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疑似スパムメール議論

 友人と某テーマパークに行く予定があったんです。そのテーマパークは何しろ人気のテーマパークでございますから、開園前から人が並んでいるんです。我々はそれぞれ前売り券を買って現地集合し、早く着いたほうが先に並ぶという戦略を立てました。当時はスマホがない時代でしたが、携帯はメールも電話もできる。連絡には充分です。私は安心して当日を迎えました。

 当日、私は開園前にテーマパークのメインゲートに辿り着きました。既に人が並んでいますが、そこそこ前のほうを陣取れました。場所を確保できたところで地面にシートを敷いて座り、友人の携帯にメールを送ったのですが、返事がありません。電話をかけてもコール音がなるだけで留守電にも繋がらない。

 友人はあまりマメに連絡するタイプではございませんので、最初はそこまで気にしていませんでした。しかし、開園の時刻が近づくにしたがって、だんだん落ち着かなくなって参りました。忘れているなんてことはまずありえませんから寝坊したのか、それとも向かう道中で事故に遭ったのか。あれこれ予想しながらひたすらメールと電話で連絡を取ろうとしますが、友人から返事はありません。

 ちょうどその時、一通のメールが来ました。ようやく来たかと思って確認したら、見たこともないメールアドレスからでした。内容はこんな感じです。

パンダです。調子はどう? こっちはギリギリ間に合うと思うよ。

 よりによってこんな時にスパムですか。紛らわしい。そもそも何ですかパンダとは。怪しいサイトへ引っ張り込むにしたって、もっと別の方法があるでしょうに。

 私はメールを速攻で削除して、友人からの連絡を待ちました。しかし、何も連絡が来ないまま、ゲートにスタッフが並び始めました。会場時刻が近づいてきた証拠です。座っていた客は次々に立ち上がって入場の準備をし、私もまた立ち上がりました。せっかく早起きしたってのに、ひとりでテーマパークを満喫する羽目になるんでしょうか

 いやいや、さすがにひとりでアトラクションをはしごする勇気は私にありません。開園したとしても、いつ来るか分からない友人をメインゲート付近でひたすら待つことになるでしょう。これは先が思いやられる。そう思って後ろを向くと、だいぶ離れた場所から「おお、星野!」と私を指さして叫ぶ怪しい男が確認できました。確かに友人です。

 友人は係員に説明して私のそばまで案内してもらいました。開園3分前。まさにギリギリです。これで遊び倒す準備は整ったわけですが、その前に私は疑問を解消しておこうと思いました。

「何で連絡しなかったんだ?」
「いやあ、携帯を家に忘れてきちゃってさ。でも、連絡はしたぜ?」
「連絡? 来てないよ」
「したよ。知り合いの携帯からだけど」
「あのスパムか」

 私は思わず声が大きくなってしまいました。

「スパムじゃねえよ。電車に乗ってたらさ、たまたま知り合いに会ったんだよ。だから、お願いして星野のメアドに連絡したんじゃんか。それをスパムはひでえよ」
「だったら、メールに名前くらい書けよな」
「知り合いがメールするのを面倒くさがってさ、あんま長文を送れなかったんだよ。だから、代わりにパンダって送っただろ」

 確かに友人はパンダ好きを公言しており、メールには必ずパンダの絵文字をつけて送ってました。私の友人知人で最もパンダが好きな人だったのは確かです。でも、知り合いの携帯は絵文字ができないタイプだったので、文字の「パンダ」をメールに書いて送ったんだそうです。

「分かるわけねえだろ」

 私がツッコんだところでゲートが開いたので、疑似スパムの件はひとまず脇に置いて遊び倒すことにしました。

 友人のあのメールをスパムと見なした私の行動が仕方のないことなのか、それとも私の判断はまずかったのか。彼と会うと、今でもたまに冗談半分ではありますが、議論になります。もちろん、私は友人が悪いとの主張を譲る気はありませんし、友人は私が悪いと言って聞きません。改めてこうやって文章にしてみると、どっちもアホな気がして参りました。

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