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小人が閑居して不善をなしまくったんです

 「小人しょうじん閑居かんきょして不善ふぜんをなす」という言葉があるんです。「ダメなやつは暇になるとよくないことをする」というような意味で使われているようです。

 ポイントは「不善」です。字を見ても明らかに「よくないこと」なんです。「悪いこと」ではない。ネットで調べると、「悪いこと」と訳されているページもございますが、ニュアンスとしては「よくないこと」とか「ロクでもないこと」とかのほうが近いように思われます。

 先日、友人と話をしていたら、なぜか「『小人閑居して不善をなす』の『不善』って、例えばどういうことだと思う?」と尋ねられました。思わぬ角度からの質問にまごまごしていると、友人は「自分はこれだと思う」と言って、具体例を出してきました。

 あるところに、ウエットティッシュが気になる男がいました。何が気になるって、「ウエットティッシュに書かれた『200枚入り』は本当なのか」というただ1点でした。早速、男はウエットティッシュの蓋を開け、「1枚、2枚」とどこぞの怪談皿屋敷みたいなカウントしながらウエットティッシュを引っ張り出してゆきました。ちゃんと200枚あったので男は満足したそうですが、周囲は酷い光景でした。真っ白なウエットティッシュ200枚が無造作に散乱し、ゆっくりと乾燥していたんです。引っ張り出したウエットティッシュは容器に戻すわけにはいきませんし、乾燥してしまうため取っておいて後で使うわけにもいきません。何しろ200枚ですから片づけるにしたって手間がかかります。

 悪事じゃないけど「何してくれてんねん」みたいな行為ですね。どうでもいい目的でウエットティッシュを無駄にし、掃除の手間まで発生させる。綺麗な不善と言えばそうかもしれません。少なくとも、不善の一例として妥当です。そんなことするやつは小人といじられても仕方がないでしょう。

 結局、その時の私は妥当な不善の例を挙げられず、悔しい思いを致しました。あまりに悔しかったのか、不善の例をそれからも探し続けまして、ようやくいくつか思いついたんです。

 例えば、とある少年はカラスエンドウという、春になるとあちらこちらで見られる野草の豆で遊んでいました。最初は豆を取り出すだけだったんですが、やがてそれだけでは満足できなくなり、どういうわけか「鼻の穴に入れては出す」という遊びに手を出しました。そんな遊びに手を出すような少年でしたから、自分で取り出せなくなるくらい奥まで入れるのは時間の問題でした。取り出せなくなって初めて慌てるも母親に助けを求めれば怒られるに違いない。どうしようかとまごまごしていた少年が反射的に大きなくしゃみをしたところ、大量の鼻水と少々の鼻血に混じって豆は無事に出てきました。

 こんな例もあります。とある少年はビーズで遊んでいました。ビーズと言えば色が綺麗ですから子供にとっては見ているだけでも楽しいものですが、そのうちに少年は「耳に入れる」という新しい遊びを開発してしまいました。ええ、遊びを開発してから数分後には、ビーズを耳の奥まで入れてしまったんですね。さすがに耳からくしゃみを出すわけにもいかず、少年は母に助けを求めますと、速攻で耳鼻科へ連れていかれ、呆れる医師によって摘出されることとなりました。

 あとこんなこともありました。とある少年は1センチ四方の磁石で遊んでいました。その遊び方が「口に含む」というオリジナリティに溢れるものだったため、ついつい磁石をゴックンと飲み込んでしまいました。少年はすぐさま母親に泣いて助けを求め、速攻で病院送りとなりました。レントゲンで取ると確かに見覚えのある四角い影が消化器系に存在している。「そのうち出てくるでしょう」という医師の推測のもと、少年は卒業したばかりのおまる生活に逆戻りです。医師の推測通り、翌日に磁石は出てきまして、捨てればいいのに母はしっかり洗ってしばらく使い続けていました。

 なんでこんな具体例をスラスラ書けるかと言えば、お察しの通り上の3例は全部私がやらかした出来事だからですね。噂ではどの国の病院も、お尻によく分からない物体を奥まで入れて取り出せなくなった男性がやってきて、医師が摘出手術をするのだそうです。普通の人はそういう馬鹿は国を問わずいるんだな、という笑い話に発展するんでしょうが、馬鹿側の人間としては素直に笑えないわけです。というか逆に、鼻・耳・口と来ておいて、よくお尻で遊ばなかったなと思うくらいです。子供なりに、さすがにもうまずいと思ったに違いありません。やっぱり、磁石を飲んでのレントゲンは子供心に「何をしてんだ俺は」と大層へこんだんでしょう。

 だから、私はあまり暇を持て余さないよう心掛けております。

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