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三里浜砂丘地で農業を続ける村上農園の挑戦

福井県北部の坂井市、三里浜砂丘地という海岸線に沿った砂地で小松菜を栽培する村上農園さん。Park Coffee&Bagel(以下、Park.)では、おやきベーグルやスイーツに村上農園さんの小松菜を使わせていただいています。
現在、農地の面積は、露地(屋外での栽培)16ヘクタール、ハウス78棟(約2ヘクタール)あり、北陸で1番の面積になるそうです。通年で生産している小松菜に加え、初夏から秋にかけてつまみ菜を、秋以降は大根とにんじんを主に生産されています。


村上農園さんのハウス内で青々と成長した小松菜


三里浜で小松菜を作るという挑戦

「私たちの農園では、砂地では絶対無理だと言われていたことをやったんですよ。」と話してくださったのは、村上農園の上田佳輝さん。
小松菜が栽培されているハウスとその周辺には、砂地が広がっています。畑というと連想するような黒っぽい土ではなく、海岸の砂浜とほぼ同じ状態の砂地です。
「この砂漠みたいな砂地で野菜を栽培するのは本当に難しいんです。他の産地でも砂地で栽培されている所はありますが、多少土が入っていることが多いですね。三里浜は完全に砂なんです。」(上田さん)

小松菜ハウス周辺の砂地

村上農園での小松菜栽培は、現・代表の村上賢一さんが25年ほど前から始めたそうです。家族経営で、当初、村上さん家族と3、4人のパートさんでスタートした農園は、現在では3倍の規模になっています。

「農業は、その土地の土、天候の状態で作物の栽培方法がガラッと変わるんです。」と上田さんがその難しさについて話してくださいました。三里浜の砂地では、ハウスの入り口の開け閉めをして温度管理をしたり、一定の時間で定期的な水やりも欠かせません。たとえば、真夏で風の強い日はハウスを閉めておかないと、熱い砂が小松菜にかかって葉を痛めてしまいます。こうした苦労やデメリットも多い一方、砂地の特性として土で栽培するよりも小松菜の繊維質が細かく、柔らかく育つという特徴があります。砂地で小松菜を生産することを成功させた村上農園さんは、デメリットは大きいけれど土地の強みを活かすことで「三里浜でもっとできることがある」という想いで挑戦し続けています。


土地のデメリットを強みに変える逆転の発想

作物を生産するには過酷な環境の三里浜。「なぜそのような難しい場所でわざわざ作るのか」と言われるような場所です。その理由をお尋ねすると、「社長・村上は、逆転の発想をする人なんです。誰も作ろうとしない土地だからチャンスがある。みんながやらないから土地はあるし、その土地を活かしてできることがあるんだ、と言っています。」と上田さん。三里浜の特産物の一つにらっきょうがあります。らっきょうは砂丘地でも育てやすく、三年子栽培などで同地の特産物としても有名ですが、生産者の高齢化などによる畑の減少が課題にもなっています。らっきょうが生産できなくなった砂地が、そのまま何も作られずに空いてしまっている。村上農園さんは、その場所に新たな可能性を見出そうと砂地での小松菜の生産を試行錯誤されてきました。農園の規模が大きくなれば生産量は増えますが、その分、資材費や肥料、電気代が上がります。水やりにも一定量が必要ですが、1日に放水できる量にも制限があるため、その中でどうしたらベストな状態の野菜を作ることができるかを常に考えながら取り組まれています。

村上農園の小松菜ハウス

「土の方が作りやすいという点でいえば、砂を全部取り払って土を入れてしまえばいいのですが、それにはかなりの費用もかかります。日常で食べる野菜は単価が低いものだから、どれだけ生産コストを抑えながらよいものを提供できるかを考えながら、手間暇かけてやっています。」(上田さん)
農園では、有機栽培を行い、牛の堆肥を使って作物を育てています。土壌に使ったものは、野菜にも出てしまうので、できるだけ化学肥料を使わずに必要な栄養を与えられるように配慮されているそうです。

「いいものを作るのは当たり前という前提で、作物に対しては、日々どれだけ見てあげられて、どれだけ厳しくできるかですね。水もやりすぎると根腐れがおこりますし、常に観察して作物の状態を見てやるのを怠らないこと。農家はみんなそうだと思いますが、私は365日仕事をしていて、ずっとそのことを考えています。」(上田さん)
その年の気温、天候による変化は、農作物の生育に大きく影響します。野菜や果物の品質を保ち、よい状態で収穫するには、日ごとに異なる天気の状態を注意深く観察し、予測しながら対応することが必要です。ハウス栽培は、一般的に1人で管理できるのは20棟が限界といわれているそうですが、上田さんは村上農園さんの78棟をすべて管理されているとのこと。タイムスケジュールを作り、農園の若手のスタッフにもわかるように基本的な作業はマニュアル化し、適切なタイミングで水やりなど各ハウスの小松菜をケアされています。

「社長は、本当に命をかけてやっています。自分としても、自然の中で自然と関わりながらやる農業という仕事は、絶対的にそういう姿勢でやるものだと思っています。」(上田さん)

小松菜を育てるハウス内の砂地


農業で福井を盛り上げたいという想い

農園の村上社長は、農業を通して人と繋がり、地元を盛り上げていきたいという想いで、生産に関連したさまざまな取り組みをされています。生産物の6次化やメロンなど新しい作物の生産を始めるなどに加え、Instagram(https://www.instagram.com/murakami_farm/)での配信も積極的に行っています。「自分ができることは、野菜を作って、繋がりが生まれて、地元が盛り上がっていくこと」であると、常に語られているという村上社長。その想いが伝わるかのように、Instagramを通じて応援のコメントが届いたり、農園の野菜を使いたいという引き合いが地元のみならず他県からも寄せられるようになったそうです。また、農園では、海外からの農業研修生がともに働いています。海外からの研修生を受け入れたのは、福井県では村上農園さんが初めてなのだとか。Instagramには、生産物の投稿に加えて研修生が一生懸命農作業をしている姿やみんなで囲む食事の様子など、和気あいあいと過ごすシーンもアップされています。取材当日にもベトナムやカンボジアからの研修生が収穫した小松菜を一つ一つ丁寧に仕分けしている作業場も見学させていただきました。

収穫されたばかりのみずみずしい小松菜
一つ一つ手作業で仕分けされる小松菜
ベトナムやカンボジアから学びに来ている農業研修生

上田さんは、小松菜生産をはじめ農家としての想いを次のように語ります。
「今は資材費も高騰しているし、農業をやるには本当に厳しい状況です。そういう時代だからこそ、これまでと同じことをしていてはだめなんです。厳しい中でも、私たちが作る小松菜を通して、人と人が繋がっていくところにやりがいがあります。給食で子どもたちが小松菜を食べてくれるのも嬉しいですし、誇りに思いますね。丹精込めて作っているので地元はもちろん、他県の方にもぜひ食べていただきたいです。」

小松菜の状態を観察する上田さん

地元の給食の材料としても使われている村上農園さんの小松菜。小学生の娘さんがいる農園スタッフの柳澤さんは、いつも「今日の給食で小松菜はどんなふうに出た?」と聞いて、知らない料理方法であれば家でも試してみたりしているそうです。
小松菜といえば、炒め物、スープ、おひたしなどいくつか思い浮かぶレシピがあります。美味しくいただける食べ方を伺うと、「小松菜は、何かの野菜の代替品になる名脇役なんです。」と上田さんが教えてくださいました。「炒める、茹でる、蒸すといったどの調理法とも相性がいいので、野菜としては脇役のようなイメージがあるかもしれないけれど、ほうれん草やチンゲン菜の代わりに使ったり、何にでも美味しくアレンジできるところが小松菜の魅力です。」(上田さん)

上田さん(右)と農園スタッフの柳澤さん(左)

村上農園さんは、厳しい環境で挑戦しながら生産を続けられている一方で、ショップとのコラボや農家の仕事を体験できる収穫ワークショップの開催、Instagramの配信などで、農業を通した地域の活性化にも積極的に貢献されています。今年、Instagramで発信した廃棄寸前の「訳ありにんじん」販売の投稿が思わぬ反響を呼び、たくさんの注文・支援をいただいたそうです。中には「福井の野菜で料理をしてみよう」という地産地消がテーマの宿題でにんじんを買いに来た地域のお子さんもいたのだとか。農園の取り組みが消費者に伝わり、その地域で生産された農産物を地元で消費する地産地消にも繋がっています。


Park. で食べられる村上農園さんの野菜

村上農園さんの小松菜を使ったベーグルは、Park.で「おやきベーグル」として販売しています。小松菜の素材の味を活かしながら、隠し味の米五味噌を使った優しいおいしさのベーグルです。

小松菜のおやきベーグルは10月頃まで販売予定です。詳しくは、Park.のInstagramをご覧ください。

小松菜のおやきベーグル


※本記事の内容は、取材時(2023年9月)のものです。


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