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no.25 義母、誤嚥性肺炎になる(その3)

8/19(土)
8 : 30 往診あり。
昨日からの点滴と酸素吸入の成果であろう。義母の体温は平熱まで下がり、呼吸も落ち着いたように見える。

医師が義母の肩に手を置き、耳元で
「〇〇さん、頑張りましたね、もう大丈夫ですよ」と声を掛けると、
義母は、ゆっくりと絞り出すように、
「ありがとうございます」と言った。

かすれた、小さな声ではあったけれど、それは久しぶりに聞く、義母の声だった。そして、私が最後に聞いた、義母の言葉になった。

診察の後、医師は感心した様子で、
「三十年診させていただいていますが、本当に強い方だと思います」と言った。

(義母が強い!?本当か?)
思いもしないことで、少し驚く。

それから、
「今、体の機能はギリギリの状態です。これからは一日、一日が寿命と思ってください」とも。
(どうにか持ち直したけれども、この先はわからないということか…)

点滴が終わる頃に、看護師が来るとのこと。点滴が外れたら、再び口から栄養をとらないとならない。
うまくいくだろうか、不安になる。
酸素吸入はしばらく続けるとのこと。

義母の唇が乾燥していて、医師から
「ワセリンはありますか?」と聞かれたが、あいにく無い…汗。

「ハチミツでも良いですよ」
だが、こちらも無し。
正確には、あったのだけど、瓶の底でガチガチになっていた…汗

ふと思いついて、ホットケーキシロップで代用してもらう。

医師はホットケーキシロップを指にとると、義母に声をかけてから、シロップを義母の唇に塗り、次に口を開けさせ、舌の上にも、数滴分を乗せた。
義母はゆっくりと飲み込んだ。

帰りがけに医師から
「お義母さんが戻られて、どのくらいになりましたか?」と聞かれたので、
「今年の1月に戻ったので、7ヶ月になります」と答えると、
医師は「本当によくやっておられます。立派です」と労いの声をかけてくれた。

医師やケアマネ氏、介護サービスの支えがあってのことなので、しかも、介護のメインは夫であるので、恐縮しながら聞いた。そして、夫に伝えた。


昨日、義姉が義母の様子を見に来たらしい。義父によると、義母の顔を見て、すぐに帰ったとのこと。
義姉は、私たちには声をかけることはなかった。義兄は顔も見せない(家の敷居をまたげない事情もある)

おそらく、母と子の間の問題が拗れたままなのだろう。ここまで来ると、本当の気持ちを隠すことができないのだ。

ところが、最近の義母の顔つきときたら、顔を見せない義兄にそっくりで、見るたび、「ぎょっ」とする。申し訳ないのだけれど。
そのことを夫に言うと、義兄の顔はもう思い出せないのだそう。

こうして、義母の最後の七日間が始まったのだった。

在宅介護*観察日記『義母帰る』

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