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日々


街のまんなかはがらんどうで、人も少なく活気がない。

久々に通りがかったお気に入りのお店はつぶれて閉店していた。見上げた空には雲がずっしりと並んでいる。心なしか吸い込む空気も少し薄くなったような、全体的に淡いような。

透明になってしまったお店の数々が歩くたびに目に入り、この現実を突きつけられる。私たちの毎日に少しずつ追加されていく、あたらしい日常。

「もうお客さんとはその話しかしていないですよ」
美容師さんがからからと言っていた。

「いつになったらおさまるんだろう」
「ご家族みんな、お元気ですか」
「大変だと思うけれど」
「早くいろんなことが落ち着くといいよね」
「ちゃんと元気でいようね」
「落ち着いたら会おうね」

口や指から伝い出る数々の決まり文句。元気でね、と末尾に添える。お祈りみたいに。

空っぽになっていくものもある一方、内側はじゅうぶんに満たしていたい。そして普通になってしまったふつうが遠く過ぎ去った後、底に溜まったものを思いきり吐き出し、身体いっぱいによきものを取り込みたい。少し苦いかもしれないけれど。

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