ピープルフライドストーリー(52) カメとウサギとカミサマ    (…………1700文字程のストーリー)

【作者コメント: 最近のテレビドラマは、終了した「仮想儀礼」が良かった。あとは「グレイトギフト」「離婚しない男」「婚活1000本ノック」「不適切にもほどがある!」ほか初見の再放送の「松嶋菜々子主演版の家政婦のミタゾノ」ぐらいを見ている。……まぁ、それらは今回の作品とはほとんど何の関係もないんですが…。あと、視点さんの文章にもあった『完全教祖マニュアル』をちょっと読んでみようかな、と思ったりしてます……】

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……………………………(52)
 
   カメとウサギとカミサマ

            by 三毛乱

 カメは次回のウサギと競うレースのために体を鍛えていた。腕立て伏せや筋肉増強に良い食べ物や飲み物も摂取して、体力が増し、体格も数倍大きくした。
 いよいよのレース当日。
 ウサギは最初は前を走っていましたが、今回も途中で寝てしまい、カメがそれを横目に追い抜いてゴールを目指して走っていました。すると、白い服の白髪の老人が目の前にふっと現れた。
「カメよ。私はカミだ」
「えっ」
「君だけが見えるカミだ」
「カミ……サマですか?」
「そうだ。日本人とそれに関連する者などはカミサマと呼んだりする。ところで、今日のレースの具合はどうかな?」
「ええ、このままだと私の勝利になります」
「すると、お前が一着か」
「そうです」
「それは困る」
「えっ、どうしてですか?」
「人間社会で、カメがウサギと競走して一着になっては困るという人々が多くなってな。つまり、一着を競うのではなく、協調精神と平等精神を養うために、カメとウサギを同時に一着にする物語にしなければいけない、という意見が多くなってな」
「………」
「で、我々カミサマが、まあ実はカミサマといってもいろんなカミサマがいるんだが、協議の結果、今回のレースからカメとウサギが同着1位となるように操作する事になったのだ」
「そんなア……」
「まあ、時代の流れという事で理解してくれ。で、私が代表でここに現れた訳だが判ってくれたな」
「……」
 カメは完全には納得していませんでしたが、カミサマに逆らっても無理かなと思い、不承不承に承諾しました。
「よし、私も手伝うから」
 カミサマとカメはウサギの寝ている所に戻って来ました。カミサマはカメの甲羅の上にウサギが寝られるベッドをあっという間に造りました。さらに、そこへ寝ているウサギを移しました。ちっとやそっとでは起きない程の深い眠りのウサギなのでした。
 カメは難なくウサギを載せたまま力強くゴールへと走りました。ですが、しばらくすると、カメは止まり動きません。カミサマが近づいていくと、
「……すみません。カミサマ、無理です。いえ、体力的には大丈夫なのですが、精神的に無理なのです。私がこのレースのために費やした努力と時間を思うと、ウサギを載せて1位をめざす事は悔しくて恨めしくてしょうがありません。カミサマからどんなお叱りを受けても構いません。私は私だけでなければ走りません」
 カミサマはカメの顔を見て、無理強いするのは得策でないかと考え、ウサギを横に置くと直ぐにベッドも取り外しました。カメはお礼を言って走り出しました。
 カミサマは「う~む」と思案顔をしましたが、直ぐに寝ているウサギを夢遊病者のように動かす事にしました。二本足で立たせると、ウサギはゾンビのようにフラフラと歩き始めました。なかなか面白い姿なので、カミサマは最初からこうすれば良かったかもとニンマリしました。
 カメとウサギがゴール近くに来ると、観客たちの拍手と歓声がいっせいに起きました。ウサギはその音で目が覚めました。いつの間にか夢遊病のようにゴール近くまで二本足で来ていた事に気付いたウサギは、ちゃんとした走りとなって、上手い具合にカメと同時にゴール一着となりました。カメだけが見えていたカミサマも拍手をしていましたが、満足げにその姿がゆっくり消えていきました。
 ウサギは狐につままれたような気分でしたが、更にてれくさい気分にもなり、それをごまかすかのような「ふぁ~ぁ」とワザとらしい欠伸と背伸びまでして、これもまた上手くない演技のように体をあちこち動かしてから、ピョンと跳ねて消えて行きました。
 観客の拍手や歓声も消えて行きました。
 カメだけが残りました。
 カメは静かになったゴール近くに隠しておいたニンジンやリンゴなどを食べました。お腹がちょっと一段落ついてから、誰もいないゴール地点をボンヤリ眺めた後に漸く低い声でつぶやきました。
「ちぇッ、ちっとも面白くもねえや」

                終

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