【短編】厠奇譚

僕は間に合うだろうか

仕事の帰り車を飛ばして走る

僕は間に合うだろうか

向かうは僕の実家
両親と妹の4人で暮らしている

僕は間に合うだろうか

家につき車を乱暴に駐車するなり
飛び出して玄関を開けようとする

ガチっ

急いでる時に限って鍵がかかっている
古く硬くなった玄関の鍵と格闘の末に解錠し
家の中に転がり込む

僕は間に合うだろうか

ベルトに手をかけおもむろにズボンを脱ぎ
廊下に脱ぎ散らかしたままトイレに駆け込む

右手で便座の蓋を開ける動作をしながら
左手でパンツを下ろす
勢いよく回れ左をしながら腰を下ろし
便座に座るか座らないかの瞬間……。

「ふぅ〜」

僕は間に合った

そう僕は仕事帰りの最中
腹痛に強襲され焦っていたのだ

ギリギリではあったが間に合った
この瞬間幸福感を少し感じてしまうのはなぜだろう

何はともあれよかった
お尻を拭いて壁に設置されている
ウォシュレットのボタンを押す

ウォシュレットの強さは最強にしている
強すぎてたまに肛門に逆流してしまうが
最強の方がしっかり洗えている気分がするのだ

一連の行為を終え
ウォシュレットの停止ボタンを押す

止まらない

ウォシュレットの停止ボタンを押す

止まらない

なんとこのタイミングで
ウォシュレットのリモコンが
電池が切れたか、壊れてしまったようだ

ポッチ、ポッチ
ウィンウィンウィン

ポッチ、ポッチ
ウィンウィンウィン

ポッチ、ポッチ
ウィンウィンウィン

反応しないことを理解しながらも
停止ボタンを押す僕
そして止まらないウォシュレット

なんてことだ!
このままじゃお尻に水を当てられっぱなしじゃないか!

この身動き取れず
お尻に水を当てられっぱなしという状況に
僕は絶望した

しかし待てよ
今は夕方、もうしばらくしたら両親か
妹が帰宅するかもしれない!

30分が経過した
誰も家に帰ってこない
こんな日に限って
帰ってこないなんて

ずっとウォシュレットに
お尻を洗われ続けている
僕は今世界中の誰よりきっと
お尻が綺麗なことだろう

しかも洗浄の強さを最強にしたまま
強さを下げることもできないので
時折水が逆流してくるので
お尻の中、例えば
エントランス程度の中にはい行ったところも
とても綺麗になっているだろう
次からは洗浄の強さを弱くすることを誓う

ながらく洗われ続けるお尻

「このままでは、肛門がふやけて肛門のシワが増えてしまう!」

そんなことを考える僕の脳みそのシワは確実に足りてなかった

2時間後

いまだに誰も家に帰ってこなかった
帰ってこなさすぎて手持ちのスマホで
お尻を洗われながら映画を1本観終わってしまった

ヒューマンドラマで
父と子の別れのシーンでは
感動がこみ上げ
顔を涙でグシャグシャして濡らした
お尻も止まらないウォシュレットでグシャグシャに濡れていた

途中から映画に感動して泣いているのか
今の惨状が情けなくて泣いているのか
わからなくなってきた

もしかしたら両親も妹も
二度と家に帰ってこないかもしれない
そうしたら僕はこのまま
トイレにこもって生きていかなくてはならないのだろうか
水分を取ることだけには困らなさそうだな

と思考もかなり弱りはじめた頃

ガラガラガラ

玄関の開く音が聞こえた

「おーーーい!おーーーい!」

僕は力一杯叫んだ

「どうしたの?」

帰ってきたのは母だった
トイレのドアの向こうから声がする
僕はウォシュレットのリモコンが効かなくなったことを説明し
ドアを開けてもいいからなんとかしてくれとお願いする

「鍵がかかってて開かないわよ」

うわーーーーん!

僕はつい叫んでしまった
誰も僕を助けることはできないのだ
この鍵のかかった閉鎖空間では

絶望に打ちのめされている
僕に母は言った

「便座のコンセト抜いたらいいんじゃない?」と

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短編のお話を書いてみました

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