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キタノブルーを踏襲した韓国ノワール 韓国映画【楽園の夜】

Netflixで先日公開された楽園の夜パク・フンジョン監督の新しき世界は、個人的に五本の指に入るくらい(いや3本の指かも)大好きな韓国映画なのですが、隻眼の虎とかV.I.P. 修羅の獣たちはあまりハマらなかったので、さて今回はどっちに転ぶのか?と半信半疑な気持ちで視聴しました。

主演はオム・テグ。過去作を検索してもメイン級の役ではヒットしてこないので恐らく大抜擢だったのかな。無国籍な顔にプロレスラーのような低い声でいい味出してます。済州島で出会う女性はチョン・ヨビン。彼女の空虚な目がこの映画のすべてを物語っているようでした。

序盤、これは香港映画?インファナル・アフェア?と思わず見間違えてしまいそうになりましたが、ゾクゾクするようなノワールな世界観が広がっていて、すぐに引き込まれました。

だけど話が展開していくうち、どうも既視感があり…。マフィアの抗争話は大分出尽くしているから新しいものが生まれにくいのだろうけど、「これきっと、あの人が企てたことでしょ」と思ってたらやっぱりその通りだったり、ストーリーに意外性はありません。最後のあのシーンもすごく良かったけれど、監督の別作品(作品名は伏せます)を観ていれば、「あ、またこれね」ってどうしても思い起こされてしまうし…。そういううがった見かたは嫌だけれど、せざるを得ないほどストーリーは既視感満載。

でも…。それでもこの楽園の夜は、とても良かったのです!
済州島に舞台を移してからのウットリしてしまうほどの映像の美しさ。海にやくざに影のある女性。青みがかった映像もカメラアングルも否が応でも北野武監督作品を彷彿とさせられます。でも、新しき世界の時のインファナルアフェアもそうだったけれど、この監督はオマージュが本当に秀逸。ちゃんと敬意と愛情がある上に似て非なるものに仕上げてくるから、誰も文句がつけられません。

【この先、ネタバレ注意です】
楽園の夜はよく見たことのあるやくざ映画だと思わせつつ、一味違いました。金と権力そして暴力で思い通りに動かせる社会。そんな社会の縮図のような犯罪組織で行われることはどうすることもできない…と思いきや、心底人生に絶望し、命への執着さえ失った者からすれば、そのセオリーは全く通用しません。テグとジェヨンは、組織やら秩序やら体裁やらそんなもの飛び越えて、ただ感情のままに動いていました。そのほとんどは怒りだったかもしれないけれど…。

テグは最期に自分の絶望を分かり合える人物、まさにファムファタールに出会えて救いがあったと思います。

ジェヨンが最後にやったことはテグの復讐でもあったけれど、彼女が今までの人生で抱いてきた激しい怒りの表れでもあった気がします。彼女が射撃の練習をしている時、「ぶっ殺したい奴が山ほどいるから」って笑いながら言っていたけれど、きっと本心だったと思うのです。

「お前らなんてどうとでもねじ伏せられる」と高を括っている組織(社会)に、最後に彼女が豪快に鉄槌を下してくれて、ものすごく爽快でした(笑)。倫理的には完全にアウトだけど、彼女はもうそんな次元で生きてはいなかったから。

でも一人、もしかしたら社会という枠組みで考えると一番悪いやつが生き残っていますよね。本当に悪いやつは、社会のド真ん中に平然と居座っている、しかも善人の顔をして…ということかな。

最後に彼女が聴いていた音楽が何だったのか気になります。何を思い起こしていたかは分からないけれど穏やかな表情の最期で、なんだか救われました。

まだこの映画の吸引力が何かを突き止められていないけれど、いつかまた見直す気がします…。

極私的好き度 ★★★★★★★★(8)


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