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食い物にされるがん患者

すい臓がん。
 
初期は症状がなく早期発見が難しい。
 
そのほとんどは、がんの種類としては腺がんに属し、治療困難。
 
私の叔父もこれで他界しました。
 
遺品整理で自宅に入ると、ついさっきまで生活していたかのごとし。
 
買ったばかりの炊飯器や、まだ残っている洗剤を切らさないために用意された詰め替え用洗剤など、死ぬことなど想定外な感じが生々しくまた悲しかった。
 
本当に突然だったのでしょう。


スティーブ・ジョブズを惑わす罠

すい臓がんで亡くなった人と言えば、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏も。
 
彼の場合は本人の意思で標準医療を拒否し、いわゆる民間療法(代替医療)に頼ったせいで命を縮めた可能性が指摘されています。

がん発見のきっかけは腎臓結石。
 
かつて結石を治療してくれた医師とたまたま再会し、勧められて5年ぶりにCTスキャンを行ったところ、腎臓に問題はなかったもののすい臓の部分に影が認められた。

その後の検査ですい臓がんが発覚したのが2003年。
 
しかしラッキーなことにこれは腺がんではなく、神経内分泌腫瘍という進行が遅い珍しいタイプだった。

転移前に外科的治療をすればかなり生存確率は上がる種類のすい臓がん。

しかも彼の場合、知己のある医師とのたまたまの邂逅ががん発見につながったのであり、その意味で早期の発見もまさにたまたま
 
なのに、彼はその治癒のチャンスを逸した。
 
その原因が民間療法。
 
ジョブズ氏がハマった療法の一つが食事療法。
 
果物、野菜、そして子牛の生の肝臓を混ぜた自然食を大量に摂取し、毎日コーヒー浣腸をしてデトックス、というもの。
 
もちろん本人が開発したわけではなく、それががんに効くと広めた人がいて、それに感化されたわけですね。

コーヒー浣腸は危険

ちなみにコーヒー浣腸に関しては日本でもそれによる医薬的効能を謳ってこれを販売し、薬事法違反で逮捕という事例があります(※)。
 
今でも検索すると、その有用性を主張する様々な情報が飛び交っており、普通にキットも販売されているコーヒー浣腸。
 
しかしその効果を示す科学的根拠はなく有害ですらある、と専門家は指摘します。
 
例えば酒井健司医師は、慢性の便秘が物理的な腸の圧迫や病気を誘発することはあるが、デトックス論者が言うような毒素の発生などはない、とし、コーヒー浣腸をはじめとするデトックス法に警鐘を鳴らします(※2)。
 
管理栄養士・成田崇信氏はコーヒー浣腸による細菌感染等のリスクを挙げつつ、「宿便やデトックスという言葉をきいたら用心しましょう」と(※3)。
 
宿便に関して言うと、その用語は医学的には慢性の便秘に伴う糞便塊を指すのであり、デトックス論者が言うような「腸のヒダの間に付着したコールタールのような古い便」というものは存在せず、従ってそれが発生する毒素が腸から吸収されて様々な病気を誘発するなどということもない、とのこと。

後悔先に立たず、がんは待ってくれない

このように問題の多い食事療法とデトックスですが、ジョブズ氏はこれに魅入られ、当初勧められた標準治療を拒否。
 
すい臓がん診断から9カ月後に改めてとったCTスキャンでは、大きくなったすい臓がんが確認され、ここに至ってやっと彼も外科手術を決意。
 
そしてこの手術で、肝臓に3か所の転移を認めたのでした。
 
「あの時こうしていたら‥」と、後付けで軽々に結論めいたことを言うことはできません。
 
しかし当初の診断時点で手術していれば、ステージIVまでの進行を食い止めることは高い確率でできたことは確かです。

求められる情報リテラシー

昭和の頃と比べれば医師と患者の関係は大きく変化し、昔のように医師がある種の権威をもって一つの治療法を押し付けるという風潮は減りました。

患者が主体的にセカンドオピニオンを求めるケースも一般化しています。

その分患者側の「自分で情報収集し自分で判断する」オプションが増大しています。

上述のコーヒー浣腸の市販キットにも、中には「自己責任で」との注意書きがあるものも。
 
医学の素人である患者が、自分の治療に関し主体的に判断を下し治療方針に意見をさしはさめる状況は、全体としては好ましい変化と言えるかもしれない。

しかしその自由度のために負わされる責任、これも必然でしょう。
 
情報が少ないわけではない。

求めれば、判断に必要な情報はネットを開けばいくらでも。

しかしそれがまた玉石混交だったりするのですね。

胆管がんで亡くなったタレントの川島なお美氏は、正当に主治医以外の医師にセカンドオピニオンを求め、それに従い手術を回避し、その結果死を早めたとも言われています。

専門家の意見が間違っている可能性なんて、素人の患者側が果たしてどのように予測できると言うのか?

ここで一つだけ言えるのは、「自分の体を開けられていじられたくない」、「きつい化学療法は嫌だ」、「時間がかかる治療で今掴みかかっているビジネスチャンスを失いたくない」、といった標準治療に関わる忌避感やデメリットを自分の中でどう評価するかがポイントということ。
 
そこから心理的負担が少ない、お手軽で短時間な別の治療法をネットなどで見つけ、実は効果なしor有害な治療法に飛びついてしまう可能性を指摘しておきたいと思います。
 
川島さんもセカンドオピニオンを求める相手選びにも、自分の嗜好に沿う内容基準で行う落とし穴があったのかもしれません。

「分かりやすさ」より、根拠を求めて「悩む」努力を

日本人の死因のトップはがん。
 
商売魂から見れば、魅力的な市場でしょうね、間違いなく。
 
がんへの不安な心理につけ込む悪徳商法としてのインチキがん治療法が、残念ながらこの世には存在する。

そして奴らは、分かりやすい言葉で近づいて来る。
 
まずはこの事実を肝に銘じたいものです。

その「効果」の根拠は?

追跡調査、二重盲検法、ランダム化比較試験はなされているのかな、とか。

大変ですよ、いちいち調べるのって。

でもジョブズ氏がした後悔の轍を踏まないために、それは無駄ではないかも知れません。

(※)https://www.yakujihou.com/yakujinews/3055/
最終更新日:2015年12月2日
最終確認日:2023年12月20日
 
(※2)「『宿便解消』をうたうデトックス法に注意 体重は減りません」、酒井健司
https://www.asahi.com/articles/ASQ6T5WG8Q6TTIPE00F.html
最終更新日:2022年6月27日
最終確認日:2023年12月20日
 
(※3)「コーヒー浣腸」って健康に良いの?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/naritatakanobu/20151203-00052085/
最終更新日:2015年12月3日
最終確認日:2023年12月20日
 

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