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【SNS投稿和訳】マイケル・コフマン氏のウクライナ情勢分析(日本時間2024.03.20投稿)

ロシア軍事の専門家マイケル・コフマン氏が日本時間2024年3月20日に、ウクライナ情勢の分析をXで連続投稿しています。以下はその日本語訳です。なお、この翻訳記事で用いた画像は、コフマン氏の投稿に添付されているものを転載しました。

日本語訳

最近行ったウクライナ現地調査旅行を受けての短い考察をいくつか。現在の情勢は厳しいが、ウクライナは前線の安定化に目下、努めている。これからの数カ月間に米国の支援が実施されるかどうか、そして、ウクライナがマンパワーに関する問題をうまく対処できるかどうかに、多くのことが左右される。

課題の中心は、マンパワー・防御陣地・砲弾である。これらは相互に結びついている問題だ。また、装備品維持の問題もある。この問題は、メンテナンスの現地化、多種多様な西側製装備品のスペアパーツ生産の現地化に向けてシフトしていく必要がある。

動員には元手が必要だ。西側の支援とウクライナのマンパワー問題は関連している。ウクライナに必要なのは、資金提供と訓練支援だ。だが、マンパワー問題の解決に着手し始めてから解決するまでの期間は、補正予算が通過した場合に砲弾を届けるのに必要な時間よりも、相当に長くなる。

ウクライナは、特にもっと多くの歩兵を必要としており、その歩兵に装備を与えるのは難しいことではない。大隊は実際に使える歩兵がほぼ無くなり、数個小隊しか残っていない状況に陥っており、重要な任務の遂行ができなくなっている。歩兵は攻撃に必要とされるだけでなく、現在構築を進めている防衛線や塹壕を保持するのにも必要なのだ。

動員というのは、単に、徴兵対象者に関して、もしくはもっと多くのマンパワーを確保することに関して、政策の変更を行うことだけで済むものではない。動員は、軍を安定化させるために、動員期間、動員解除、その他さまざまな問題に取り組むことを意味する。今現在、行われている軍内部でのマンパワーの確保は、よくいって間に合わせの措置に過ぎない。

全国レベルで野戦陣地を構築する計画が実行に移されているところで、ここでは多層防御線と、防御拠点システムもしくは要塞化地点システムが想定されている。当座の難題は、第一線部隊が保持している前方陣地の背後に存在する第二線陣地の弱さにある。

ウクライナ軍は砲弾不足で、砲身に関する問題も大きくなっている。この点に関して、西側からの物資面での支援は依然として必要不可欠なものになっている。米下院が補正予算の審議を続けるなか、砲弾不足とマンパワー問題が組み合わさって、ロシアが戦果をあげている。

5対1か6対1とされる現時点でのロシアの火力優勢は、かなりのものではあるが、決定的なものではない。深刻化している問題は、ロシア航空宇宙軍の滑空爆弾使用率が大きくなっていることだ。前線の何カ所かでは、一日あたり平均で30〜40発投下されており、その射程距離はますます長くなっている(40〜45kmから60km超へ)。

滑空爆弾の精度はかなり低いけれども、その破壊力は大きい。滑空爆弾の使用は、近接航空支援のかたちをとってはいないが、この爆弾は部隊を制圧し、建造物と強化防御陣地を破壊している。ウクライナ軍がアウジーウカから押し出されることになった理由の一つに、ロシア空軍が集中的にUMPK爆弾[*注:滑空爆弾の一種]を用いた爆撃を行ったことがあった。

2023年、ロシアはその損失分を埋め合わせることができ、そして追加の戦闘部隊もつくり出すことができた。このことは、ロシアが数十万人の募兵に成功した可能性が高いことを意味している。ロシア軍は2022年に動員した当初兵力と交替させるだけの兵力を生み出してはいないが、このことはモスクワにとって優先度の高い問題ではない。

ロシアの能力を制約する主たる要因は、砲弾でもなければマンパワーでもない。それは、装備と大規模に戦力を展開する能力(つまり質の問題)にある可能性が高い。現在の補充率を考えると、アウジーウカのような攻勢に、1個軍相当分の装備を使い尽くす余裕は、ロシア軍にはほとんどない。

ロシア軍装備品のほとんどが備蓄分から引き出されたもので、ゆっくりとソヴィエト時代の遺産を食い潰しつつある。新規生産数が増しているとはいえ、それが補充装備の20%を超えているというのは疑わしい。そのため、ロシア軍は(損失次第ではあるが) 2025〜2026年に装備品問題の深刻化に直面する可能性がある。

ロシア軍はいくつかの戦場で、攻撃時に将兵を輸送する戦場のタクシーとして、T-54/55戦車やML-LB[*注:ロシア軍の汎用装甲輸送車両]を投入している。その理由はBMP[*注:ロシア軍の歩兵戦闘車]もしくはより適切な車両が不足していることにある。ただし、このことは、ロシア軍がもうすぐAFV[*注:装甲戦闘車両]を使い尽くしてしまうことを意味するものではない。しかし、ロシア軍がAFVの使用を控えていることを明らかにしている。

ロシア軍の装備保全は、破壊指向型アプローチを意味しており、それは火力優勢を活用し、小部隊(小規模突撃部隊)を軸とするアプローチだ。この方法は漸進的な戦果をもたらすが、大規模な突破を生み出す可能性は低い(まさにウクライナ自身が2023年攻勢で示したように)。

この戦術を用いることで、ロシア軍は、もっと容易に前進できるはずの地域で、突破できないでいる。例えば、オリヒウ南方のロボティネ突出部のような場所でだ。一方で、当初のアウジーウカ強襲のような大規模な攻勢は、今年の夏と秋に遂行されることになる可能性が高い。

ロシア軍の長距離ドローンを迎撃するウクライナの能力は、向上している最中にある。その向上の基盤は、センサー網であり、電子戦システムであり、移動式防空グループであって、今やドローン攻撃の40%超を迎撃できている。安価な爆撃形態は、着実に安価な迎撃形態によって対抗されている。

前線の至る所で、ウクライナ軍はより統合された方法で戦っている。それは、連携・同期がさらに向上した、情報主導アプローチのなかで、電子的偵察システムや電子戦システムをドローン部隊と組み合わせるという方法だ。精鋭部隊において、これはシステムになっている。(例:マジャール[Madyar]・ドローン部隊)

ウクライナは今年、100万機の生産を目指して、FPV[一人称視点]ドローンの生産を拡大している。しかし、初歩的なFPVドローンはすでに電子戦システムによって対抗されてしまっている。この分野の競争は、数量的側面から質的側面へとますます移りつつある。ドローン部隊は、スキルと統合によって区別される。

現時点で攻撃用ドローンは、砲弾不足を埋め合わせる存在になっている(特に防衛作戦任務において)。しかし、攻撃用ドローンは、砲撃の規模とその効果範囲、そして、砲撃がもたらす制圧力といったことの埋め合わせにはならない。また、精鋭部隊の働きが、前線すべてで見られるわけでもない。

西側の支援を受けてウクライナ軍が安定化した場合、同軍は今年、ロシア軍の攻勢に対して持ちこたえることができるだろう。なお、ここで前提としていることは、これからの数カ月間に、野戦陣地化が完了すること(目下、進行中)、ウクライナが資金と砲弾支援を得ること、マンパワー問題がキーウの手で対処されることである。

[ロシア領内への]打撃作戦を拡大させることは、2024年戦略の一部にすべきと私が共著者とともに論じたことだが、国家としてのロシアに困難な問題を生み出すコストパフォーマンスのよい方法だ。ロシアのエネルギー・インフラへの攻撃は、この種の作戦の一例である。

西側の生産能力は増大しつつある。ウクライナの商用船舶航行はかなり増加している。2024年の1年間、ウクライナが持ちこたえられれば、この戦争でロシアが現在有している優位さは、必ずしも増大したり、決定的なものになったりはせず、反対に、時間とともにその優位さが減少していく可能性がある。

他方、今後の数カ月間に困難な政治的選択がなされなければ、ロシアの優位性は大きくなっていくだろう。そして、今年の後半にロシア軍が突破に成功するというリスクは、劇的に高まる。それゆえ、政治的意志とともに、時間が重要な要素になる。

今回取りあげたテーマに関するもっと深い議論に興味をお持ちの方は、ロブ・リー氏との直近の“Russia Contingency”を聴いてください。

また、ライアン・エヴァンスとつい先日行ったものも聴いてみてください(こちらは誰でもアクセス可)。

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