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28歳で15歳と10歳の女の子の父親になった話② タバコをやめた話

タバコをやめた日付は正確に覚えていないが、やめたきっかけは明確に思い出せる。あれは結婚してしばらく経った日のことだ。
前回も書いたが、私は28歳のときに10歳以上年上の妻と結婚し、同時に突然15歳と10歳の女の子の父親になった。20年以上前のことだ。その当時はタバコを吸っていた。ヘビースモーカーというほどではないと思うが、1日1箱くらい吸っていたと思う。

タバコ吸いはじめ

中学を卒業した頃から吸い始めた。最初に吸ったのはハイライト。1980年代後半、すでにハイライトはアナクロな銘柄だったが、パッケージのデザインが好きだった。未成年だったので当然隠れて吸っていた。実家の自分の部屋で吸っては、コソコソと吸い殻を隣家との間の隙間に捨てていた。親は、今では考えられないことかもしれないが、「火事でも起こされたら大変だ」ということで黙って灰皿を与えられた。以来10数年間、ほぼ喫煙していた。風邪を引いても吸いたがってしまう自分があさましくて嫌だった。
余談だが、私が喫煙真っ只中だった1990年代はまだ喫煙に寛大だった。国内も海外も。大学生の頃、ヨーロッパに1ヶ月間貧乏旅行をしたが、街中に吸い殻がポイ捨てされているさまは日本以上だった。海外、特に欧米は禁煙運動が盛んだと聞いていたからけっこう驚いた。
まあ、もちろん喫煙は健康に良くないと知ってはいたが、やめようという気はさらさらなかった訳だ。

質問「タバコ吸ってもいい?」

結婚前に子どもたちに尋ねてもみた。「タバコ吸うけどいいかな?」と。長女は「外で吸うのは構わない。家で吸うなら換気扇の前で。」、次女は「吸ってもいいよ、気にしないから。」そんな感じに答えてくれたと思う。
ということで私は結婚前と変わらず喫煙を続けた。毎日夕食後には換気扇の前で吸っていた。
そんなある日、次女がボソっと言った。
次女「ほんとは吸ってほしくないんだ。」
私「ごめん、煙たかった?」
次女「そんなことないけど…タバコ吸うと長生きできないんだよ。」
そう言った。一言一句正確というわけではないが、かなりはっきりと覚えている。
無理させていたんだなと思った。まだ10歳の子が「タバコを吸ってもいいか?」と尋ねる大人の男に対して「ダメだ」なんてなかなか言えるわけないじゃないか。なんでそこに気がついてやれなかったのか。けっこう自己嫌悪した。
そして次の瞬間、ふっと思った。「もうタバコやめよう。」と。この子に無理をさせたくないし、喜ばせたかった。
たしかまだ半分以上の本数が残っていたタバコを箱ごとゴミ箱に入れた。「この1箱を吸い終わったらやめよう」などと考えたら絶対にやめられないように思えたからだ。
タバコを吸わなくなった私に次女は「やめてくれてよかった。でもつらくない?」と聞いてくれた。「全然」そう答えた。嘘だった。吸いたかった。とにかく吸いたかった。自分が喫煙する様子を、文字通り夢にも見た。
でもそれ以来20数年、1本も吸っていない。ここ10年以上は吸いたいと思うこともなくなった。50歳を超えてフルマラソンを完走できるのも次女のおかげかもしれない。

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