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もしかしたら、あえて。


近所のジョナサンに、すごく素敵な人がいる。

その人の佇まいは、

ジョナサンの店員というよりはまるで、
パレスホテル東京で働く人。

ファミリーレストランで、ホテルにいるような接客をしている。

ある日私はモーニングセット499円(ホットケーキ、茹で卵、ドリンクバー、スープ)を注文して、ブレンドコーヒーを飲みながらパソコンを開いた。

その人はそっと近づいてきて、「もし良ければ、あちらにスープもあります」となんとも言えない、慎ましい笑顔と距離感で教えてくれた。

マスクで顔半分隠れているのが残念なくらい、美しい笑顔だった。


その後、北欧の方だろうか、

金色の髪のふくよかな女性が一人で入ってくると、

その店員さんはさらっと、流暢な英語で席へ案内した。

私は「あの方英語話せるんだ」と驚いていると

タッチパネルでの注文の仕方やドリンクバーの使い方など、
物腰柔らかく丁寧に説明し、

気がつけば、安心しきったその客の笑い声が高らかに響いていた。

いまどき日本ではこんな光景は普通なのかもしれないのだけど、

ここはあまり外国人もいない街で、

ジョナサンで、

その外国人の大きな明るい笑い声はとても尊くて、
いつまでも聞いていたかった。


私はその店員さんをみて「ホテルで働かないのかな?」とふと思ったけれど

そのまま私は自分のエッセイに没頭して

注文したパンケーキが冷めてしまっていることに気が付かなかった。

少し経ってパンケーキに目をやると、さりげなくその店員さんは近づいてきた。

「よろしければ、お食事温めなおしましょうか?」と言ってくれた。

「え、いいんですか?」

こんなことをファミレスで言われたのは初めてだった。

嬉しい。

私は何度も店員さんにお礼を言って、
温めなおしてくれたパンケーキを、パソコンを打ちながらではなく
ナイフとフォークを取り出して背筋を伸ばして食べた。

そして気がついた。

その店員さんは私からだけでなく、お客さん皆から、
「ありがとう、ありがとう」と言われながら働いていた。

そして、思った。

もしかしたら、あえて。

もしかしたら、あえて。

あの人は〈ファミレスで〉働いているのかもしれない。

私はそんな勝手な想像をして、勝手に感動して、お店を出た。


おわり


【追記】
ジョナサンというと、映画『花束みたいな恋をした』を思い出します。
私のときめく女優No.1有村架純ちゃん。この映画のことを考えると1日終わってしまいそう。学生の頃、おもいきり恋愛しておいてよかったなぁ。

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