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人まね子ザルに陥らない魔法の言葉

アリスは気球にのり、ゆったりと空の旅を楽しんでいた。
 
ところが突然天気が急変。
 
突風で気球はあらぬ方向へ流されてしまう。
 
ずいぶん流されたところで、見渡すと全く知らない景色。
 
ボブはちょうどそのころ通りかかり、ただよってきた気球を見上げていた。
 
アリス「すみません。私は今どこにいるの?」
 
しばらく考えてボブは答えた。
 
「あなたは今気球に乗っていますよ。」


「なぜ」がミソ

ボブの回答は間違ってはいないが、さりとて役に立つ回答でもない。
 
質問者の意を介したものになっていないからですね。
 
ボブは、どこにいるかという問いに対し、質問者が気球に乗っているという見た目の事象をそのまま伝えた。
 
つまり、「どこにいるか?」という問いに対し、直接具体的に「○○にいる」と答えているのです。
 
もしボブが一呼吸おいて、「『なぜ』そんなことを聞いているのだろう?」と抽象化思考をすれば、答えは違ったものになるでしょう。
 
この、一呼吸おいて「なぜ」と問いかけるしぐさが重要です。
 
「なぜ」は「何が」とか「誰が」などと言う問いかけと異なり、具体的な対応物を一語で指し示す回答ができません。
 
必ず「○○が△△したから」と、文章で返す必要があります。
 
つまり、ちょっと質問の質が異なるのです。
 
「なぜ」この人はそんなことを聞いたのかと考えることで、異なる質問-回答軸を探しに行くことが可能となります。
 
まあ、気球の例はほぼ笑い話の類であり、実際にボブのように答える人はいないでしょうがね。

思考と回答をグレードアップ

アリスの問いかけの意図は、たいていの人には分かる。
 
でも例えば職場で、上司に唐突に「いま雨降ってる?」と訊ねられたら、どうします?
 
単純に降っているかどうか、窓の外を見て確かめて返答するのも選択肢の一つ。
 
でも、その質問をした上司の意図とは?
 
「なぜ」上司は雨の有無をあなたに訊いたのか?
 
食事に出たいけど傘持っていないから、心配で訊いたのかもしれません。
 
「傘お貸ししましょうか?」と返すと、「お、気の利くやつだな」とちょっとポイント稼げるかも。
 
もちろん社員食堂のある会社なら、この手は使えません。
 
明らかに降っている訳ないのにこの質問したのだとしたら?
 
油売ってないで早く外回りして来いよ、というあなたへの忠告でしょう。
 
そうなると「雨なんか降ってませんよ」などとのんきに返事している場合ではない。
 
とっととカバンもって飛び出しましょう。
 
もしあなたの会社が野球場の管理会社だったら?
 
降っていたとしたら、それがいつまで続くか確かめなければなりません。
 
続くようなら降雨中止の告知、いずれやみそうなら内野にカバーをかけるかどうかの検討が必要かもしれませんね。
 
さっきの質問は「俺に訊かれる前に確かめておけよ」という、これまたイヤミな詰問だったのかもしれません。
 
いずれにせよ、「なぜ」を考えることで、質問とそれへの対応の質がガラッと変わります。

日本の高等教育に足りないもの

政策研究大学院大学名誉教授の黒川清氏は、昨今クイズ番組に登場する東大生が象徴するものとして、欧米に比した日本の大学の暗記偏重を挙げ問題視します(※)。
 
この主張自体はすっかり言い古された感がありますね。
 
あなたも今までにどこかで聞いたことあるのでは?
 
黒川によれば欧米の大学は、一発勝負の筆記試験で入学の可否を決する日本と異なり、「高校までの成績、推薦状、課外活動や本人の興味についてのエッセー、大学担当者とのコミュニケーションなどを通じ、入学希望者の人間性や将来性を多角的に見」て決めます。
 
そして欧米の大学では、知識のストックを活かし、「なぜ?」を試行する訓練が勉強の中心である、とのこと。
 
自然科学分野において被引用数(その論文が参考文献として他の論文に引用される数)トップ10%以内にある論文数が、日本は20年前は4位だったのが今は13位と過去最低です。
 
知識を用いて自らの頭で「なぜ?」を考え議論する経験が少ない日本の高等教育の質の低さが研究者の成果の質の差に表れている、と黒川。
 
相対的地位が低下したのは事実として、その原因にこのような教育の質の差があるのかは断言できませんが、可能性の一つとしては大いに考えられるでしょう。
 
「なぜ」の問いかけで問題の質を変えて考える気質、身につけておいた方が良いのかもしれません。
 
 
(※)「常に『なぜか』を考えよ」、學士會会報、No. 966、p79 – 82
 

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