「エウェルへの求婚」登場人物・用語・地名一覧

ケルト神話・アイルランドの伝承「エウェルへの求婚」の登場人物、用語、地名一覧です。本編はこちらからお読みください:https://note.mu/p_pakira/m/mc07a94fb37f6


登場人物
・クー・フリン:アイルランド北部アルスター国きっての英雄。この物語、及びアルスター物語群の中心人物。その名前は「クランの犬」を意味する。半神半人の英雄であり、平時は美青年だが、戦いとなると変身し、歪で醜悪な巨体になる。その力の強さ、戦闘技術の巧妙さ、そして気性の荒さから、敵からも味方からも恐れられている。この物語では、アルスターの女性たちがあまりにも彼に首ったけのため、妻を迎えることになる。
・エウェル:貴族フォルガル・モナッハの娘。女性の持ちうるあらゆる美徳を備えており、貞淑で、手仕事に長け、機知に富む。
・フォルガル・モナッハ:ブリウグであり、エウェルの父親にして、悪鬼フォウォーレ族の一人。クー・フリンによる娘への求婚を妨害する。
・シュケンメン:もしくはシュケーネ・メン。フォルガル・モナッハの妹。彼女から〈シュケンメン(シュケーネ・メン)の浅瀬〉という名前がついた。
・〈戦士〉ドウナル:アルバに住む戦士。クー・フリンをはじめとするアルスター戦士たちに修行を施す。
・ドルノル:ドウナルの異形の娘。クー・フリンに好意を持つ。
・スカーサハ:異界に住む女戦士。クー・フリンに修行を施す。戦士でありながら詩人でもあり、予知の力を持つ。その名前は「影」を意味する。
・ウアサハ:スカーサハの異形の娘。「恐怖」の名を持つ。クー・フリンに好意を持つ。
・アイフェ:スカーサハの宿敵の女戦士。クー・フリンに敗れ、彼の子を身ごもる。その子は「アイフェの一人息子の死」でクー・フリンに殺されるコンラである。スカーサハと姉妹であるとする伝承もある。
・クアルとケット:スカーサハの二人の息子として名前が挙がる一方で、、アイフェの配下の三人の戦士のうち二人としても名前が挙がっている。
・ロイグ:クー・フリンの御者にして友人。
・コンホヴァル・マク・ネサ:アルスター国の偉大な王。クー・フリンの父の一人。
・デヒティリャ:もしくはデヒティネ。コンホヴァルの妹で、クー・フリンの母。
・コナル・ケルナッハ:アルスターの英雄。
・ロイガレ・ブアダハ:アルスターの英雄。
・フェルグス:アルスター国の重鎮。コンホヴァルの前の王。
・カスバズ:コンホヴァル王の側近の賢者(ドルイド)。
・〈毒舌〉のブリクリウ:巧みな話術で人々に不和と諍いを引き起こすアルスターの男。「ブリクリウの饗宴」という物語における事件の発端。
・フェル・ディアド:スカーサハに弟子入りするためにやって来た戦士達の一人。「クアルンゲの牛捕り」ではクー・フリンの友として現れるが、彼と戦う。
・〈赤縞〉のルガズ:クー・フリンの乳兄弟にして友。エウェルに求婚するが、クー・フリンが既に求婚したと知って辞退する。代わりにデルヴォルガルと結婚する。
・デルヴォルガル:クー・フリンに助けられ、彼に求婚する姫。父親はルアド王。
・マハ(1):エウィン・ウァハの起源譚の中で出てくる女神。インボスの息子サンリャスの娘マハ。アグノーマンの息子クルンフーの妻。双子を身ごもっていたにもかかわらず、脚が速いことが知れて馬と競争させられ、双子を産み、呪いを残して死ぬ。その呪いは「クアルンゲの牛捕り」にて発現する。
・マハ(2):エウィン・ウァハの起源譚の中で出てくる女神。マハ・モングルアズ(「赤い髪のマハ」)。彼女の父親アイド・ルアドは、ある時代ディソルヴァ、キンバイスと交代でエーリゥを統治していた。
・ディソルヴァ:他二人の王とともにエーリゥを支配していた。マハ(2)に王位を要求されて断り、彼女に滅ぼされた。彼の五人の息子たちは彼女の奴隷となった。
・キンバイス:他二人の王とともにエーリゥを支配していた。マハ(2)と結婚する。
・テスラ:フォウォーレ族の王。物語に直接登場はしないが、何度か言及される。その名前は「海」を意味する。
・モーリーガン:戦いと恐怖の女神。物語に直接登場はしないが、何度か言及される。カラスに変身して軍勢の頭上を飛び回り、不気味な声で鳴いて恐慌と混乱、同士討ちを起こす。一方で優しき母神的な性質をも持つ。クー・フリンとは浅からぬ因縁がある。
・ルグ:英雄神。物語に直接登場はしないが、直接的・間接的に何度か言及される。クー・フリンの父とされる。
・ネフタン:神。シェガシュの井戸を持ち、ボイン河の女神ボアンを妻に持つ。
・ボアン:ボイン河の女神。シェガシュの井戸を侮り、その水に飲まれて河となった。夫とされる神は多く、その中にはヌァザ神もいる。〈ヌァザの妻の前腕〉と〈ヌァザの妻のふくらはぎ〉の名前はボアン、すなわちボイン河を暗示している。
・フェデルム:女性、恐らくは女神の名前。〈フェデルムの髄〉の名前は、フェデルムとボアンの同一視を前提にしていると思われる。


用語一覧
・戦車:tankではなくchariot。箱型の車体に四つまたは二つの車輪がつき、馬が二頭つながれる。車体には御者と戦士が一人ずつ乗り、槍を投げたりして戦う。
・ブリウグ:訪れた者に無際限のもてなしを行う、公共的な役割を担う富者。その役目の見返りとして、王に相当する名誉を持つ。
・王:アイルランドはいくつもの小邦(トゥアス)から成り、それぞれの小邦に王がおり、一地域の王の中でも有力な王がおり、それら有力な王の中でも……というようなピラミッド階層があった。そして五大国で最も有力な王がその国の王となり、その更に上には高王という最高の王位があったことになっている。
・トゥアス:アイルランドの政治的構成単位である国。その規模は有事の際に七百人から三千人の戦士を集められる程度のものであったという。アイルランドに同時に存在したトゥアスの数は、およそ150個であったとされる。
・フォウォーレ族:アイルランドの周辺に土着する悪鬼。異形の存在であり、人間がアイルランドに入植するよりも遥か昔から存在している。アイルランドにやってくるあらゆる者に戦いを仕掛け、支配し、食べ物や子供などを奪い取る。その名前は「海の下」を意味すると考えられる。
・シー:神々の住む異界。「ネフタンのシー」など、その領主の名前とともに言及されることもある。語源は「丘」を表す語であり、アイルランドに多く存在する丘の下には神々――後には妖精――が住むとされる。
・マグ・トゥレドの戦い:神々(トゥアサ・デー・ダナン)と悪鬼(フォウォーレ族)の戦い。フォウォーレ族に支配され重圧に苦しんでいたトゥアサ・デー・ダナンが、両社の血を引く英雄神ルグを王に迎え、これを打倒した。
クアルンゲの牛捕り:アイルランドの伝承で最も有名な物語。クー・フリンが一人でエーリゥの全軍と戦う。
・ガイ・ボルガ:恐るべき槍。英語読みのゲイ・ボルグで広く知られる。クー・フリンの必殺の武器であるが、この物語でスカーサハからその使い方、あるいはこの槍そのものを伝授される。
・英雄の鮭跳び:クー・フリンの得意技。恐らくは川を遡る鮭のように、高く跳躍する。アイルランドの伝承で、跳躍力は英雄に必須の資質である。
・ゲシュ : 禁忌、タブーなどと訳される。物語においては、しばしば個人に対して課される禁忌であり、それを破ることは死や破滅をもたらす。王は常に厳しいゲシュを課される。


地名一覧
・エーリゥ:アイルランドのアイルランド語における呼称。
・アルスター:アイルランド北部の一国。アイルランド五大国の一つ。
・エウィン・ウァハ:アルスターの王都。
・〈赤枝〉の館 : コンホヴァル王が所有する三つの館の一つ。
・ミーズ:アイルランド五大国の一つ、アイルランドの中心にあると考えられていた。その最も中心はタラであり、タラの丘には高王の王宮があった。
・タラ:アイルランド五大国の一つでありアイルランドの中心地であるミーズのさらに中心にあるとされる。タラにある王宮には「高王」と呼ばれる、王たちの王、アイルランド最高位の王が住まうとされていた。
・ブレグ:ミーズの中でもとりわけ観念上重要な地域。タラの丘もこの地域に存在する。その名前は「丘」の複数形であり、丘はアイルランドにおいて古来よりダーナ神族・妖精の住まう地とされている。
・ボイン河:アイルランドでも有数の大河。神話・宗教的に重要な川であり、これが神格化された女神ボアンは神々の妻であり母。
・シェガシュ:ネフタンという神の領域にある神秘の井戸。ネフタンの妻ボアンはシェガシュの井戸の力を侮り、その罰としてこの井戸から噴き出した水に襲われ、ボイン河となった。〈シェガシュの流れ〉とはボイン河のことを暗示している。ボイン河はこの井戸から流れ出て、世界中を流れてからまたこの井戸へと還流してくると語られる。場所によってその名前が異なるとされ、その中にはイタリアのテヴェレ川などの世界的な川もある。
・ルグロフタ・ロガ:フォルガル・モナッハの領地にある場所。娘エウェルは普段ここにいる。
・アルバ:スコットランドのこと。ただしアイルランドの伝承におけるアルバはおおむね、現実の場所ではなく異界として存在する。
・大いなる罪:現在のDelvin River。

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