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【SNS投稿和訳】ウクライナ戦況:チャシウ・ヤール戦分析(エミール・カステヘルミ氏)

フィンランドのOSINTアナリストで軍事史家のエミール・カステヘルミ氏が、ウクライナ東部チャシウ・ヤール方面の戦況分析をXに投稿しています(日本時間2024年4月17日午前2時投稿)。以下は、その連続投稿の日本語訳になります。また、翻訳記事で用いた画像は、カステヘルミ氏の投稿から転載しました。

日本語訳

ウクライナにおいて目下、最も重要な意味をもつ戦いの一つが、チャシウ・ヤール[Chasiv Yar]という小都市で続いている。

この連続投稿で私は、現在の状況、防衛準備状況、地形、参加部隊、さまざまなシナリオと今後の展開に関して、分析を進めていくつもりだ。

チャシウ・ヤールは重要な都市だ。この都市は、複数の道路が交わるコスチャンティニウカ[Kostiantynivka]という極めて重要な町や、ほかのドネツィク州諸都市の手前に位置する、ある程度の規模の住宅地域をもつ最後の地点である。チャシウ・ヤールの包囲は困難だ。なぜなら、ドネツ・ドンバス運河が機械化部隊にとっての大きな障害になっているからだ。

チャシウ・ヤールの北方と南方にウクライナは、複数層からなる塹壕・その他防衛拠点を構築している。たとえロシア軍がいずれかの地点で運河を何とか渡ることができても、ロシア軍がこの地域に深刻な脅威を及ぼすには、複数ある強化防御陣地を突破しなければならない。

運河と強化防御陣地群に加えて、チャシウ・ヤールの地形は敵軍にさらなる困難をもたらす。この地域には、小さな池や野原が点在し、工業地区もいくつか散在している。また、チャシウ・ヤールは高地に位置している。

現時点で、ロシアはもうすでにチャシウ・ヤールの東端、運河地区[KANAL]と呼ばれる地区内に進入している。この地区の建造物は、防御陣地として比較的良好な拠点になることができる。だが、防御側への補給は、必ず開豁地を通り、運河を渡って送られることになる。これは問題を招きかねない。

森林や地表が覆われた場所は防御側を守るものになるが、このような地形はまた、難しい問題も生むことになる。この種の地形は、ロシア軍が、いわゆる浸透戦術を用いて、歩兵攻撃を実施することを可能にする。ロシア軍のこのような戦術行動は、同種の地形において、以前から確認されている。

このことは、ロシア軍が今後、上述の地形上の「回廊」に歩兵分遣隊を投じて、防御側をしつこく消耗させようとしていくことを意味する。その目的は利用できる裂け目を探すことにある。ロシア軍はそれと並行して、この都市のほかの場所に展開しているウクライナ軍に圧力をかけていくだろう。もしうまくいけば、そこは増強されることになる。

上述した要素を踏まえると、運河地区を保持し続けられるかどうかは微妙だ。ロシア軍は北側からウクライナ軍防衛網内に浸透することで、ウクライナ側補給路の遮断を試みることができる。そして、ここの地形は、装甲車両に支援された、ずっと規模の大きな反撃を行うのに適していない。

上記のような樹木が生い茂っていたり、地表が草で覆われていたりする地形を保持するには、もっと多くの兵力が必要だ。ウクライナ軍は即応態勢の整った予備戦力をもっておく必要がある。そうすることで間隙が生じた場合にすぐさまそこを埋めることができる。このことような態勢を整えることは、ウクライナ軍の各旅団にとって、困難である可能性がある。ウクライナ軍の旅団は、完全に戦力が充足した状態で戦っているわけではないからだ。一方でロシアは、消費してもよいマンパワーを十分にもっている。

チャシウ・ヤールの戦いにおいて、ロシア軍はテルニー[Terny]やノヴォミハイリウカ[Novomykhailivka]、アウジーウカ[Avdiivka]西方の開豁地のような、ほかの方面での作戦で失ったほど、車両を甚大に失わずにすむ可能性がある。入手可能なデータは、チャシウ・ヤール方面で極めて多くの装備損失があることを、これまでのところは示していない。

ここ最近、ほかの方面で甚大な損失が生じたことを考えると、ロシアがチャシウ・ヤールで歩兵主体の戦術行動に転換したいと考えたとしても、それは驚くべきことではない。また、チャシウ・ヤール方面の地形、そして、ウクライナ軍の砲弾不足が、ロシア軍の方針転換を可能にしている面もある。

次に、どの部隊がこの地域で戦っているのかをみていこう。

ロシア軍はチャシウ・ヤール周辺において、以下の編制に属する部隊を展開させている可能性が高い。

第98親衛空挺師団
第11独立空中強襲旅団
第4・第85・第200自動車化狙撃旅団

これに加えて、ほかの編制に属する連隊と地域編成連隊もしくは予備役連隊が存在する。

「セーヴェルV[Sever V]」旅団はおそらくこの地域に配置されている。「テレク[Terek]」コサック旅団も展開している可能性がある。これら部隊の実際の規模は不明である。

なお、この文章で、"〇〇に属する「部隊」"と書かれている場合、その編制[*注:連隊・旅団・師団等]下の全部隊が戦闘に加わっていることを意味しているわけではないことに、くれぐれもご注意いただきたい。

チャシウ・ヤール方面のウクライナ軍部隊は以下だ。

第42・56・67・92・93機械化旅団に属する部隊
第112地域防衛旅団
おそらく予備戦力として第5強襲旅団も

また、第17戦車旅団や第114地域防衛旅団のような、上述以外の編制に属する部隊も展開している可能性がある。

なお、ウクライナ軍旅団の多くは兵力不足に苦しんでおり、このことは現在、比較的短い戦線上に展開していることの理由になるのかもしれない。ロシア軍が兵力不足問題に、少なくともウクライナ側と同じくらいの深刻さで、直面していることを示唆する兆候はない。

依然として実際に突破が起こる可能性はまれであり、ウクライナ軍はまだ防衛戦を戦うことができる状況だ。たとえロシア軍が最終的にチャシウ・ヤールを通って何とか突進できたとしても、それによってロシア軍が自動的にドネツィク州で戦略的な大勝利を獲得するわけではない。

バフムートからチャシウ・ヤール東端までの約5~6kmを進むのに、ロシア軍はほぼ1年かかった。とはいえ、ウクライナは現在、以前よりも悪い状況下に置かれており、さまざまなシナリオが想定されうる。ロシアがドネツィク州で大きな領土を占領したいと思うなら、そのときは今なのだ。

ウクライナがどうにかチャシウ・ヤール保持を成し遂げた場合、ロシア側の政治敵目標の達成はかなり大きく困難になるだろう。コスチャンティニウカからクラマトルシク[Kramatorsk]に至る「都市ベルト地帯」に向かう近道はほかになく、それゆえ、ここでの攻勢の失敗は、別の方面でよりいっそう厳しい戦いが生じることを意味する。

私たち「ブラックバード・グループ」は継続的に地図更新と戦争分析を行っており、その期間は現在、800日間ほどになっています。最近、私は少々忙しく、あまり多く投稿できていませんが、私たち制作のインタラクティブ地図は、もちろんほぼ毎日、更新されています。

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