藝大から喫煙所が消えた話と、代わりに置かれた〇〇の噂

曇りの日に上野をぼんやり散歩していると、あるものを見つけることができます。

それは、雲の工場。そこからもくもく立ち上る白い柱は曇天を支えていて、なるほど雲ってのはここからできているのだな、となんとなく感動します。

その場所の名前は、喫煙所。

こんにちは、designing plus nineのmarimo(藝大3年)です。

今回は秘境(笑)藝大の喫煙所事情について書いていきます。ちなみに、

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藝大うごうごドラゴナイト 77

『前頭部広範囲に境界明瞭な砂粒状の不透過像および不定形の白色陰影を認める 次回来院までの一ヵ月間、絵筆は握らず、絵も鑑賞せず、自宅にて静養すべし』

 南雲医師の記した奇妙奇天烈な診断書は、いったん邦男伯父の手に渡った後、巡り巡って兄の哲史の目に触れることとなった。

 ごくごく大真面目に見当はずれな内容が記された診断所見を読了するなり邦男伯父は大爆笑したが、医療知識の乏しい兄は「真夜中に油絵なん

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藝大うごうごドラゴナイト 76

司はピカソ芸術を鑑賞中にぶっ倒れた余波で、脳神経外科を受診する羽目となった。

 蒼生整形外科が入居している医療ビルの別階にある南雲脳神経外科クリニックを訪れた司はCT撮影を終え、待合室の硬いソファに座っていると、診察室に来るよう告げられた。

 御年八十六歳だという南雲長吉医師は邦男伯父とは中国語研究会の同志であるらしいが、視力と記憶力がめっきりと衰えたせいか麻雀は滅法弱く、二回り、三回りも年下

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藝大うごうごドラゴナイト 75

東京都美術館で開催されている青の時代展に足を伸ばした司は『人生(ラ・ヴィ)』と題された絵の前で足に根が張ったようにしばらく動けずにいた。

 白のポロシャツの胸ポケットから顔を覗かせたティトはぽかんと口を開けて、借りてきた猫のように硬直している。

 青の時代の作品群は二十世紀における偉大な芸術家の抜け殻のようであった。

 無名時代のピカソの絵を生で観たのは初めてであったが、まったくピカソらしか

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藝大うごうごドラゴナイト 74

ゴールデンウィーク真っ盛りの上野動物園は小さな子供連れの夫婦や老人ばかりの団体ツアー客、ぺちゃくちゃお喋りしながら道に広がって歩く外国人観光客で溢れかえっていた。

 チケット販売機の前には即席の立て看板が置かれており、報道用カメラを抱えた中年の男は、マイクを両手で握った若作りのリポーターを撮影している。

 動物園の表門には「CAUTION」と書かれた黄色いバリケードテープが張られており、タマビ

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藝大うごうごドラゴナイト 73

琥珀色の命の水を平らげると、時差ボケと酔いのダブルパンチのせいで世界がひっくり返って見えたけれど、そのままぶっ倒れるのだけは何とか堪えた。せめて風呂に入って歯を磨いてから寝ようと思い、司はそのままふらふらと脱衣所へ向かった。

 風呂上がりに歯を磨き、頭を乾かし、トイレに行き、水を一杯飲んでから寝室に入る。連日窮屈なエコノミーシートに身体を預けてろくに眠れなかったからか、布団に入るとすぐに睡魔が襲

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藝大うごうごドラゴナイト 72

午後十時過ぎ、伯父宅の前を通ったが室内の灯りはもう消えていた。

 司が0泊2日の弾丸ツアーから帰宅すると「バー・祐子」はもう店仕舞いしたのか、母の恵麻はダイニングテーブルで頬杖をつきながら琥珀色の液体をちびちびと舐めていた。

 新聞紙を広げてはいるものの目は文字列を追っているようには見えず、つけっぱなしのテレビをぼうっと眺めている。

 見るものすべてが刺激的で、街全体が現代アートのビッグアッ

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藝大うごうごドラゴナイト 71

ディズマが檻を開けようと夢中になっている間、トランプ兵のひとりがこそこそと後ろ手に縛られた曾根崎の縄を緩めている。別のトランプ兵は市松模様の風呂敷を拾いあげると、ぱんぱんと叩いて皺を伸ばしている。

 頑丈な檻に手を焼いたディズマがようやく振り返ると、曾根崎はもう半分ほど自由の身になっていた。

 ハートとダイヤの赤いトランプ兵は須磨寄りの保釈派となり、クラブとスペードの黒いトランプ兵はディズマ寄

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藝大うごうごドラゴナイト 70

ひっ捕えられた曾根崎はトランプ兵たちに無理やりに立たされ、庭の片隅にある黒い檻の方へと連行されていく。

 檻が開かないのか、ディズマが檻の前でがちゃがちゃとなにか手間取っているが、形勢は極めてよろしくないと言えよう。外からこじ開けようにも容易には開かない檻の中に収監されでもしたら、その末路は餓死か衰弱死だ。

 司は後先考えもせず欄干に足をかけ、庭へ飛び降りようとしたが、途中ではっと我に返った。

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藝大うごうごドラゴナイト 69

断言してから急に恥ずかしくなり、司は赤面を誤魔化そうと大袈裟に頬を掻いた。

「それに僕、よく幻を見るんです。頭がおかしいのかなってちょっと悩んでいた時期もあったけど、慣れたらけっこう楽しくなりました。兄さんはしょっちゅう自分に酔っているし、どこかしら現実から乖離するのが須磨家の血なんですかね」

 足元が急にくすぐったくなり、テーブルクロスをめくると、オットワンが足首にまとわりついていた。

 

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