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「鬼」とは?

その昔(と言っても昭和ね)、NHK「みんなのうた」で人気のあった「赤鬼と青鬼のタンゴ」。
 
https://www.nhk.or.jp/minna/songs/MIN197712_01/
 
コワくない鬼たちがコミカルに歌って踊ります。
 
ホンモノの鬼は、こんなにかわいくはないでしょう。
 
しかしそもそもホンモノって?
 
私たち日本人の心の中の「鬼」像は、地域により時代により激変しています。
 
それらをあまねく探究してやろうという意欲作をここで展開するつもりは毛頭なく、またできるわけもない。
 
ただ、「鬼」概念のスタート状況についての一説を、ごくごく簡単に紹介ししてみようかと。

行き倒れが日常の時代

手塚治虫の大人気漫画「火の鳥」第五作・「鳳凰編」、舞台は奈良時代。
 
律令制化の「租」税(収穫した米の3%程度を国に納める)の俵を背負った百姓の行き倒れを描写。

税の重みに耐えかねて、口分田を捨てて逃げだす人の行き倒れなんかも相当あったでしょう。 
 
この頃は、現代の私たちには想像しがたいが、近隣の村同士での小競り合い、中には殺し合いになるような争いもわりと日常的。

伝染病蔓延や天候不順による飢饉に対し、今日のようなセーフティネットなど皆無の時代。

死体の処理方法も確立されていません。

そんなこんなで命を落とした人々の死体、あちこちに放置されていたのでしょう。

要は、今ではありえないことですが、山野のあちこちに死体が転がっている時代だったということ。

「赤駒を 山野にはがし捕りかにて 多摩の横山かしゆかやらむ」

古代に課された義務としては兵役もあり。
 
663年、朝鮮半島を舞台とした白村江の戦いで敗れた日本は、勝利を収めた朝鮮半島の国・新羅に対抗すべく、東国から北九州地域に、農民を防人として集めたのでした。
 
上述の句は万葉集からで、兵役で九州に向かう夫を見送る妻の歌。
 
馬を放逐してしまい、兵役に就く夫は「多摩の横山」を、馬でなく徒歩で任地へ向かわねばならないのか、と夫を気遣っています。
 
いや、気遣うなどと言う生易しいものではないでしょう。
 
兵役は3年。
 
3年プラスαの長きにわたり、還って来れるかどうかすら分からない人を待つ家族の心境って、察するに余りある。
 
歌に詠まれているこの横山の道、実は多摩丘陵内に現存します(諸説あり)。
 
昔、武蔵の国の人たちは西進する際、この道を南下して東海道を目指しました。
 
しかしこの行程がまたなんとも庶民想い(イヤミ)。
 
行き帰りの旅費(食事代)、そして武具までも自分持ち。
 
防人として招集するのに武器は自分で作れってどんだけだよ。
 
貨幣経済の発達していない時代、当然数十日分の食糧を持参できる訳もなく、途中でいかにして調達していたというのか?
 
○○氏が△△氏を滅ぼした、とか「織田が楽市を‥」とかの授業で習うような大きな流れよりかは、このように当時の生活の細かい実態に迫る方ががぜん僕は関心を惹かれます。
 
どんな自然観を持ち、どんなもの食べて、どんな景色の中で過ごしていたのか。

いくら薪を燃やしたって、冬の地べた(床なんかない)は氷のように冷たかったのでは?
 
吉野ケ里遺跡の状況はまあ分かってきたとして、ではその周囲にはどんな景色が広がっていて、環濠集落の外ではどんな暮らしがあったのか、それとも全く人はいなかったのか。
 
ま、そんなことはともかく、そういう訳で自力で関東から最前線の北九州へと往復しなければならなかった当時の庶民たち。
 
道々で倒れてしまう人も少なからずいたことでしょう。
 
沿道に転がる亡骸を眼にしながら、いったい彼らはどんな思いで歩を進めたのだろう。

国生みに見える腐乱死体像

古事記や日本書紀で伝えられる、イザナミとイザナギ二神の国生みの伝説。
 
日本国土を作った後、島を治める神々や川や山や石の神様など、多くの神様を生みました。
 
しかし火の神様を生んだ時に負ったやけどが元でイザナミは亡くなってしまいます。
 
愛する妻を失い嘆き悲しむイザナギ。
 
悲しみに耐えかね、妻を追い求めて死後の世界「黄泉の国」へ入り込んでいきます。
 
そこで目にしたのは腐敗しウジにたかられた醜い姿のイザナミ。
 
恥をかかせたと怒り追いかけてくるイザナミから、イザナギは何とか現世へと逃げ帰る、というストーリーでしたよね。
 
あの最後のシーンのイザナミの姿、あれなんかも行き倒れの姿そのものを表現したものだと言われています。
 
「愛する妻を失い」と書きましたが実際には古代の昔、死は命の消滅とは考えず、この世から別の世界への遷移と考える節がありました。
 
この神話でも、死後に行く国が黄泉の国と表現されています。
 
しかし仮にそう思っていたとしても、腐乱死体のあの姿のままで、向こうの世界にいると思うというのが私にはちょっと解せん。
 
別にそんな風に思わなくてもいいじゃん、と。
 
ところで、死体が腐敗し最終的に白骨化する過程をまじまじと観察できる人など、現代日本にはいないでしょう。
 
その様子を絵にしたものとして残っているのが「九相図」。
 
有名なのは小野小町のものですが、とにかく絵が生々しい(見たい方は検索)。
 
死体は腐敗の過程で最初は腐敗ガスによる色素変性で淡青藍色になり、内部で腐敗ガスが充満すると膨らみつつヘモグロビン崩壊により暗赤褐色を帯び、乾燥化してくると今度は黒色化して、やがて白骨化する。
 
これらが古代の人々が持つ、異世界の住人、青鬼・赤鬼・黒鬼の原初的なイメージとなった、ということです。
 
私が子供の頃「鬼」と言えば桃太郎伝説に出てくる鬼で、持っていた絵本の鬼は、みんなのうたのタンゴとは異なり、怖くかつとにかく「悪い」奴。
 
この物語とて本当は、岡山にあった古代の国「吉備」に対するヤマト政権の攻略・支配の過程をその起源とするとの説もあるのだが。
 
そうであれば征服者ヤマトは当然自らを正義(桃太郎)として描くでしょうし、必然的に吉備の国は悪人集団に。
 
鬼のイメージがハマった、のでしょう。
 
鬼の実像は、侵略者から自分たちの土地と生活を守る善良な人々、だったのかも知れません。

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