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痴漢冤罪が新時代の変質者を生みかける

 ズボンのチャックを開けっぱなしのまま日常生活を過ごしてしまう時はあるものです。位置的につい閉め忘れてしまいがちですし、場所の割に皆さん意外と見てないのか、それとも場所が場所だけに指摘しづらいのか、全開に気づかずに1日を過ごしてしまう場合もある。家に帰って着替える時になってようやく全開に気づき、またやってしまったと思うことが今でもたまにあります。

 そんな全開ライフを満喫していた時のことです。知人からこんな話を聞きました。事実かどうか微妙な話ですので、あくまで噂だと思ってお読みください。

 その昔、知人の職場で逮捕者が出たそうです。と言っても、知人はその人と接点がなく、同僚から「あの部署であの業務をしてる人らしい」と聞く程度の薄い関係性だったようです。

 職場で逮捕者が出たとは言え、仕事はしなければなりませんから、知人は同僚の話を聞き流して業務に戻ろうとしたそうです。しかし、同僚はやけに深刻な顔をしている。知人はつい話を聞いてしまったそうです。

 同僚によると、逮捕容疑は電車内での痴漢でした。ただ、痴漢の決め手となったのが、ズボンのチャックが全開だった点だったそうです。

 折しも痴漢冤罪が社会問題化した頃でございまして、だから男性社員はみんな戦々恐々したわけです。電車で誤解の生まない体勢をしていても誰かから痴漢を疑われ、たまたまチャックが空いてたら一発アウトになってしまうからです。

 特に私のようなウッカリめの人間にとっては一大事です。チャックが全開の時に痴漢の疑いをかけられたら社会的に終わってしまいます。これはいかん。どうにかしてくれ私のウッカリ。知人の話を聞いたばかりの私はさすがにビビり倒しまして、しばらくは自分のチャックの様子をいちいち確認していました。お陰で全開率は下がりましたが、やたら自らの股間をチェックするニュータイプの不審者が出来上がった気もします。

 そんなニュータイプ不審者も喉元過ぎればでございまして、時間が経つとだんだん股間の開閉チェックを怠るようになりました。すっかりチェックをサボるようになったある日、知人が続報を届けてくれました。

「痴漢で捕まった人、証拠不十分で不起訴だって」
「冤罪ってこと?」
「そうみたい」

 所詮は人づてに聞いた話ですから、どれだけ事実なのか私には分かりかねます。どこかで事実がねじ曲がった噂話なのかもしれません。とりあえず、当時の基準だとチャック全開はアウトまで行かないけども捕まる要素にはなり得たらしいです。

 ただ、少なくともビビりまくった私が新時代の変質者になりかけたこと、これだけは完全に事実です。

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