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「免疫力を高める食事」を本気で考えてみた!

 医師という職業をしていると、この病気に対する治療とかこの薬はどれぐらい効果があるか(つまりキレがいい薬かどうか)には詳しいが、食事に関してはそれほど重要視していない、つまり全体に対する栄養の勉強量は多くない。

  しかし、小児科医をしていると、微量元素が不足したりすることで皮膚炎(例えば亜鉛欠乏による腸性肢端皮膚炎)や心機能低下(脚気心)をきたす場合もあり栄養不足が病気につながることが多々あり地方会レベルでよく発表されているのをみる。
PICUに至っては、長期挿管で抜管を試みるときには十分栄養をつけて(ここではカロリーを指標に体重換算で十分かどうか判断)、呼吸リハビリを併用しながら抜管をトライするように、栄養は抜管の手助けになる重要な役割を担っている。

そこで今回、「免疫力を高める食事」を本気で考えてみた。

栄養学の書籍には:
・大根、にんじん、ごぼう、里いもなどの根菜類、きのこ類 体を温める効果がある。
・かぼちゃ、にんじん、ほうれん草などの緑黄色野菜 ビタミンAを豊富に含み粘膜を強くする働きがある。
・ごぼう、こんにゃく、えのきたけなど 食物繊維を多く含み腸内環境を整える働きがある。
・野菜類、果物など ビタミンCを多く含み、皮膚や粘膜の働きを強くする。
・ねぎ、にんにく、たまねぎなど ウイルスに対する抵抗力をつける働きがある。
・しょうゆ、みそなどの発酵食品 腸内の善玉菌を増やす効果がある。

民間療法では

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・アルコール度の高いお酒を飲む

・ネギを首に巻く

・熱い飲み物でのどを温める

・お茶でのうがい・口腔

「上の3つは効果なし 最後の「お茶でのうがい・口腔ケア」は病院でも用いられ、カテキン類のエピガロカテキンガレート(EGCg)が少量でウイルスの増殖を強く抑制する効果がある。

 論文検索でPubmed、dynamed、medical online論文を検索してみたがやはり明確なエビデンスのあるものは見出せなかった。そもそも論ではあるが、免疫力という定義がない、定量化できていないものを扱うことに無理がある。

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では、免疫力を数値化するため可能性のあるものは?
インターロイキン、インターフェロンγ、ナチュラルキラー(NK)細胞

 これらはいずれも免疫システムの中で産生されたり活性化されるもので、特にNK細胞は癌や感染症の防止に働く自然免疫の主役となる細胞で「笑いが免疫力をUPさせた」根拠にNK細胞活性化がある。

 結論として、免疫力を高めるような食事はないが、「免疫低下をきたすような食生活を送ることによる腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)や睡眠不足など日常リズムが乱れる生活は避ける」ことに尽きる。
食生活として、栄養バランスの良い食事や補酵素としてのビタミンを取る、腸内細菌を整えるため時々ヨーグルト、ヤクルトのような乳製品を摂取することがやはり大事だと考える。

 最近のトレンドとして「内なる外」である腸管は最大の免疫器官であることがわかり、腸管壁にあるパイエル板、腸管壁の下方部分にある粘膜固有層などが免疫系器官として局在する。腸管関連リンパ組織内共生細菌としてのアルカリゲネスはバイエル板内部の樹状細胞に作用し,IL-6などのサイトカイン産生を促進し,Thl7細胞の分化促進やIgA産生の促進など免疫を活性化させるとともに、アルカリゲネスは樹状細胞からのIL-10産生を誘導することで,過剰な炎症を抑制し,適度な免疫の活性化状態を維持している。
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)に対して糞便移植(FMT)が行われ、まだcontroversialながら効果があるとする論文も散見される。

 世の中に出回っている免疫力UP本ほど怪しいものはない。〇〇したら△△って人体はそんな簡単じゃない。
免疫やがんと関連づけながら宣伝されることが多いアガリクス、メシマコブ、プロポリス、サメ軟骨にはこれからも頼らず生きていこうと思う。

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