彼はかつて中折れ帽を着けていたが
今はトルコ帽をひけらかしている
話すことの全てに神秘哲学かぶれの皮肉
煙草を吸って再び仕切り直す
カサブランカの月の下で

彼は新聞紙の裏に身を隠しモスクの影に潜む
渡ってきた大陸は数えきれない
党員たちのあとをつけ 霜に残る足跡
アクナルバサック・ヌームの下で

ホボーケンのどこかで彼の正体が暴かれた
男が言った、彼は敗訴を喫し
極東へと送られた
二重スパイは二度裏切った

彼の顎髭にはコカインが染み付いている
彼のパズルのピースはとかく嵌まらない
上流階級の人間が彼のあらゆる顔を
南コーカサスの硬貨に判押ししようとしている

足下に気をつけたほうがいい
遅かれ早かれ彼の頭のない死体が
通気孔から見つかることになるだろうから

金属糸のような汗の筋が彼の目をひりつかせ
神経症が化けの皮のひび割れから
精液のようににじみ出る
暗い売春宿で彼の悲鳴は鏡を叩き割った
カサブランカの月の下で

昨晩ついに彼は気が触れて
壁は崩落し彼の前に立つ全人類に出会ったのだ
皆意味深な仕草で手を掲げていたが
彼にはそれが理解できなかった

※注

とあるスパイ稼業の男の栄華と没落？

Acnalbasac NoomはCasablanca Moonのさかさ読み。