【短編小説】魔法使いになりたかっただけ その5【連載】
こんな調子で書かれていた日記の中の彼女は、それでも大学を卒業して立派に就職することが出来たようだ。日々の記録としても毎日ちゃんと書かれているのがわかる。
社会人になってからも毎日毎日欠かさず書かれており、仕事に奮闘していた姿も、目に浮かぶようだった。
ん? と私は妙に思った。
そうして調子よくパラパラとめくっていた私だったが、ふっとある場所でその手が止まった。それはノートの、最後からニ冊目を読んでいた時だ。
ある日を境に全く書かれていない。それまではその日にあったこと彼女なりの愚痴、そしてその改善点が考察として書かれていたのだが、最後の日から白紙のページが続いているだけだった。
おそらくこの辺りなのだろう。玲子がいなくなったのは。ではもう一冊は一体何なのだろう。
私は最後の一冊を手にとった。
たった今読んでいた、最後から二冊目のノートには「10」の番号が振られていた。しかし最後の一冊には番号が書かれていなかった。
そしてなんだか、
これまでとは違う嫌な感じがした。これまでのノートには彼女の日々の記録が書かれていた。それは紛れもない「生」の記録。だから生き生きとしたオーラを感じた。
しかしこのノートからはそんなものは感じなかった。代わりに感じるのはとても陰鬱な負のオーラ……。
私はページをめくるのを躊躇した。
しかし、おそらくここに玲子の行方不明になった理由が書かれているだろう。どこにいるのかさえも。
そう考えた私は、思い切って表紙を開いた。
初めに感じたのは、やはり違和感だった。
1ページ目の見出しには「―――へ」と再び私の名前が書いてあった。そしてその下には、異様な雰囲気の文章が書かれている。
その字を眺めているうちに、違和感の正体が明らかになった。
これまでのノートと……なにか違う、と私は直感した。
筆跡はこれまで呼んできたノートと変わらない。しかし、なんというか生気めいたものを感じない、どこか無機質な字だった。
私は異様な雰囲気を感じながらも、まずは読んで見ることにした。そうしないと、何も始まらない。
私は読み進めた。
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