エキシビジョンレポート『第72回東京藝術大学卒業・修了作品展』 @東京藝術大学・東京都美術館 #001
先日、東京藝術大学(以下藝大)の卒展に行ってきました。日本の芸術系大学の最高峰。ワクワクしますよね。徒歩圏内にあるということもあって、散歩感覚で行けたのはいいけれど、すごいにぎわいで軽く目眩(めまい)。こんなにたくさんのひとが自分の作品を見てくれるのってうれしいだろうな。
今回も、数多くある作品の中で、自分の感性の赴くままに立ち止まって、琴線に触れたものだけ紹介させていただきます。アートを見る楽しみ、想像する喜びみたいなものを読んでくれたひとと分け合えたらと思います。
金森桜子さん 《MEMORANDUM》
今年の卒展は何かと真面目で退屈だなぁと思いながら早々と歩いていたら突然、この部屋で足を止めることに。考えても考えても理由はよくわからないけれど、雑多に並んださまざまなアートピースの「欠片(かけら)」のようなものがなんだか不思議と懐かしくて、旅行から帰ると自分の部屋がやっぱ落ち着くみたいな感じがして、ずっといたかった。頭じゃ理解できない時とか、言語化できない時の方がアートはよっぽど楽しい。メモよりも少し重厚な『備忘録』の意味を持つタイトル《MEMORANDUM》。落書きのようにも見える、でも絶対的なセンスを感じる “これから何かになろうとしている”、もしくは“かつて何かだった” 欠片に惹かれているのかもしれない。作家のステートメントにある
これがぼくらの等身大のアート感覚のような気がした。現在地を表現するなるとみんな大げさに考えたがるけれど、案外こうしたメモの集合体だったりするのだろうな。一つひとつをじっくり見ると繊細で難しいことやっている気がするけれど、滞在中多くの人が首をかしげて通り過ぎてったような気がしたからもったいない。ZINE があったら欲しかった。
髙木優希さん 《明日、あったはずの部屋》
日常を写真のようにリアルに描いた油絵作品かと思って、ぼーっと眺めているうちにこの蛍光灯のようなブルーライトがとても気持ちよくて吸い込まれそうになるのだけれど、見れば見るほどその違和感に気づいていく。よく見ると棚の本にはタイトルがなく、カーテンやベッドカバーの質感もなんか変だ。さっきまで気持ちいいと感じていた光もどこか不自然で違和感を感じるようになっていく。この不安・不穏な感情の呼び起こしこそがまさに作者の狙い。現実から虚像の世界へスライドさせるための罠。ぼくの中の『記憶』が、勝手に作品をコントロールして『違和感(または感動)』のトリガーを引く。これぞまさにアート体験だなと思ってただただ感心したのでした。
*こちらの卒業作品は『メトロ文化財団賞』を受賞して銀座駅内に再展示されるそうです。気になった方はぜひ。
しんどうあすかさん 《TokyoDetours》
東京・都会を切り取ったいろいろな写真の切り口を見てきたけれど、シンプルにコンポジションや色の捉え方が見事だなと思って、ずっと展示の前で立ち尽くした。嫉妬にも近い感じ。なぜなら高速道路や団地、シャッターやビルなど、街の隅々がこういう風にデザイン的に見えている時って結構あるし、ぼくもそうだったけれどカメラを持ちたてのひとはみんな一瞬こういう構図を試すと思うんだけれど、なかなかうまくいかないから。色も構図も両方となると見事で、こんなに衒い(てらい)なくさらっと組めてしまうのは本当に写真以外のセンス(例えばファッションとか)が鋭いんだろうなと思う(もちろんそういった写真以外のエッセンスが写真本体をよくすると思うのだけれど)。色を手繰り寄せる感じ、デザイン科というのも納得。得てしてデザインが上手なひとは写真が上手なひとが多いと思う。写真が上手なひとは写真よりデザインや建築を見ているなと思うし。もっともっと見たいなと思った。
つづく
あと7人います
※ 卒展はすでに終了しています
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