見出し画像

実家の虫トラップ

 実家の母屋が古いんです。戦火を免れたと言いますから、なかなか結構なお点前です。

 これだけ古いと、いくらリフォームを重ねに重ね、窓という窓をピッチリ閉めようと、どうやら必ず隙間風が入ってくる決まりになっているようです。

 隙間風と言うからには、家のどこかに隙間が生じているわけで、隙間が生じていれば風以外にも大小様々な生命体が入ってくる。最も大きい生命体ですと屋根裏にハクビシンが入り込んだときがございます。

 ハクビシンはそこそこでかい哺乳類でありまして、そんな輩が通れる穴を隙間と言っていいのかという話ではありますが、とにかくいろんな生命体が室内に現れますし、棲んでいる我々もそれを当然のものとして受け入れておりました。

 極端な例としてハクビシンを出しましたけれども、家に入ってくる生命体の代表格は虫です。カやハエはもちろん、手のひら大のアシダカグモまで、割とバラエティに富んでいます。

 例えば、帰省した私が実家の居間でゆっくりしていたんです。座椅子に腰かけて机の下に足を伸ばし、一点をぼんやりと見つめる。完全に油断した状態でございました。

 なんか足の甲にフワッとしたものが乗ったなと思ったんです。長い髪の毛か、はたまた糸か何かが足の上に乗っかったかのようでした。

 しかし、足は机の下にあるわけで、上から何か落ちてくるとは考えづらい環境です。じゃあ、さっきのフワリは一体何なのか。私は机の下を覗き込みました。

 ムカデでした。長さ20センチ超えのムカデが、膨大な脚をモシャモシャ動かしながら床を爆走してたんです。

 ムカデは噛みますから、居間は大騒ぎです。祖母なんかは慣れたもので、新聞紙と一升瓶を持ってきて「ムカデは頭を潰せ」と化物退治ばりの物騒なアドバイスをしてきます。どうもムカデは生命力が強く、専用の殺虫剤でないとなかなか倒せない上、尻尾を潰したくらいでは反り返って噛みついてくるそうです。

 家に入ってくる嫌な虫と言えばハエやカ、ゴキブリなどがメインでしょうけれども、実家は田舎ゆえにムカデも出てくるわけです。しかも、居間の床に新聞を広げて読んでいますと、新聞の上にポトッとムカデが落ちてくるんです。天井まで一生懸命上ったムカデが足を滑らせて新聞紙に着地したようです。なんて恐ろしい。もちろん、そのあとは祖母の一升瓶アタックです。

 そんなことが起きるので、今でも実家の居間でくつろいでいるとき、そばの床に何か落ちる音がしますと毛が逆立つくらいビビるんです。大半は別のものが落ちた音なんですが、やっぱりたまに当たりというか外れというか、ムカデを引くんです。

 実家が一番落ち着きません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?