でした。自分でも2〜3時間で日本酒のラベルを二つ完成させるのは至難の技です。
事前に二人から日本酒のイメージ素材をもらい、そのデータをパソコンに取り込み、一気に作業を進めました。

長井 優太くんとのデザイン作業

さすがに慣れていないPCでのデザイン作業ともなると、なかなか難しいところもあるので、基本的には自分がデザイン助手として作業を補いつつ、二人にはディレクションという部分もやっていただきました。

齊藤 愛里ちゃんとのデザイン作業

二人のデザインを交互に触りながら意見を汲み取り進めるのですが、二人の懸命な姿勢に熱い想い、通常ワークショップでは考えられないような息を呑むスピードと緊張感で、まさに真剣勝負をしている時間でした。
僕と二人の会話、タイピングの音。その音の中で、どんどんデザインは進んでいきます。

「やりたい!」を、「できた!」に変えたプロジェクト。だから、深く生きる。


このプロジェクトに関わった全ての人が、誰かのために。この子のために。あの人のために。その想いだけで完走しました。
僕の中でも貴重な経験で、長い人生の中でも意味を持つような、ピュアに走り切ったプロジェクトだと思います。

命や、生き死にという言葉が日常的に使われる環境で、僕たちは皆一丸となって「人生を太く」「深く生きるために。」そんなことを考えて行動していました。通常のデザイン案件ではなかなか得られない感情です。
ただし、その考えや気持ちはデザインや仕事・生きる上でも本質に近いと改めて考えさせられました。

ホスピスという特殊な環境もあり、この子にできる限り教える今この時が、この子の人生を変えるターニングポイントとなる。リアルにその時間をその気持ちで動いていたと思います。

全てが合わさることで完成される。プロの仕事に触れるということ


終わった後、集中力が切れるとドッと疲労感に包まれましたが、なんとも心地よい疲労感だったのを覚えています。
プロジェクトを通し会話をする中で、賛同してくれた三好さんや川島さんからも同じような感情が芽生えたと確信しています。
人してのあり方とは?生きるということは?そこまで考えさせられる本当に心が熱く震えるプロジェクトでした。

TSURUMIこどもホスピスさんが書いてくれたブログも、また違う切り口でとても興味深い内容になっています。
僕がロゴパパ・つるみちゃんパパと呼ばれていたり(割と最近まで知らなかった)、このプロジェクト自体も、こんなふうに考えて行動してくれていたんだとか、違う側面からの思いも知る事ができるので、現場のリアルを読んで知っていただきたいです。


二人がデザインした日本酒、MIYOSHI KŌの製品詳細もシェアさせていただきます。
2人がデザインした日本酒「MIYOSHI KŌ(コウ)」>>

デザインのあるべき姿


このnoteの記事もホスピスさんのブログも、全てが販促の一部となりホスピスでデザインに挑戦してくれた二人にとって「プロの仕事に触れる」デザイン後の販促編となるのです。

田植えから最後のアプローチまで含めて、全てのパーツが合わさる事で、やっとすべての工程が見える・二人にデザインの流れを伝える事ができる。
一つ欠けてしまっても体現できなかったであろう、完成されたプロジェクトとなりました。

改めてになりますが、ワークショップという枠を超えた、人が人のために、デザインこそ人のために。本質に改めて触れることができました。
何かを与えることはできないか?そう思っていた僕ですが、与えてもらったのは僕の方だと背筋がグッと伸びた一日でした。

川島さんが制作してくれた映像では二人が頑張っている勇姿が見れるますので、こちらも是非ご覧ください。

愛里ちゃん、優太くん、よく頑張ったね!
この日本酒がどんなふうに流通していくのか、僕も楽しみです。
ご協力いただいたホスピスの皆さん、ありがとうごいざました。

2人がデザインした日本酒「MIYOSHI KŌ(コウ)」
左:Designer:齊藤 愛里(Airi Saito) / 右:Designer:長井 優太(Yuta Nagai)
二人への制作秘話&インタビューはこちらから → TSURUMI PR

Creative Director:石黒 篤史(Atsushi Ishiguro)/ OUWN & People and Thought.
Chief Brewer:三好 隆太郎(Ryutaro Miyoshi)/ 阿武の鶴酒造
Movie Director : 川島 真美(Mami Kawashima)/ DRAWING AND MANUAL
Artdirector & Designer:齊藤 愛里(Airi Saito)
Artdirector & Designer:長井 優太(Yuta Nagai)
Childminder:川戸 大智(Daichi Kawato) / TSURUMIこどもホスピス
Nurse:古本 愛貴子(Akiko Furumoto)/ TSURUMIこどもホスピス
Nurse:西出 由実(Yumi Nishide) / TSURUMIこどもホスピス


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