【本棚】宮地尚子『傷を愛せるか』
私は傷を愛せるだろうか。
いつからか弱さをさらけ出すこと、柔和であることはとても無防備なことであって、弱さとは克服すべきものだと考えるようになっていた。
「あなたはやさしいから」
そう言われるのが心底嫌だった。やさしさとは、強さと対極にあるものだと思っていたから。
いつしか私も「鎧」を身につけるようになって、わざと強い言葉を選び、できるだけ荒くあろうとしていた。
それもまた生きる上で必要なことなのだろうけれど。
「ヴァルネラビリティ」(脆弱性、弱さ、攻撃誘発性)について書かれた段で、作者は疑問を投げかける。
攻撃をかわし、自らが傷つかないように何重にも「鎧」をまとう方法は、果たして本当に有効なのか。
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では「悪貨は良貨を駆逐」してしまうのだろうか? 弱肉強食のルールに従って生きていくしかないのだろうか? そうではないと思う。弱さを抱えたまま生きていける世界を求めている人も多い。弱さそのものを尊いと思う人、愛しいと感じる人も多い。それもまた人間のもつ本性の一つだと思う。そうでなければ、弱き者はすでにすべて淘汰されていたはずだ。希望をなくす必要はない。
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そういえば自分の中に心の震えが起こるとき。
その震えを引き起こすなにかの中にはいつも、弱さが隠れているような気がする。
何事にも動じない100%の頑丈さでも、強靭で絶対的な力でも鈍感さでもない。それは弱くてやわらかい部分を内包した強さだ。
そこに自分の中のセンサーがざわざわと反応し、心が激しく揺さぶられるのだと思う。
「弱さを克服するのではなく、弱さを抱えたまま強くある可能性」
そのヒントになるようなものが、作者のやわらかで鋭く、繊細な感性と表現で随所に散りばめられている本。
出会えて本当によかった一冊📚
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