本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年4月25日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ドネツィク州方面で攻勢強めるロシア軍
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ロシア軍はアウジーウカ[Avdiivka]の北西に形成した小さな突出部の安定化を図っており、今後、ここでさらなる戦術的な戦果をあげていく可能性もある。このような戦果拡張に成功すれば、ウクライナ軍が、アウジーウカ西方の戦線上に位置するほかの防御拠点から、もっと防御し易い防衛線へと後退することを招く可能性がある。4月25日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がノヴォバフムティウカ[Novobakhmutivka]から進んで、ソロヴョヴェ[Solovyove](アウジーウカから北西)の中央部に進入したことが分かる。4月24日から25日の夜にノヴォバフムティウカ全体がロシア軍に占領された可能性が高く、その後にソロヴョヴェ中央部へのロシア軍の進入が起こった。ロシア側情報筋の主張によると、ロシア軍は4月25日にソロヴョヴェ全域を占拠し、4月24日から25日の夜にノヴォカリノヴェ[Novokalynove](アウジーウカから北西)の集落内東側に最大2km進入したとのことだ。ロシア側情報筋は、第15自動車化狙撃旅団(中央軍管区[CMD]第2諸兵科連合軍[CAA])とアルバト[Arbat]・スペツナズ大隊に所属する部隊が、ノヴォバフムティウカとソロヴョヴェの集落内で前進したと主張した。アウジーウカから北西方向の戦線に、ロシア軍はおおむね1個増強師団相当の戦力(構成戦力の中心はCMD隷下の4個旅団)を投入している。そして、4月18日時点でオチェレティネ[Ocheretyne](アウジーウカから北西)という集落の内部にロシア軍がかなり進入したのに続いて、同軍はこの地区でウクライナ側防衛線への突進箇所の幅を広げようと試みている模様だ。アウジーウカから北西の地点における最近のロシア軍の戦果獲得は、比較的迅速になされたものではあるが、依然として局所的なものであり、ロシア軍は4月18日以降、最大でも約5kmしか進めていない。ロシア軍は今もアウジーウカ西方の戦線の各所で攻勢作戦を続けているが、現状、アウジーウカ西方及び同市から南西の地点において、漸進的かつわずかな戦果しかあげられていない。
ロシア軍突出部の幅を広げることになったノヴォバフムティウカとソロヴョヴェでのロシア軍の前進は、アウジーウカから北西の方向に沿って進められており、突進箇所の幅をさらに広げていくためのよりしっかりとした発起点を、ロシア軍に与えている。この突出部の幅は、最も広いところで最大2kmである。とはいえ、仮にウクライナ軍がこの地区における戦術的状況を安定化させた場合、この突出部はウクライナ軍からの反撃に対して脆弱な状態に置かれたままになるだろう。オチェレティネという集落に関してとりわけ注目すべき点として、2024年2月中旬のアウジーウカ占領以降、ロシア軍によって攻撃され続けているウクライナ側防衛線と、そのさらに西方に続く防衛線をつなぐ場所に、オチェレティネが位置しているということがある。なお、後者の防衛線のことをロシア側情報筋は、より強固な防御が施された防衛線として認識している。ロシア軍はアウジーウカから北西方向に伸びる突出部をさらに安定的なものにすることができるだろうし、その結果、ベルディチ~セメニウカ~ウマンシケ[Berdychi-Semenivka-Umanske]線沿いの陣地をウクライナ軍が保持することは、ますます難しくなるだろう。そして、この地区でロシア軍が獲得した戦術的戦果が、現在のウクライナ軍陣地に脅威を与えすぎるとウクライナ軍統帥部が判断した場合、同軍統帥部が自軍をさらに西方へと後退させるという決心をすることもありうる。2月中旬にロシア軍がアウジーウカを占領したのち、ウクライナ軍はアウジーウカから引き上げ、同市西方の比較的不十分な準備状況の陣地へと退き、ロシア軍の前進を遅らせ続けた。そこよりもっと西に後退するならば、ウクライナ軍はロシア軍の前進を弱める同じような機会を、もしくはもっとよい機会を得ることができるようになる可能性は高い。そして、その場合、ロシア軍はさらに西方にあるウクライナ軍陣地に引き続き圧力をかけるために、比較的テンポの速い攻勢作戦を維持する必要に迫られることになる可能性が高い。アウジーウカから北西の地点で攻撃中の部隊への補充と増強を、ロシア軍は今後、行わなければならなくなる可能性が高く、ベルディチ~セメニウカ~ウマンシケ線を越えて、西方へと迅速に前進するのに必要な攻勢作戦のテンポを維持できない可能性が高い。ロシア軍が今後も、アウジーウカから北西の地点で戦術レベルの戦果を引き続きあげていく可能性は高いが、このような戦果が作戦レベルで重要な大きな突進へと進展していく可能性は低く、当然のことながら、アウジーウカ西方のウクライナ軍防衛網の崩壊に結びつく可能性も低い。
アウジーウカ西方でのロシア軍攻勢作戦が、戦術レベルで戦果をあげる好機の活用を意図している一方で、チャシウ・ヤール[Chasiv Yar]占領を目指すロシア軍攻勢作戦は、ロシア軍に作戦レベルでの大進撃をもたらす最も手近な可能性を与えている。アウジーウカ方面のロシア軍は、伝えられている作戦目標であるポクロウシク[Pokrovsk]からまだ約30km離れた地点におり、ポクロウシクの東に位置する比較的大きな集落群からも17km近く離れている。ロシア軍があげた戦術的な戦果が原因で、ウクライナ軍がさらに西方の陣地に後退したとしても、アウジーウカから北西方向の地点であげた現在のロシア軍の戦果が、作戦レベルで重要かつ大きな進撃を生み出す可能性は、短期的にみて低い。一方で、チャシウ・ヤールにかかっているロシア軍の圧力は、もっと深刻な意味をもつ。現在、チャシウ・ヤール東側外周部に展開しているロシア軍は、2024年3月以降、同市占領に向けた取り組みを強化し続けている。チャシウ・ヤール占領に向けた攻勢努力は、作戦レベルの大進撃をもたらす最も手近な可能性を、ロシア軍に提供している。というのも、チャシウ・ヤールの占領に成功すれば、ウクライナ軍にとって重要なドネツィク州防衛ベルト地帯を形成する諸都市に向かうさらなる攻勢作戦を、ロシア軍が始められるようになる可能性が高くなるからだ。
ロシア軍がチャシウ・ヤールを占領してしまうという脅威は確実に存在しているが、同軍が迅速に同市を占領できない可能性も存在する。米国の安全保障支援がウクライナに届くことによって、ウクライナ軍の防衛能力が今後数週間のうちにかなり大きく改善してしまう前に、ロシア軍はできるだけ多くの領土を奪取しようと、現在、試みている可能性が高い。また、ロシア軍統帥部はアウジーウカから北西の方向での攻勢作戦を強化させていく可能性もある。なぜなら、この地域は、もっと迅速に戦術的戦果をあげる好機を、チャシウ・ヤール方面以上に、ロシア軍に大きく与えているからである。ただし、アウジーウカから北西の方向での戦果が生む作戦レベルの重要性は、相対的にみて低い。
関連記事