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題名読書感想文:11 どんな形で繰り返しても注意を引くのが繰り返し

 敢えて題名だけを読んで感想を書く、そんな読書感想文を最近やっています。今回のテーマは「繰り返し」です。

 「繰り返し」は、少なくとも繰り返さないものより珍しいようです。だから、何かが繰り返されていると、人は「あ、繰り返してる」と気になるんだと思います。

 そんな「繰り返し」を人は昔からいろんな形で活用してきたようです。同じ言葉を敢えて繰り返すことで強調する手法は「反復法」と呼ばれ、紫式部も活用してきたようですし、同じボケを繰り返して笑わせる手法は「天丼」と呼ばれ、これまたお笑いとしては伝統的な手法であり、基礎知識のひとつに数えられます。同じ期間を何度も繰り返す物語は「ループもの」と呼ばれており、こちらも歴史あるジャンルとなっています。

 同じ「繰り返し」でも強調したり笑わせたりと効果は様々ですが、いずれにしろ注目されやすいものではあるようです。だから、何かの偶然でたまたま「繰り返し」のような状態になったとしても、なんか気になってしまうんです。

 それは書籍のタイトルでも時折見られる現象です。例えば、こちらの「統治不能社会――権威主義的ネオリベラル主義の系譜学」です。

 重複している箇所は「権威主義的ネオリベラル主義」ですね。「主義」が繰り返されています。「主義に主義が重なってるけど大丈夫?」と心配してしまいそうになります。

 ただ、文法的には特におかしくはなさそうです。要するに「権威主義っぽいネオリベラル主義」というわけで、「別の主義みたいな要素がある主義だよ」みたいな感じなんでしょう。ただ、タイトル内に「主義」がふたつ入っている上、ふたつの主義を「的」で繋いでしまった。「っぽい」に比べて「的」は文字数が少ない上に漢字ということもあって、前後をより強固に繋いでいるように見える。だから、ひとつの「主義」の中にもうひとつ「主義」という言葉が重複して入っているように見えてしまったのかもしれません。大丈夫です、書いてる私が最も混乱しています。

 もうちょっとシンプルな繰り返しもあります。例えば、「PPP/PFIの教科書」です。

 PPPは「パブリック・プライベート・パートナーシップ(Public Private Partnership)」の略でございまして、「官民連携」とも言うようです。「行政が展開する公共サービスを民間と一緒にやってみる」みたいな意味のようです。そして、PFIは「プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(Private Finance Initiative)」の略でございまして、「公共サービスの管理や運営などを民間の資金でいろいろやってみる」というような意味のようです。

 PPPだけでも充分にPが繰り返されているように思えるんですが、PFIというのがPPPの代表的な手法になっているためか、PPPの後にPFIをくっつけた、「PPP/PFI」という表記が特定の分野ではよく見られます。結果的にPが4つ続く形となっており、かなり目を引く略語が出来上がった。

 なんか「PPP/PFI」を読むと、頭の中に三三七拍子が浮かんでしまいます。「PPP!PFI!PPPPPFI!」みたいな。

 書籍のタイトルならではの「繰り返し」もあります。

 書籍には「版」というものがございます。書籍は印刷物でございますから、一旦刷って発売してしまうと、どれだけ時間が経っても内容はそのままです。本が売り切れたからといって重版をかけても、やっぱり同じ内容の本が印刷され、販売される。

 そうなると、時が経つにつれて本の内容が古くなる場合があります。もしくは別の理由で、著者が内容をちょっと変えたくなる場合もあるでしょう。そんな時、書籍の内容を一部変更し、改めて発売する場合があります。その際、以前に発売された本と区別をするため、タイトルに「版」を併記するのが一般的です。

 1年ごとに改訂していく本の場合はタイトルに「2024年版」をくっつける感じで出していきますけれども、もっとゆっくりなペースで改定する場合は「第2版」とか「改訂版」とか「増補版」なんかをタイトルにくっつけて出版することが多いです。ゆっくり改訂のほうの「版」は教科書や専門的な本なんかによく見られ、表紙を細かく確認するとタイトルのそばに小さく「第2版」とか書かれていたりします。

 「版」ほどではございませんが、内容を一新してしまうレベルに変わった場合にはタイトルの頭に「新」をつける場合もございます。しかし、この版と新がかぶっているパターンが稀に出てくるんです。それが「新版 新・労働実務相談 第3版」でございます。

 「新」と「新版」がかぶってるのはもちろんなんですが、この本は「新版」の「第3版」と更にひとひねり利いているのがポイントです。「版」も繰り返していますし、「新」も繰り返しているわけですね。

 恐らく最初は「労働法実務相談」が発売され、続いて内容を一新した「新・労働法実務相談」が出版、後にその新版が生まれ、更にその新版の細部をちょこちょこ改訂するたびに「第2版」「第3版」となっていったのではないかと考えられます。いずれにしろタイトルは複雑な繰り返し方をしており、私はまた訳が分からなくなっています。

 続いての繰り返しは「ケースで学ぶケーススタディ」です。

 「ケーススタディ」とは日本語で「事例研究」という意味がありまして、実際に起きた出来事を分析することで問題の解決や再発防止に役立てる作業を指すようです。

 つまり、この場合の「ケース」は「事例」を意味し、上記タイトルを日本語だけで表現すれば「事例で学ぶ事例研究」となります。全部日本語でもちゃんと重複してします。当然と言えば当然です。

 タイトルは書籍の顔とも呼べるものですから、当然ながら著者も編集者もあれこれ考えて名付けているはずなんです。だから、「ケース」の重複は敢えてやったに違いありません。しかし、その意図がイマイチよく分からないんです。

 敢えて「ケース」を繰り返して注目されることを狙った可能性は充分に考えられます。しかし、繰り返しの欠点として、我々が体験してきた通り、読んでて訳が分からなくなる可能性がございます。上記タイトルは目立つには目立ちますが、首を傾げてしまうようなタイトルでもあるんです。繰り返しはバランス加減が難しいのかもしれません。

 ラストも恐らく敢えてやっているタイトルです。「服 服 服、音楽 音楽 音楽、ボーイズ ボーイズ ボーイズ」でございます。

 原題も「CLOTHES CLOTHES CLOTHES MUSIC MUSIC MUSIC BOYS BOYS BOYS」です。3回繰り返すのを3回繰り返していますね。

 この書籍はUKパンクロックの女性ギタリストが書いた回想録のようです。書籍のタイトルで3回繰り返すのを3回繰り返す形はまず見られません。そんな独創的な形式のタイトルではございますが、単語をただただ繰り返しているだけなのに、著者の人となりと申しますか、どういう半生を歩んできたかが何となく分かるタイトルになっています。「繰り返し」をうまく使ったタイトルの好例と言えます。

 ついうっかり繰り返してしまったと思えるものから、敢えて繰り返したと思われるものまで、いろんな繰り返し型タイトルを紹介いたしました。いずれにしろ、繰り返しは人の注意を引くもののようです。

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