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【英文記事和訳】ウクライナ戦争:ロシアの勢いをいかに食い止めるのか(ミック・ライアン)

オーストラリア軍退役少将ミック・ライアン氏が、“ウクライナを負けさせない”戦略から、“ロシアを敗北させる”戦略転換する必要性を、上記リンク先の記事(2024年4月12日公開)で訴えています。

そのためには、ウクライナ自身の努力と並行して、西側諸国がもっと多くの負担とリスクを負う必要があります。そして、その負担とリスクは、西側自身の利益になるのです。

以下は、このライアン氏記事の日本語訳になります。

日本語訳

ウクライナ国内外の多くの人々にとって残念なことに、ロシアは現在、開戦初期に見せた行動や能力以上の回復力と適応力があることを示している。私は直近のウクライナ訪問から戻ったばかりなのだが、当地では、政府及び軍関係者、シンクタンク関係者、ジャーナリストと話をすることができた。今回の訪問から得られた最も重要な点は、ロシアが今やこの戦争の戦略的勢いを獲得しているということの裏付けであった。

ロシアは初期の失敗の衝撃から心理的に立ち直りつつある。ロシア大統領とロシア政府は、ロシア軍作戦の進展に関して、新たな楽観論的感覚を抱いている。この2年間にロシア軍は戦闘遂行能力に関する変革を進めているが、これまでの10年間の改革において進めてこなかったことだ。ロシアの国防産業は、軍事物資の生産を大幅に拡張しつつ、冷戦期の備蓄の活用と休眠状態になっている工場施設の再生も進めている。

ロシアは最大規模の目標をもってこの戦争を始めたが、その目標を達成するための軍事能力に欠いていた。現在、ロシアはウクライナを従属させるのに必要な人的・物質的・情報的リソースを、2022年2月に大規模侵攻を始めたときには不可能だった方法で生み出すことができているようだ。

両陣営ともに学習能力と適応能力をはっきりと示し続けている。ウクライナは、戦術的適応もしくはボトムアップからの適応を進める能力に優れていることを示している。このことは、ドローンのような分野でウクライナが優位性を生み出していることにあらわれている。ロシアは戦略的適応の点で優位性を示している。とりわけ人的動員と工業生産の拡張という領域において、それがいえる。

ロシアは今や2年前と比べて、より危険な敵対者になっている。この結果、この戦争の戦い方を変えることが求められている。

ウクライナとその支援勢力がまずもって変えねばならないものは、戦争遂行の戦略だ。今まで西側は、ウクライナ防衛を主眼とした戦略的姿勢をとってきた。この態度はこれまでの間、ウクライナを生き残らせることを確実なものにしてきたが、ロシアが及ぼす危険がより増している状況で、「ウクライナを守る」という戦略は、今や敗北をもたらす戦略になっている。

ロシア大統領とその政府は現在、楽観主義的見方を新たに抱くようになっている。

NATOは「ウクライナを守る」政策から「ウクライナの地でロシアを敗北させる」政策へと転換する必要があり、それは極めて緊急性の高い、差し迫った要請だ。それと同時にウクライナは勝利の方程式をつくり出し、それを支援勢力と共有する必要がある。ウクライナ政府当局者の一人が私に語ったのは、現在、ウクライナが勝つ方法に関して、明確なビジョンが存在しないということだった。新しいウクライナの勝利の方程式は、西側の戦略を見直す際の基本原則的な要素であらねばならない。

このような戦略に必要なリソースというのは、国防費の増額、国防産業への発注増、ウクライナ支援の大幅な増加になる。これは負担であるとはいえ、フィンランド、スウェーデン、バルト諸国、その他欧州各国に対して、ロシア政府当局者が脅しをかけていることを考えると、「ウクライナの地でロシアを敗北させる」戦略に資源と資金を投入しないことの代償は、万が一ロシアがウクライナを打ち負かした場合、長期的にみて桁違いに大きなものになる可能性がある。

迅速な変化が要求されるほかの領域に、戦略的コミュニケーションがある。ロシアの偽情報工作に対抗することは、民主主義国すべての責任である一方、ウクライナも戦略的情報発信を発展させていかなければならない。戦争が始まってから18カ月間のウクライナの影響力キャンペーンは、戦略的コミュニケーション術のお手本といえるものだった。しかし、反転攻勢の失敗に関心が集中したこと、最近の政軍関係の危機、関心がガザにシフトしたこと、動員を巡る政治的論争といったものの結果、世界のメディアと西側市民の注目度はウクライナからかなり離れてしまっている。

ウクライナを守ることの重要性、西側からの支援が死活的に重要である理由、そして、ロシアの勝利は避けられないという言説が誤っていることを理解してもらうための新しい情報発信を、ウクライナは見つけ出す必要がある。

情勢は厳しいものだ。大きな改善を示したロシアという難題は、外国からの軍事支援の不足によって、さらに難しい問題になっている。なお、支援不足は特に米国に起因するものが大きいが、オーストラリアのような国々からの不足もその一因である。とはいえ、ウクライナの戦略及び影響力キャンペーンを進化させる基盤を提供している戦争の領域も存在する。

熟練したウクライナの複合的戦略打撃作戦(情報工作、軍事計画、長射程でロシア側目標を攻撃できる空中・海洋ドローンの組み合わせ)は、黒海において、それと同様に、ロシア国内の航空基地や石油精製所に対しても、大きな成果をあげている。この能力は、常に射程と効力を向上させており、今後のウクライナ軍作戦の重要要素になるだろう。この複合的打撃作戦の発展は、過去2年間で、通常ではありえないほどの並外れた成果を示している。

ウクライナの国防産業もまた、過去2年間で急速な発展を示してきた。ソ連の解体に伴って縮小することができたが、その後、国防産業はウクライナ独自の軍事研究と軍需生産に新たな焦点を当てている。2022年から2023年にかけて、ウクライナ国内の軍事物資生産額は3倍に膨らんだ。それに続き、昨年は倍増した。砲弾生産は昨年、3倍になり、ウクライナは現在、数十万の小型ドローンの生産を行っており、それと並行して、より射程が長く搭載量の大きな大型ドローンを何千機も生産している。

ウクライナ・メディアとの最近のインタビューのなかで、ゼレンシキー大統領は、外国からもっと多くの支援がなければ、2024年を切り抜けることは、我が国にとって極めて難しくなるだろうと語った。この発言は、ウクライナを軍事的に、財政的に、人道的に、外交的に支援してきた者たちにとって、厳しい診断結果といえる。自国の国防産業の拡大、戦略的打撃能力、人的動員と配置の見直しを行うことによって、将来の攻勢に向けて再び力をつけるのに必要な確固たる基盤をウクライナはもつようになっている。だが、このような潜在能力を開花させるのに必要なことは、戦略の変更であり、また、西側諸国がもっと多く支援を行って、もっと多くのリスクを負うことである。

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