【抄訳】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 1945 ET 13.04.2024 《チャシウ・ヤール陥落がウクライナにもたらす可能性のある脅威》
本記事は、戦争研究所（ISW）の2024年４月13日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
チャシウ・ヤール陥落がウクライナにもたらす可能性のある脅威
報告書原文からの引用（英文）
Russian forces are pursuing at least three operational-level efforts that are not mutually reinforcing but let Russian forces prioritize grinding, tactical gains on a single sector of their choice at a time. Ukrainian forces will increasingly struggle to defend against these Russian efforts the longer Ukraine lacks further US military assistance. [. . .]
The Russian military command likely assesses that Ukrainian forces will be unable to defend against current and future Russian offensive operations due to delays in or the permanent end of US military assistance. [. . .] If the United States does not resume providing aid to Ukraine and Ukrainian forces continue to lack essential artillery and air defense munitions in particular, however, even badly-trained and poorly-equipped Russian troops might be able to conduct successful offensive operations.
The offensive effort to seize Chasiv Yar offers Russian forces the most immediate prospects for operationally significant advances as the seizure of the town would likely allow Russian forces to launch subsequent offensive operations against the cities that form in effect a significant Ukrainian defensive belt in Donetsk Oblast. [. . .]
//MAP//
Russian threats to Druzhkivka and Kostyantynivka are very operationally significant since these “fortress” cities help form the backbone of the Ukrainian defense in Donetsk Oblast and of eastern Ukraine in general. [. . .]
//MAP//
[. . .] ISW is neither forecasting that Russian forces will seize Chasiv Yar nor forecasting that Russian forces will be able to threaten or even seize Kostyantynivka or Druzhkivka. ISW offers these considerations of the threat that the Russian seizure of Chasiv Yar would present because they are a plausible most dangerous course of action (MDCOA) especially if the US does not rapidly resume the provision of military assistance to Ukraine.
Russian forces may not be able to seize Chasiv Yar rapidly and would likely struggle to leverage its operational significance immediately as long as Ukrainian forces have the resources needed to hold their positions. [. . .]
Ukrainian artillery and air defense shortages resulting from the lack of US security assistance are allowing Russian mechanized forces to make marginal tactical advances, and future Russian mechanized assaults may be able to achieve more significant gains should the US continue to withhold assistance to Ukraine. [. . .]
日本語訳
ロシア軍は目下、３方向の作戦レベルの取り組みを進めている。これらの取り組みは、互いにその作戦を強化するものではないが、ロシア軍が一時期に自らが選択した地区で、他よりも優先して、苦戦しながらゆっくりと戦術的な戦果をあげることを許容している。ウクライナへのさらなる米国の軍事支援が欠く期間が長くなればなるほど、ウクライナ軍はこのようなロシア軍の取り組みを阻止することに、今後、ますます苦心することになる。［. . .］
米国の軍事支援の遅延もしくは軍事支援の終焉の結果、ウクライナ軍は現在の、そして今後のロシア軍の攻勢作戦に抵抗することができなくなると、ロシア軍統帥部が評価判断している可能性は高い。［. . .］もし米国がウクライナへの支援を再開せず、特にウクライナ軍が必要不可欠な砲弾と防空用弾頭の不足に今後も直面し続けることになれば、練度の低い、不十分な装備のロシア軍部隊でさえ、攻勢作戦の遂行に成功できるかもしれない。
チャシウ・ヤール［Chasiv Yar］占領を目指す攻勢努力は、ロシア軍に最もすぐに掴みとれる展望を与えることになる。具体的には、この都市の占領に成功すれば、ドネツィク州で大きな意味を有するウクライナ側防衛ベルト地帯を事実上形成している都市群に対する攻勢作戦を、ロシア軍はチャシウ・ヤール占領に続くかたちで発動することができる可能性が高くなる。［. . .］
上記地図内記述の日本語訳
ウクライナ側要塞都市の戦前人口
スロヴヤンシク［Sloviansk］：～11万１千人
クラマトルシク［Kramatorsk］：～15万７千人
ドルジキウカ［Druzhkivka］：～５万４千人
コスチャンティニウカ［Kostiantynivka］：〜７万人
ポクロウシク［Pokrovsk］：〜６万２千人
バフムート［Bakhmut］：〜７万３千人
前線からウクライナ側要塞都市までの距離
前線からスロヴヤンシクまで：21km
前線からクラマトルシクまで：20km
前線からドルジキウカまで：12km
前線からコスチャンティニウカまで：12km
前線からポクロウシクまで：30km
［※点線で囲まれて箇所について］ドネツィク州におけるウクライナ側の作戦上重要な要塞都市群
ウクライナ側要塞都市群は、現在もウクライナのドネツィク州防衛のバックボーンである。
［※点線で囲まれて箇所について］ロシア軍がチャシウ・ヤール（バフムートから西方に位置）の奪取に成功した場合、ロシア軍は作戦上大きな意味を有する要塞都市群を攻撃できるようになり、コスチャンティニウカ（前線から12km後方に位置）を要塞都市ベルト地帯から切り離すことも潜在的には可能になる。このことはドネツィク州のウクライナ側防衛のバックボーンを損なうことになるだろう。
コスチャンティニウカが奪取できれば、ロシア軍は北からトレツィクを、南からドルジキウカを攻撃できるようになり、また、ポクロウシクに向かって南西に進む、もしくは、ドニプロペトロウシク州［Dnipropetrovsk Oblast］に向かって真西に進むこともできるようになる。
ドルジキウカとコスチャンティニウカへのロシア軍の脅威は、作戦的にみて極めて深刻なものである。なぜなら、この二つの要塞都市は、ウクライナのドネツィク州防衛のバックボーンを形成する支えになっており、また、ウクライナ東部全体のバックボーンを形成する支えでもあるからだ。［. . .］
上記地図内記述の日本語訳
ロシア軍がチャシウ・ヤール（バフムートから西方に位置）の奪取に成功した場合、ロシア軍は作戦上大きな意味を有する要塞都市軍を攻撃できるようになり、コスチャンティニウカ（前線から12km後方に位置）を要塞都市ベルト地帯から切り離すことも潜在的には可能になる。このことはドネツィク州のウクライナ側防衛のバックボーンを損なうことになるだろう。
［※地図右端の赤色の戦線箇所］2024年４月４日、ロシア軍はチャシウ・ヤール東側郊外に向かって前進した。
［※赤点線矢印の上］ロシア軍が今後、チャシウ・ヤールからオレクシーエヴォ・ドルジキウカ［Okeksiievo-Druzhkivka］へと15km前進すると、コスチャンティニウカは残りの要塞都市群と切り離されてしまう。
ウクライナ側要塞都市ベルト地帯とロシア軍前線との間に広がる地形は、主に開豁地であって、防護・隠蔽効果に限りがある。
ウクライナ軍はこれまで、このような開けた野外でのロシア軍の進撃を許さない能力をはっきりと示してきた。そして、十分な砲弾と防空用弾頭が与えられれば、間違いなく再びそうできる。
［. . .］ISWは、ロシア軍がチャシウ・ヤールを占領することを予想するつもりもなければ、ロシア軍がコスチャンティニウカやドルジキウカに脅威を及ぼすことができる、もしくは、占領することさえできることを予想するつもりもない。ISWが提供したいのは、ロシア軍が仮にチャシウ・ヤールを占領した場合に現前する脅威を検討する理由が、さまざまあるということなのだ。なぜなら、特に米国がウクライナへの軍事支援供与を急ぎ再開しない場合、ここで検討したことは、今後起こりうる"最も危険な動向（MDCOA）"になるからだ。
ロシア軍はチャシウ・ヤールを奪取できない可能性があり、ウクライナ軍がその拠点陣地を保持するのに必要なリソースをもっている限り、ロシア軍は作戦的に重要な要素をすぐさま活用していくことに苦慮することになる可能性が高いだろう。［. . .］
米国の安全保障支援の欠如に端を発するウクライナ軍砲撃能力と防空能力の不足は、ロシア軍機械化戦力に、わずかであるとはいえ戦術レベルの前進を許す結果になっている。そして、万が一米国が引き続きウクライナ支援を差し控えることになる場合、今後のロシア軍機械化部隊攻撃は、さらに重要かつ大きな戦果の達成をあげるという結果を導くことができるようになる可能性がある。［. . .］
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